『博士の愛した数式』感想_2 江夏の本→阪神の本

博士のようなおじさん、カッコいいけどね。
自分にゃ無理ね。

Location: 682
「もう一つ、完全数の性質を示してみよう」
博士は小枝を握り直し、両足をベンチの下に引っ込ませて空いた地面を確保した。
「完全数は連続した自然数の和で表わすことができる」
6=1+2+3
28=1+2+3+4+5+6+7
496=1+2+3+4+5+6+7+8+9+10+11+12+13+14+15+16+17+18+19+20+21+22+23+24+25+26+27+28+29+30+31
博士は腕を一杯にのばし、長い足算を書いた。それは単純で規則正しい行列だった。どこにも無駄がなく、研ぎ澄まされ、痺れるような緊張感に満たされていた。

これは忘れていました。そうだっけ。
しかしこれは美しいね。信仰に似た感情が生まれるのも仕方がない。

Location: 858
「ところで、今度の江夏の登板は、いつになるかね」
博士が尋ねた時、ルートはどぎまぎもせず、私に助けを求めたりもせず、ごく自然に答えた。 「ローテーションからいくと、もう少し先だね」
ルートがこれほど大人びて振る舞えるとは驚きだった。

大人だなぁ、ルート。もっとガキでもいいけどね、子供は。

しかし、こういう子供の成長をみる機会は、思いの外嬉しいものです。

Location: 957
「例えば 17、 19 とか、 41、 43 とか、続きの奇数が二つとも素数のところがありますね」
私もルートに対抗して頑張った。
「うん、なかなかいい指摘だね。双子素数だよ」
普段使っている言葉が、数学に登場した途端、ロマンティックな響きを持つのはなぜだろう、と私は思った。友愛数でも双子素数でも、的確さと同時に、詩の一節から抜け出してきたような恥じらいが感じられる。

言葉のセンスだよね。
結構数学の言葉のセンスっていい。なんだろうね。カチッとした中にロマンが入っているんだろうか。数学者はロマンチストがなりやすいのか。

Location: 1,420
中込が一球ストライクを投げ込むだけで、歓声が沸き起こった。まして点が入った時には、歓喜の塊が弾け、それが渦となって球場を包んだ。こんなにも大勢の人々が一度に喜んでいる姿を見るのは、生まれて初めてだった。考えているか、考えているのを邪魔されて怒っているか、私に向かってはほとんど二通りの表情しか見せてくれない博士でさえ、喜んでいた。たとえ控えめな表現方法であったとしても、間違いなく歓喜の渦の一員となっていた。

中込!背番号1だったかな。
これはいい阪神本。懐かしい。

Location: 1,978
博士はいつどんな場合にも、ルートを守ろうとした。どんなに自分が困難な立場にあろうと、ルートは常にずっと多くの助けを必要としているのであり、自分にはそれを与える義務があると考えていた。そして義務が果たせることを、最上の喜びとした。
博士の思いは必ずしも行動によってのみ表わされるとは限らず、目に見えない形で伝わってくることも多かった。しかしルートはそのすべてを漏らさず感じ取っていた。当然な顔で受け流したり、気付けないままにやり過ごしたりせず、自分が博士から与えられているのは、尊くありがたいものだと分かっていた。いつの間にかルートがそのような力を備えていたことに、私は驚く。
自分のおかずがルートよりも多いと、博士は顔を曇らせ、私に注意した。魚の切り身でもステーキでも西瓜でも、最上の部位は最年少の者へ、という信念を貫いた。懸賞問題の考察が佳境に入っている時でさえ、ルートのためにはいつでも無制限の時間が用意されていた。何であれ彼から質問されるのを喜んだ。子供は大人よりずっと難しい問題で悩んでいると信じていた。ただ単に正確な答えを示すだけでなく、質問した相手に誇りを与えることができた。ルートは導き出された答えを前に、その答えの見事さだけでなく、ああ、自分は何と立派な質問をしたのだろう、という思いに酔った。

そういう態度。すごくカッコいい。

子供には無制限の時間を。質問されるのを喜び、質問した相手に誇りを与える態度を。
難しいなー。

Location: 2,617
エプロンを外そうとする私を制して、ルートが口をはさんだ。
「僕が行くよ。僕の方が足が早いんだから」
そう言い終わらないうちにルートはもう玄関を飛び出していた。

死亡フラグ。わかりやすい。

死ななかったけどね、でも、なんだか不穏な雰囲気をそれとなく出す。上品だ。

Location: 2,766
「八十分のテープは、壊れてしまいました。義弟の記憶は最早、一九七五年から先へは一分たりとも前進できなくなっております」
「施設へお世話にうかがってもいいんです」
「その必要はありません。何でも向こうでやってくれます。それに……」
一度言い淀んでから、彼女は続けた。
「私がおります。義弟は、あなたを覚えることは一生できません。けれど私のことは、一生忘れません」

女の矜持だろうな。それもまた上品。この本、阪神以外はすべて上品だ。

Location: 2,793
一方ルートも、博士にもらったグローブを必ず持参した。博士とのキャッチボールは不恰好なお遊戯みたいなものだったが、二人は大いにそれを楽しんだ。ルートは彼が最も捕りやすい所へボールを投げ、どんなにとんでもない返球でもキャッチすることができた。

これも一つの思いやりの昇華だよね。博士→ルートが、キャッチボールではルート→博士なの。
美しいね。

Location: 2,808
「実に正しい」
幸福そうに博士はうなずく。
「もう一つ付け加えよう。前者の素数は常に二つの二乗の和で表せる。しかし後者は決して表せない」
「13= + です」
「ルートのような素直さを持ってすれば、素数定理の美しさは更に輝く」

実に、実に、いい。
実に上品な、いい本だった。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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