『五分後の世界』は異世界転生モノ 1

マツオさんの課題図書。タイムリープものかと思いきや、あまりそれは重要ではなかったです。異世界転生モノと定義したほうがしっくりくる。本人やファンは嫌がるでしょうけど。

箱根でジョギングをしていたはずの小田桐はふと気がつくと、どこだか解らない場所を集団で行進していた。そこは5分のずれで現れた『もう一つの日本』だった。『もう一つの日本』は地下に建設され、人口はたった26万人に激減していたが、第二次世界大戦終結後も民族の誇りを失わず、駐留している連合国軍を相手にゲリラ戦を繰り広げていた……。

転生にそこまで意味がないところも含めて、最近流行りの異世界転生モノという定義がしっくりきます。しかしそこはやっぱり村上ドラゴン、暴力とドラッグと音楽は必ずついてきます。

p96
どうしたんだ、赤い髪の混血児が小田桐を呼んだ。
「オレはもう行くぞ」
小田桐は、オレはここにいる、とその混血児に言った。耳鳴りが続いていてまた大きな声 になってしまった。穴のすぐ脇を走り抜けている他の混血児もその声で小田桐の方を振り返 った。穴に転がり込んできて、しばらく様子を窺い、また飛び出していく混血児もいた。赤 い髪の混血児は肩にかけていた二つの筒状の何かのケースに見える兵器を小田桐に放り投げ、 グッドラック、と敬礼してから姿を消した。望遠鏡のケースみたいな筒状のものは、使い捨 てのロケットランチャーで、小田桐が逃げずに残っているのを見ると、他の混血児もそれと 同じものを次々に穴に放り込んでいった。七本のロケットランチャーを、順番に穴の壁に立 てかけながら、退却を知らない勇敢な奴だと思われたんだろうな、と小田桐は苦笑した。オ
レはもう走ったり転がったりするのが面倒になっただけなんだ、死を恐れて具体的な行動を とる、それだけの力が失われているのがわかった。

物語がはじまってから怒涛の展開。読むほうもずいぶんくたびれる、ずいぶんと命がけです。このあたりで読者はすでに夢中ですよね。読むだけでヒリヒリくる。

p117
あの、水を飲ませてくれたゲリラ兵士の顔、あんな顔をした若い日本人を小田桐は知らなかった。真剣で、イノセントで、ある部分はひどく老成していた。じっと見つめられるとこちらが気恥ずかしくなるくらい、目が輝いていた。プライドに輝いていたのだ。何のために生死を賭けて戦っているか知っている目だった。 オフクロは人間のクズの最低の女ではなかった、処刑される前にそう思おうと決めると涙が 止まらなかった。オフクロはああいう目をした男達のところへ行こうとしたんだ、それだっ たらよくわかる、オヤジもオレもあっちの世界に住んでいて、あんな目をしている男なんか 一人もいなかったからだ。

とにかく現代の日本がだめだ、弛んでる、という意識が垣間見えます。貧しく辛いほうが現実に思えるんでしょう。

p119
気に入った、 「気に入った?」 妙な顔で警備の責任者は聞き返した。
疲れたけどな、でも、あんたは知らないだろうけど、オレがもといたところはみんなひど ていおせっかいで、とんでもねえお喋りなんだ、駅で電車を待ってると、電車に近づくな、危 ないから、なんて放送があるんだぜ、電車とホームの間が広くあいてるから気を付けろっていう放送もある、窓から手や顔を出すなってことも言われる、放っといてくれっていってもだめなんだ、自分のことを自分で決めて自分でやろうとすると、よってたかって文句を言わ れる、みんなの共通の目的は金しかねえが、誰も何を買えばいいのか知らねえのさ、

バカが基準の世界を疎ましく思う、強者の論理ですね。
彼の作品の根底に流れています。マッチョ的。
あたくしとはやっぱり、根底的に反りが合わないんだな。

とはいえ物語はえらく面白い。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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