スージー鈴木著『桑田佳祐論』感想 いい歌手だなー(凡庸)

なんなんですかね、あの言葉遣い。「忘らぬ」とか、面白いよね。

サザンからソロまでの26作を厳選、その歌詞を徹底分析。こんなもん、ただの歌詞じゃねえよ!
「胸さわぎの腰つき」の衝撃から44年。以来ずっと桑田佳祐は自由に曲を書き、歌ってきた。日本語を巧みにビートに乗せ、「誘い涙の日が落ちる」といった独創的な言葉を紡ぐ。情感豊かな歌詞で日本人の心を鷲づかみしながら、エロくキワどい言葉を投げ、愛と平和を正面から訴える。はたして桑田佳祐は何を歌ってきたのか――。サザンからソロまで1000に及ぶ楽曲のうち、26作の歌詞を徹底分析。その“ことば”に本質が宿る!

世代的には『愛の言霊』ですね。あの歌詞にはたまげた。怪しげなメロディといい、なんとも言えず、繰り返し聞きましたね。

1.サザンオールスターズ《勝手にシンドバッド》

位置: 136
決定的だった理由として、この言葉の意味不明さがある(そもそもタイトル「勝手にシンドバッド」自体も意味不明だが)。言い換えれば、「意味から自由奔放」。桑田佳祐の言葉がもたらした、最も大きな功績はここにある。

まずは破壊、アンチテーゼとしてのサザン。Tシャツ短パンでの紅白ってのが最たるものかもしれませんね。

2.サザンオールスターズ《女呼んでブギ》

位置: 234
よく考えたら、サザン自体にも、このような二段階構造がある。ゲスでエロでパンクな見え方がまずあって、でも、臆せずその世界に入ってみると、ペーソスやセンチメンタリズムが溢れていて、聴き手の強いシンパシーを誘発する。この二段階構造、このツン・デレで、サザンは大きな市場を獲得したと言えるだろう。

ツンデレの使い方には疑問がありますが、二段階構造には納得。あのコメディチックに卑猥な感じ、他のバンドでやっている方々あんまり知りません。

3.サザンオールスターズ《いとしのエリー》

位置: 341
途方もなく広大な桑田の歌詞世界の中で、最も大きな区画を占めている情緒・情感は「センチメント」と「メランコリー」である(後に詳述)。そして「誘い涙」「みぞれまじり」「泣かせ文句」はすべて、その区画にすっぽりと収まる。
桑田語の特性は、リズムとメロディ優先で、ある種後付け的にでっち上げられた言葉だったとしても、その意味内容が、感覚的に伝わってくるところである。そして、その代表例が先に分析した《勝手にシンドバッド》の「胸さわぎの腰つき」だ。
繰り返すが、サザン/桑田佳祐はメジャー過ぎるがゆえに、その言葉の独創性が見えにくくなっている。だから、桑田語の凄みを感じるためには、意識的に歌詞を読み直さなければいけない。

同感であります。誘い涙、って冷静に考えるとそんな言葉はないし(でも何となく分かるというのが大切ってこと)。

5.サザンオールスターズ《働けロック・バンド(WORKIN’ FOR T.V.)》

自著『ポップス歌手の耐えられない軽さ』(文藝春秋) において、桑田佳祐は「日本の三大 名曲」を選んでいる。植木等《ハイそれまでョ》、笠置シヅ子《買物ブギー》、藤本二三吉《祇園小唄》というラインナップなのだが、《買物ブギー》を選ぶにあたって桑田は、「大阪人=音楽的には外国人説」を唱えている。

このラインナップ。冗談で言っているの半分、本気なの半分、でしょうね。
確かにサザンにこの3つの曲の要素、しっかり入っているもんな。

ウルフルズもそうだけど、関西弁とロック・ブルースの相性っていいんだよね。

6.サザンオールスターズ《チャコの海岸物語》

位置: 553
《チャコの海岸物語》には、2つのパロディ・アプローチが埋め込まれている。1つは「 60 年代パロディ」。楽曲全体がレトロな仕立てになっている。それも真正面からではなく、 60 年代テイストを、ちょっと半笑いで再現している。

