高校生の頃ですかね、結構ハマった時期がありました。
当時はエログロなんて言葉を偉そうに使って文学青年を気取っていました。
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エロやグロを使って、狂気を描く天才
今読み返して、なおどの作品も素晴らしいのですが、やっぱり彼がミステリやエロやグロを使って描きたかったのは狂気と理性なんだと思います。
”ロジックもトリックも、ファナティックを描くための絵の具”とでも言いますか。
もちろん、その絵の具が最高級品なんですけどね。
明智小五郎デビューの『D坂の殺人事件』、有名な『人間椅子』、人間の心理に迫った『心理試験』などなど、どれも素晴らしいですが、あたくしが一番好きなのは『芋虫』ですね。
彼女はいきなり夫の上にかがみ込んで、ゆがんだ口の、ぬめぬめと光沢のある大きなひっつりの上に、接吻の雨をそそぐのであった。すると、廃人の眼にやっと安堵の色が現われ、ゆがんだ口辺に、泣いているかと思われる醜い笑いが浮かんだ。時子は、いつもの癖で、それを見ても、彼女の物狂わしい接吻をやめなかった。それは、ひとつには相手の醜さを忘れて、彼女自身を無理から甘い興奮に誘うためでもあったけれど、またひとつには、このまったく起ち居の自由を失った哀れな片輪者を、勝手気ままにいじめつけてやりたいという、不思議な気持も手伝っていた。
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戦争で両手両足その他諸々を失った亭主に対しての婦人の行動ですよ、これが。
考えてみると、われながらこうも人間の気持が変わるものかと思うほど、ひどい変わりかたであった。はじめのほどは、世間知らずで、内気者で、文字どおり貞節な妻でしかなかった彼女が、今では、外見はともあれ、心のうちには、身の毛もよだつ情欲の鬼が巣を食って、哀れな片輪者(片輪者という言葉では不充分なほどの無残な片輪者であった)の亭主を――かつては忠勇なる国家の干城であった人物を、何か彼女の情欲を満たすだけのために、飼ってあるけだものででもあるように、或いは一種の道具ででもあるように、思いなすほどに変わり果てているのだ。 このみだらがましい鬼めは、全体どこから来たものであろう。あの黄色い肉のかたまりの、不可思議な魅力がさせるわざか(事実彼女の夫の須永中尉は、ひとかたまりの黄色い肉塊でしかなかった。そして、それは畸形なコマのように、彼女の情欲をそそるものでしかなかった)、それとも、三十歳の彼女の肉体に満ちあふれた、えたいの知れぬ力のさせるわざであったか。おそらくその両方であったのかもしれないのだが。
at location 3696
エロ漫画でいうとみやびつづる先生の感じ。
もうね、読みながら不快が快感になっていく感覚があるのね。
それはもう、はっきりと。
ノイタミナの『乱歩奇譚』には少しがっかり
素晴らしい出来ではあるのですが、あの『乱歩奇譚』には異論もあります。
人間椅子、あれはああいう解釈で良かったのでしょうか。
愛ゆえの殺人、嫉妬からくる殺人。そんないわば有り触れた感情が、21世紀に乱歩をやるテーマなのでしょうか。
僕は人間椅子という作品のテーマは、愛がほしいのではなく、愛を与える行為、つまり恋に対する愛だと解釈します。
あんなサイコパスに出てきそうな、ミュージアムに出てきそうな、殺人の方に重きをおいた解釈では、あたくしは納得出来ていません。
知性と動物性
ミステリという知性と愛という動物性を、ひとつの作品に押し込む魅力が、江戸川乱歩という作家にはあるのです。
狂気を論理で語る美しさ。負けても美しさは狂気の勝ち。
そんな理想主義的な美意識を、乱歩の作品からは強く感じますな。
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