『2001年宇宙の旅』の序盤は、読みづらい

原題の『2001:a space odyssey』のままのほうがカッコいいように思うのですが。

300万年前に地球に出現した謎の石板は、ヒトザルたちに何をしたか。月面に発見された同種の石板は、人類にとって何を意味するのか。宇宙船のコンピュータHAL9000は、なぜ人類に反乱を起こしたのか。唯一の生存者ボーマンはどこへ行き、何に出会い、何に変貌したのか……作者の新版序文を付した傑作の決定版!

読みづらい。後半はマシだけど、前半の猿人のあたりは本当に読みづらい。ここで挫折した人も多いんじゃないかしら。

位置: 213
まえがき  いま生きている人間ひとりひとりの背後には、三十人の幽霊が立っている。それが生者の死者に対する割合である。時のあけぼの以来、およそ一千億の人間が地球上に足跡を印した。  この数字はなかなか興味深い。というのは奇妙な偶然だが、われわれの属する宇宙、この銀河系に含まれる星の数が、またおよそ一千億なのだ。地上に生をうけた人間ひとりあたりに一個ずつ、この宇宙では星が輝いているのである。

導入が刺激的ですね。『銃・病原菌・鉄』みたい。最近では『ホモサピエンス全史』か。

位置: 737
しかしヒトザルがそうした大半の生物とちがっていたのは、子孫を残したことだった。彼らは絶滅したのではない──変貌をとげたのだ。道具を作った者が、道具自体によって作り直されたのである。

位置: 749
現在だけしか知覚しない動物とは異なり、ヒトは過去を手に入れた。そして未来へと手探りをはじめた。

ワクワクする導入部。いよいよ、これから人類史が始まるぞ……という。ただ、ここからが長い。冗長の始まりでした。一気に飛ばします。

位置: 1,208
基地に暮らす──というより、月に暮らす魅力のひとつは疑いもなく低重力にあり、それは心と体をゆったりした状態におく。とはいえ、低重力にはそれなりの危険もあり、新参の移住者が慣れるまでにはやはり数週間がかかる。月では、人体はまったく新しい反射運動を学ばなければならないからである。質量と重さがちがうということを、ここではじめて知るのだ。
地球で七十八キロの体重だった男性は、月ではそれがわずか十三キロであるのを知ってこおどりする。一定の速さでまっすぐに動いているかぎり、その男性はすばらしい浮遊感を味わうことができる。ところが行先を変えるとか、角を曲がるとか、急に止まるとか、そういう行動に出たとたん──かつての七十八キロの質量、というか慣性が、依然として失われていないことに気づくのだ。なぜなら質量は、地球、月、太陽、無重力空間、どこへ行こうが、つねに一定不変のものだからである。したがって月の暮らしになじむまでは、あらゆる物体が、それの表示する重さの六倍も動きがにぶいことを 肝 に銘じておく必要がある。これは通例、数知れない衝突と 打撲 のすえに思い知ることで、だから古手の職員は、新入りが環境に慣れるまであまり近づかない。

実際に、月ではどんな感じなのかしらね。興味はあります。が、あたくしはどこまでも部屋の中の人間だからな……。
この月では重力が低くなる、しかし質量と慣性は変わらない、という感覚。体験してみたいな。

そしてベテランは新入りに近づかないという教訓も、よく出来ているなぁと思います。本人は地球外に行ったことはないはずなのにね。

位置: 1,228
着陸寸前まであれほど高くそびえていた山々は、月面の大きな曲率にわざわいされ、地平線のかなたに嘘のように消えた。

こういう、嘘のようで本当のような、しかしリアリティある話が続くと、なんとなく説得力を感じて面白く読めるの、小説の醍醐味ですよね。この世界に浸れるとでもいうのかしら。

位置: 1,267
少女はしなやかな腕をのばした。歳は八つぐらいだろうか。だが、その顔にはどこか見覚えがあり、フロイドは行政官のいたずらっぽい笑みにとつぜん気づいた。思い出がショックとともによみがえった。 「信じられない!」とフロイドは叫んだ。「このあいだ来たときは、まだ赤んぼだったじゃないか!」 「先週四つの誕生日を祝ったばかりさ」ハルボーセンは誇らしげだ。「ここの低重力では子供の成長も早い。それでいて老けるのはおそい。──われわれよりずっと長生きするだろう」

漫画『プラネテス』にも「ルナリアン」って概念がありましたね。背が伸びるのが早く、大人びてるって。その着想はこのへんからなのかしら。

位置: 1,421
運転席の真下にある前部観測ラウンジに、ハルボーセンやマイクルズといっしょにすわり、フロイドは考えまいとしながらも、目のまえに突然ぽっかりとあいた三百万年の時の裂け目に心がいくたびももどってゆくのを感じていた。科学的素養のある人間として、フロイドはもっとはるかに長い時間を考えることに慣れている。だが、それは星々の運行とか、生命のない宇宙のゆっくりした周期などと結びついていただけだ。精神や知性はかかわっていない。そうした巨大な時間単位は、感情にふれるようなものをいっさい含んでいなかった。
三百万年とは! 文字に残された歴史の波瀾万丈のパノラマが、いかに多くの帝国と王侯、勝利と悲劇にあふれていようと、それはこの気の遠くなるような時の広がりのたった千分の一にすぎない。

そして読者の時間の感覚を少しづつ、しかしここまでに確実におかしくしてきて、ここで確認する。そう、既に我々は人類史の尺度を手に入れている。このあたりはSF小説の醍醐味ですよね。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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