『太陽と乙女』感想④ 物語は手段か目的か #森見登美彦

旅の哲学は人それぞれ。

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醍醐味を味わい、編集者は苦労をする。
きちんと予定を立てなければ名所を見損なう、という人もあるだろう。それが気になる人はキッチリ予定を立てればいいのだが、効率を追求して本末転倒するのは避けたい。旅は旅のためにあり、スケジュール消化のためにあるのではない。小説を読むときだって、「たくさん読もう」とか「何か役に立つことを学ぼう」とか、よけいなことを考えていたら、どんな面白い小説でもあっという間につまらなくなる。
小説を読んで何か読み落としたと思ったら、もう一度読めばよいだろう。旅先で何か見落としたと思ったら、もう一度旅をすればいいのである。そんな時間はないというなら、そもそも小説を読むべきでもないし、旅をすべきでもない。

わりときっちり予定を立てる派のあたくし。そのとおり進まなくてイライラすることもままあるわけですが、そこは森見さんのおっしゃる通り。また行けばいいんだもの。

その余裕は大人だからであり、子どもが限られた資源の中で出来ることではないのだけれど。子どもに「また買えばいいよ」とか言うのは本質では在るが納得はできないのと同じこと。

読書は読書のためにあり、旅は旅のためにある。

位置: 4,900
「オッカムの 剃刀」という言葉がある。  辞典で調べてみると、これは「科学的単純性の原則」とも言われ、昔の英国の哲学者オッカムが作った言葉であるという。その意味するところは、「ある現象を説明するための仮説を立てるとき、必要以上に複雑なものであってはならない」ということである。

simple is the best、ってね。そうありたいものだ。

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実際に酒を飲むよりも、小説の世界で酒を飲む方が好きである。酒について書かれた文章を読むのも好きだし、酒を飲んでいる人々を書くのも好きである。自分で書く登場人物たちは、私自身とちがって、いくら酒を飲んでも青い顔になることはない。豪快な飲みっぷりをする人々を書くのは痛快なことだ。小説にある幻想の京都なら、目にしたこともない幻の美酒を用意できる。その酒がどんな味をしているのか、それを飲むのがどんな気持ちか、すべては空想の産物である。現実の酒よりも、書かれた酒の方が私を気持ち良くする。酒好きの人たちに、この感覚が分かってもらえるだろうか。

美味そうだもんね。森見さんのお酒。ビールを麦酒と書いたりワインをぶどう酒と書いたり。童話や漱石の小説みたいでかっこいい。漢字で書いたほうが美味そうなのは間違いない。

位置: 5,065
『ペンギン・ハイウェイ』は、住宅地に生きる少年と、スタニスワフ・レムの『ソラリス』というSF小説を結びつけることから始まった。意識的にデタラメであることは難しいことだが、少なくともコンセプトに論理的な意味を求めてはいけない。これは経験則である。コンセプトは、美しかったり、愉快であったり、ワクワクするものであればそれでいい。頭で考えるものではなくて、心で感じるものである。  意味不明だが魅惑的なコンセプトから仕事を始め、「この小説には意味がある」と読者に信じさせるところまで持っていく過程に、私の小説が成立する。

『ソラリス』ね、この間名著でやってました。
それにしてもかっこいい。「過程に、私の小説が成立する」ってね。

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「このままではいけない」  私はそう考えて、物語を作る効率の良い方法を学ぼうとした。「物語の作り方」について書かれた本をいろいろ読んでみた。アメリカのテレビドラマを観て、どういう構造になっているのか分析した。しかし、そうやって物語を計算によって組み立てようとすると、とたんに小説を書くのがつまらなくなってきた。書かなくてもいいことを山ほど書いているような気分になる。そして、理論的には面白くなるはずなのに面白くない。どれだけ労力がかかっても、以前のように手探りで作った方が書くのが楽しいし、作品も面白い。

アメリカのドラマはすごいもんね。脚本。
でもそれでは面白く書けないそうな。合理性・効率性を排除したところに物語がある。それってすごく神秘的。小説そのものが、合理的とは相容れないものかもしれないしね。

人間に物語が必要なのかどうか、という問いにもつながるけど。物語が要らない人も多い。

最後に

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生命にとって一番大切なものは、DNAではない。「生きている」ということそのものである。DNAはそのための手段である。それと同じことで、小説にとって一番大切なものは、物語ではない。そこに生きた世界が感じられるということである。物語はそのための手段である。それが私の考えである。

森見さんはそうお考えですか。なるほど。いまのあたくしのとは少し違う。でも、ちょっと心に留めておきたいですね。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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