『真夏の方程式』はほろ苦くて良い

最近、ちょくちょくガリレオ読んでいます。エンタメに特化したミステリ。さすが東野圭吾氏ですね。

p32
「そういう発言は良くない」湯川は改めていった。「専門家でさえ、深海生物のことを完全に理解しているとはいいがたい。できないことはできないと正直にいうべきだ」
開発課長は困惑したように黙り込んだ。司会者が何か言わねばというようにマイクに近寄った。だがその前に湯川が言葉を発した。
「地下資源を利用するには採鉱しかありません。採鉱すれば、生物に被害が出ます。それは陸上でも海底でも同じことです。人間はそういうことを繰り返してきた。あとは選択の問題です」それだけいうとマイクを置き、自分に視線が集中していることなど無視するように瞼を閉じた。

こういうさっぱりとした湯川の態度がウケるんだな。わかるよ。一刀両断。信念があるから揺るがない。そういう人物に憧れる。やはりみんな、それなりに地獄を抱えて生きているんだなって思いますね。

p88
「環境保護を要求するのは難癖ですか」
「君たちは完璧な環境保護を要求している。この世に完璧なものなどない。存在しないものを要求するのは難癖以外の何物でもない」湯川の口調が鋭くなると同時に、彼の歩幅は広くなる。成美は小走りになった。
「何かをしてほしいわけじゃありません。破壊しないでくれといっているんです。人間がおかしなことをしなければ、この美しい海は守られるはずです」
「おかしなことかどうかはだれが判断する?きみか?」

ちょっと説教臭い。ただ、物語に必要な説教くささです。主人公の中庸さと冷静さを示すいい機会。けして感情的に判断をしない、むしろ感情的に判断することや人を徹底的にこき下ろす。そういうメンタリティは痛快といえば痛快。

p228
できれば、まずは我々だけで、真相を明らかにしたい。県警の雑なやり方で強引に真実が暴かれたりすれば、取り返しのつかないことになる恐れがある」
奇妙な言い分だった。何がどう取り返しがつかなくなるのかと草薙は訊いた。すると湯川は、人生がだ、といった。
「今回の事件の決着を誤れば、ある人物の人生が大きく捻じ曲げられてしまう恐れがある。そんなことは、何としてでも避けねばならない」

ここらで優しさを見せるわけです。上手いんだよなー、このへん。湯川が冷血漢だけではないということを見せる。読者が引き込まれる。素晴らしいですね。
しかし相変わらず事件の真相に気づくのが早い。まるでコロンボですよ。

p261
まあね、と短く答え、湯川は醤油を小皿に注いだ。橋の先でワサビを摘まみ、醤油に溶かす

湯川くらいになってもワサビを醤油に溶かすわけです。ちょっとかわいいですね。

p461
「この世界には」湯川がいった。「現代科学では解けない謎がいくつもある。しかし科学の発展とともに、いずれはそれらも解かれていくだろう。では科学に限界はあるのだろうか。あるとすれば、何がそれを生み出すのだろうか」
恭平は湯川を見た。なぜこんなことをいいだしたのか、わからなかった。だが何かとても重要なことを教えてくれるような予感がした。
湯川は恭平の額を指差し、「それは人間だ」といった。「人間の頭脳だ。例えば数学の世界では、何か新しい理論を発見した時には、正しいかどうかを他の数学者たちに検証してもらう。だが発見される理論はますます高度化していく。そうなると当然、検証できる数学者も限られてくる。ではもし理論が難解すぎて、他の誰も理解できなかったらどうだろう。それが理論として定着するには、別の天才が現れるまで待たねばならない。人間の頭脳が科学の限界を生み出すというのは、そういう理由からだ。わかるかい?」

子どもに対しても容赦はしない。しかし平易な言葉は使う。この辺の匙加減が、「我々が求めている理想の上司・教師」を反映しているような気がします。熱血教師ははやらないんでしょうね。むしろ理性的で知性的で思いやり溢れる、なんだったらちょっと突き放したところがある。そういう人間像を求めているのでしょう。

面白かった。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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