曹操たんの嫉妬が可愛くもある吉川三国志

位置: 12,248
梧桐 は落ちはじめた。夏去り、秋は近くなる。   淮南 の一水にも、秋色は澄み、赤い 蜻蛉 が、冴えた空に群れをなして舞う。

ちょうど今の時期ですね。綺麗な描写だなぁ。

位置: 13,039
矢は、夏侯惇の左の眼に突き刺さった。彼の半面は鮮血に染み、思わず、 「あッ」  と、鞍の上で のけ反ったが、 鐙 に 確 と踏みこたえて、片手でわが眼に立っている矢を引き抜いたので、 鏃 と共に眼球も出てしまった。  夏侯惇は、どろどろな眼の球のからみついている鏃を面上高くかざしながら、 「これは父の精、母の血液。どこも捨てる場所がない。──あら、もったいなや」  と、大音で独り言をいったと思うと、鏃を口に入れて、自分の眼の球を喰べてしまった。

まさか。うちの独眼竜とはまるで違う。夏侯惇とは恐ろしい人。

位置: 13,132
「わたくしの愛妻ですが、ご覧のごとく、家貧しく殿へ饗すべき物もありませんので、実は、妻の肉を煮ておもてなしに捧げたわけでございます」と、初めて打明けた。  孫乾からそれを聞いて、玄徳は感傷してやまなかった。で、劉安にこうすすめた。

吉川英治自身も言及していましたが、ここの描写はまるで現代には通用しない。カニバリズムを推奨しているようですらある。しかし、ここではその心意気のみを感じれば良いのである……だそうですが、そりゃむりよ。

位置: 16,083
曹操には、やはりそれだけの魅力があった。曹操の長所のうちで最も大きな長所は有為な人物を容れるその魅力と包容力である。

曹操も、とくに演義では、悪役として書かれがちだそうですが、吉川三国志では必ずしもさに非ず。ちゃんと褒めるところは褒められていますね。

位置: 16,187
白 玲瓏 たる十五夜の月が、下界を 嘲笑うかのように満々と雲間にかかっていた。──

か、かっこいい。こんな言い回し、使ってみたい。「びゃくれいろう」なんて読める人いるか?

位置: 17,067
曹操は、心ひそかに、自分と 玄徳 を比較してみた。そしてどの点でも、玄徳に劣る自分とは思われなかったが──ただひとつ、自分の麾下に、関羽ほどな忠臣がいるかいないか──と、みずから問うてみると、 (それだけは劣る)と、肯定せずにいられなかった。彼の意中のものは、いよいよ熱烈に、 (きっと関羽を、自分の徳によって、心服させてみせる。自分の臣下とせずにはおかん)  と、人知れぬ誓いに固められていた。

位置: 17,883
ついに関羽は去った!  自分をすてて 玄徳 のもとへ帰った!  辛いかな大丈夫の恋。──恋ならぬ男と男との義恋。 「……ああ、生涯もう二度と、ああいう真の義士と語れないかもしれない」  憎悪。そんなものは今、曹操の胸には、 みじん もなかった。

この関羽への片思いっぷりも曹操の可愛いところの一つよね。隣の芝が青く見えちゃうタイプなんだろうな。

位置: 20,589
食客は天下いたる処にいる。   主 は好んで客を養い、客は 卑下 なく大家に 蟠踞 して、共に天下を談じ、後日を期するところあらんとする。──そうした風潮は、当時の社会の慣わしで、べつに異とするほどなことではなかった。

明治時代には書生という人間がいたそうですが。いつの間にか居なくなりました。ちょっと寂しいことですな。

位置: 20,734
閨門と食客とは、いつも不和をかもすにきまったものだ

落語でも居候と女将さんというのは仲が良くないものですもん。三国志の時代からそうなんだな。

位置: 22,079
「彼のいうところは、彼らの中の真理であって、万民俗衆の真理ではない。この地上の全面を占めるものは億兆の民衆で、隠士高士のごときは、何人と数えられるほどしかおるまい。そういう少数の中だけでもてあそぶ真理なら、どんな理想でも唱えていられよう」

どっかのインテリにも使えそうだな、この言葉。リズミカル。

位置: 24,719
むかし 斉 の 田 横 は、一処士の身にありながら、漢の高祖にも降らず、ついに節操を守って自害しました。いわんやわが劉予州は、王室の宗親。しかもその英才は世を 蓋 い、諸民の慕うこと、水に添うて魚の遊ぶが如きものがある。

いい啖呵。

位置: 25,520
靄はようやくはれて、両軍数千の船は、陣々入り乱れながらも、一艘もあまさず見ることができる。真赤に昇り出ずる陽と反対に、大江の水は逆巻き、咬みあう黒波白浪、さけびあう疾風飛沫、物すさまじい 狂濤 石 矢 の大血戦はここに展開された。

位置: 25,565
その規模の大なることは、さすがに魏の現勢力を遺憾なく誇示するものだったが、夜に入ればなおさら壮観であった。約三百余里にわたる要塞の水陸には 篝、煙火、幾万幾千燈が燃えかがやいて、一天の 星斗 を 焦がし、ここに兵糧軍需を運送する車馬の響きも 絡繹 と絶えなかった。

赤壁の戦いのときの描写。圧倒的な迫力が筆から伝わってきます。

関係ないけど、「素人は戦略を語り、プロは兵站を語る」という素晴らしい言葉がありますが、三国志って兵站のことを語ったところってあんまりないよね。なんでかしら。派手じゃないからかな。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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