位置: 564
また音的には 60 年代後半に大ブームとなったグループサウンズ(GS) のパロディとなっている。桑田本人の言葉を借りると「三流のGS」のような曲を狙って作ったという。

チャコの60年代テイストって半笑いなんだね。誰も教えてくれないからさ、初めて知った。

それが大ヒットしたってんだから、よくわからんね、昭和。

位置: 595
つまりは、かなり挑戦的でお下劣なパフォーマンスだったのだ。そして、お下劣さが極まるのは、間奏における桑田佳祐のこのセリフである。
「国民の皆様、ありがとうございます。我々放送禁止も数多くございますが、こうやって、いけしゃあしゃあとNHKに出させていただいております。とにかく、受信料は払いましょう! 裏番組はビデオで観ましょう!」

今でこそいい大人やってますが、多分に「輩」な気質をお持ち。若い頃ならでは、の輩感、かわいいね。

位置: 600
82 年のサザンの目標=「その1、シングルヒットを狙おう その2、テレビに出まくろう その3、茶の間のアイドルになろう」を額面通りに受け止めてはいけなかったのだ。サザンが、桑田佳祐が企図したテレビ出演の本質は、NHK『紅白歌合戦』という、言わば日本の価値観の基軸をかき回すことだったのだ。そして、最高にメジャーな舞台から、日本の価値観を揺さぶるという、ポップでロックでパンクな行いだったのだ──。

これがよく今でも続く国民的モンスターバンドになったよね。

位置: 626
サザン/桑田佳祐による、このあたりの功績は、もっと語られていいのではないか。日本で初めて、仮想の映画『ジャパニーズ・グラフィティ』の音楽を担えるバンドとしてのサザン。映画全体には、松任谷由実や山下達郎も使われようが、エンディングは、やはりサザンだろう。

村上龍の文章が良いとは到底思えませんが、ただ、彼にも、あたくしにも刺さる。これがサザンの凄さ。国民的茶番を演出できるロックバンド。

7.サザンオールスターズ《よどみ萎え、枯れて舞え》

位置: 673
「アイリン・ブーケ・ショウ」──先に書いた「響きとイメージ優先の言葉遣い」の典型である。

サザンお得意の当て字漢字ね。漢字と漢字の組み合わせでそれっぽい言葉を作ってしまう。思えば「胸騒ぎの腰付」も、おなじ構造。そんな言葉はないのに、何となく納得してしまう。

8.サザンオールスターズ《夕方HOLD ON ME》

位置: 734
それでも、上のF♯から始まる高い音程で「♪夢でいいじゃないか 今にも夕方Hold On Me(you’ve got a hold on me)」とシャウトされると、理屈抜きで吸い込まれてしまう。日本語と英語の面倒くさい関係からふっきれた桑田佳祐の声によって、私自身も心がふっきれるのを感じるのだ。

いいよね。ぐっとくる。理屈が音楽にふっとばされる瞬間。日本語だの英語だの、境を作っていたのはこっちなんだな、と思わせる。

9.サザンオールスターズ《夕陽に別れを告げて~メリーゴーランド》

位置: 830
思うのは、このような、ロック少年たちがギターを持ってワチャワチャするという姿が昨今、絶滅しつつあるのではないかということだ。音楽制作の舞台が、バンドからデスクトップに移行し始めて久しい。若者が集ってワチャワチャして作る音楽から、個人がPCをカチャカチャして作る音楽へ。
別に、そのことを否定するつもりはないし、ワチャワチャからカチャカチャへの移行も、歴史的必然として私は捉えている。ただ、でもやっぱり、音楽制作にはワチャワチャが必要じゃないか。そう思うのは、単なるオヤジの懐古趣味ではないと信じる。

信じたいけどね、ただ、カチャカチャの音楽のほうが尖っている傾向があるのは間違いない、2023年。また揺り戻しが来るのかな。

10.KUWATA BAND《スキップ・ビート(SKIPPED BEAT)》

位置: 886
たとえば、スティーリー・ダン風のものが欲しいって言うと、本当にスティーリー・ダンになっちゃうんだよ。「あらーっ」て感じで。それは嬉しいんだけど、発表は出来ないんだよ、発表したら笑われちゃうほどスティーリー・ダンだから。(桑田佳祐『ブルー・ノート・スケール』ロッキング・オン)

この発言をよく読めば、2人の桑田佳祐が作動していることが分かる。1人目は、ぶっちゃけサザンよりも腕利き・手練れのメンバーと一緒に、憧れの洋楽をまんま再現することを、手放しで喜んでいる「音楽人」としての桑田。そしてもう1人は、洋楽まんま再現の商品性を疑う「商売人」としての桑田。
音楽にかける除湿機と加湿器があるとして、それまでの桑田佳祐は、除湿機を強く利かせた洋楽に憧れつつ、自らが世に出す音楽は、憧れのカラッカラな音を加湿器に浸して、(当時の) 日本に馴染ませることで成功を収めていた。

この曲、知りませんでした。日本は湿った文化ですからね。

しかし、桑田、若い!

13.桑田佳祐《すべての愛に懺悔しな!!》

位置: 1,223
ただ「♪芝居のセンスにゃたけている」「♪ドラマの主役にゃ燃えている」については、長渕剛や矢沢永吉( 94 年、『孤独の太陽』発売の直前まで放映されていたテレビドラマ『アリよさらば』に主演) のことが念頭にあったはずだ。

知らなかったよ、桑田さんがこんな攻撃性の高い時期もあったんだね。自嘲の果てに、という感覚もあるのかな。

14.サザンオールスターズ《マンピーのG★SPOT》

位置: 1,257
しかし、洋楽フリークだった桑田佳祐少年が耳にした、日本のグループサウンズやフォークの歌詞はどうだったか。ビートルズへの思いを押し殺し、「花・星・夢」など少女趣味的な単語で塗り固められたグループサウンズの歌詞、ボブ・ディランへの思いを押し殺し、四畳半でキャベツかじりながら銭湯に通うようなフォークの歌詞。
さらに、日本(語) のロックが勃興し始めても、歌詞は「♪風をあつめて 蒼空を 翔けたいんです」であったり「♪君はFunky Monkey Baby」であったりと、今ひとつしっくりこなかったのではないか。
桑田佳祐少年には、すべて借り物の言葉に聴こえたと思うのだ。そして、一部の洋楽のように、もっと肉体的で、下半身からストレートに撒き散らされるような言葉で歌いたくなったのではないか。その結果が《女呼んでブギ》であり、《マンピーのG★SPOT》だった。

確かに、桑田にとってのリアルはそうだったのかもしれない。そのへんの感覚は、非常によく分かる。そしてそれを表現するのは、芸術家として正しい姿でもあると思う。その結果、誤解というか浅薄な先入観が先行することについても、仕方ないよね。

スージー先生、さすがのご考察。

15.サザンオールスターズ《愛の言霊~SPIRITUAL MESSAGE~》

位置: 1,331
というわけで、発音から作られたフレーズだろうと思うのだが、ここに「 叙事詩」「 旋律」という、桑田一流の「当て字作戦」を導入し、聴覚と視覚の立体戦法で、意味深な感じを醸し出す。

そうそう、これにやられました。小学生のあたくし。

16.サザンオールスターズ《平和の琉歌》

『海のyeah!』の最後の曲だったな。

位置: 1,423
こういう曲を聴いていると、桑田佳祐という人の性根にある戦後民主主義性に気付かされるし、桑田から 10 年遅れて、戦後民主主義を味わった私世代などは、それをあっけらかんと表明する桑田に強いシンパシーを感じ、「みんな、こういうことをこういう感じで、あっけらかんと歌えばいいのに」と思うのだ。

人の涙も乾かぬうちに、ってのがぐっと来るよね。気付かされる。まさに戦後民主主義。

位置: 1,428
毎夏恒例となった野外フェス「FUJI ROCK FESTIVAL」(フジロック・フェスティバル) に、学生団体「SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)」の中心メンバー奥田愛基さんやジャーナリストの津田大介さんらが出演すると発表され、ネット上には「フジロックに政治を持ち込むな」「音楽の政治利用」などと批判の声が上がった。(「『フジロックに政治を持ち込むな』に、アジカンの後藤正文さんら反論」)

このような「フジロックに政治を持ち込むな」的意見に対して、アジアン・カンフー・ジェネレーションの後藤正文がツイッターで発表した意見がふるっていた(前掲の記事の中で紹介されている)。

フジロックに政治を持ち込むなって、フジロックのこと知らない人が言ってるよね。これまでいくつものNGOやアーティストがさまざまな主張をステージ て 繰り返してきたわけだし。ただ、ちゃんと真顔で「うるさいよ、馬鹿」くらいは言い返しておかないと、ちょっとだけ何らかの自由が削られる気がする。

まさに、政治・社会「も」歌うのがロックですよ。というか、何も政治をそんな特別視しちゃいかんでしょう。政治とは生き方の延長にあるものですよ。あたくしは強く思うね。

21.サザンオールスターズ《栄光の男》

位置: 1,927
サザンのアルバム『葡萄』には、「浮かれたあの頃」から、まるっきり変わってしまった景色が投影された作品が目立つ。国際問題に切り込む《ピースとハイライト》や、桑田佳祐の死生観のようなものが表現されている《はっぴいえんど》、そして《栄光の男》。
言い換えると、先に述べた「パーソナル桑田」の感性が横溢している。さらに言い換えると還暦を超えた「人間・桑田」の心の声が聴こえる。だから、桑田佳祐のたった 10 歳年下の私は、アルバム『葡萄』に、他のアルバムを超えた親しみを感じるのだ。

へぇ。ちゃんと葡萄を聞いたことがないかも。聞かなきゃなぁ。

23.桑田佳祐《ヨシ子さん》

位置: 2,109
自著『ポップス歌手の耐えられない軽さ』において、桑田佳祐はデヴィッド・ボウイへの憧れを綴っている。ボウイを「とにかく図抜けてスタイリッシュだった」とした上で、ボウイやイギー・ポップ、クイーンらについて、こう激賞するのだ。

性差を超越して、美に耽溺するとでも言いましょうか。混迷する時代の片隅に咲いた 仇 花 の如く、華奢な美形たちが、〝男気〟を消して腰をくねらせ、ティーンエイジャーに向かって歌いあげる。そんなグラム・ロックの精神は日本のエンターテインメント界にも広く浸透していきます。

この、やたらと大仰な書きっぷりには、ボウイ的、グラム・ロック的なきらびやかさへの憧れと、そういう世界に参画できなかった(遠回しに書いているが要するに「華奢な美形」ではなかったということ) 自身に対する諦めが混在していると見る。

はは、わかるなぁ、桑田さん。華奢な美形ではなかったということに対する諦め、ね。そういう意味でも桑田さんは大衆の代弁者に「不本意ながら」なったんだろうな。

26.サザンオールスターズ《ピースとハイライト》

位置: 2,427
「馬鹿野郎、ヘイトスピーチにも、戦争にも、俺は反対だ!」
でもなく、
「この時代に、もっと愛と優しさが大事だよね……」
でもなく、
「こういうの、さんざん懲りたじゃん。 20 世紀で終わりにしようぜ」。

いい歌だなー。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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