東山彰良著『流』感想 大陸と情熱の間

直木賞納得の力作。

一九七五年、台北。内戦で敗れ、台湾に渡った不死身の祖父は殺された。誰に、どんな理由で? 無軌道に過ごす十七歳の葉秋生は、自らのルーツをたどる旅に出る。台湾から日本、そしてすべての答えが待つ大陸へ。激動の歴史に刻まれた一家の流浪と決断の軌跡をダイナミックに描く一大青春小説。選考委員満場一致、「二十年に一度の傑作」(選考委員の北方謙三氏)と言わしめた直木賞受賞作。

ぐっと台湾に興味を持ちました。今、台湾人のペンフレンドを急いで探しています。
韓流ともまた違った、粗野だけど純朴なエネルギーを感じるのはあたくしだけじゃないはず。

プロローグ

位置: 84
わたしはひとりぼっちで戦った。かつてこの場所で共産主義者と戦った祖父とは大違いだ。腹はきりきり痛み、出るものは出ず、大地を吹きぬける寒風のせいで尻は凍えるほど冷たい。

痛いよね、あたくしの場合は処構わず出ちゃうほうですが。

第一章 偉大なる総統と祖父の死

位置: 228
みんな似たり寄ったりさ。こっちと喧嘩しとるからあっちに入る、こっちで飯を食わせてくれるからこっちに味方する。共産党も国民党もやるこたあいっしょよ。他人の村に土足で踏みこんじゃあ、金と食い物を奪っていく。で、百姓たちを召し上げて、またおなじことの繰り返しだ。戦争なんざそんなもんよ

大義も名分も、すべては飾り。昔の農民なんてなそんな感覚でしょうね。主権がなきゃ、ただやられるだけ。これがアジア人の平民のリアルなんだよな。

第二章 高校を退学になる

位置: 471
「道中、飯を食わせてくれたのがたまたま国民党の兵隊だったわけよ」郭爺爺はずっしりした煙を吐き流した。「あれがもし共産党じゃったら、わしらもみんな共産党についとったはずさ。人の一生なんざ、そんなもんよ。だれのためなら命を投げ出せるか、そうやって物事は決まっていくんだ」

食うか食われるかの世界で生きている人の発想。それをリアルに感じさせるのは台湾だからかな。

位置: 500
他人の 懐 をあてにするような生き方しかできない明泉叔父さんは、方々で夢のような儲け話をしては金を借りていたが、財を成す気配は 微塵 もなかった。

淡白でいい文章だな。

位置: 584
「人というものはおなじものを見て、おなじものを聞いていても、まったくちがう理由で笑ったり、泣いたり、怒ったりするものだが」と、宇文叔父さんは深い溜息をついた。「悲しみだけは霧のなかでチカチカともる灯台の光みたいに、いつもそこにあっておれたちが 座礁 しないように導いてくれるんだ」

ブルージーだぜ。グッと来る。このへんの表現の巧みさ。東山彰良さん、すごいね。

第五章 彼女なりのメッセージ

位置: 1,679
白銀の貴婦人は孫の不甲斐なさをなじったが、わたしはそんな祖母を好きにならずにはいられなかった。床に這いつくばったその雄姿はさながら虎の拳の如しで、容赦なくやつらをバシバシたたき殺していった。
「おばあちゃん、そこ! うしろにもいるよ! 壁、壁! あっ、本棚のうしろに逃げるよ!」
わたしの部屋はたちまち 死屍 累々 の地獄絵図と化した。ちぎれた翅、もげた肢、つぶれた黒い体からはみ出た白いベトベト。やがて 獅子奮迅 の働きを見せていた祖母の動きが鈍り、逃げ惑う敗残兵を後目に腰をのばしたり、肩を揉んだりしだした。

本書一番のグロい箇所。やつらの様を想像するだけでご飯が進まない。

第七章 受験の失敗と初恋について

位置: 2,506
「国民党が勝とうが共産党が勝とうが」郭爺爺は牌をたたきつけるように捨てた。「戦争が終わればまたみんないっしょになれると思っとったがなあ」
「台湾に住みつくことになるとはだれも思わんかったわ」李爺爺がやるせなさそうに相槌を打った。

そうだよね。だから世間を知るって大切よな。

位置: 2,723
わたしのジーンズの尻ポケットには、ふだん持ち歩かないハンカチが入っていた。毛毛をすわらせるときに敷いてやるつもりだった。

短い一文だけど、本当に大切に思っていたんだなぁ、と思わせる。

第十章 軍魂部隊での二年間

位置: 3,644
口を閉じていると、吐き出されなかった感情や想いがいつまでも体のなかにわだかまり、それが餌となってもっと大きな感情や想いが魚のように釣れることがある。

独特の表現。身体の中にわだかまったものが、餌となって大魚を呼び寄せる。

第十一章 激しい失意

位置: 4,313
つづく数ヵ月は、抜け殻のようになっていた。両親は悩める息子をそっとしておくという気遣いをみせたが、祖母は一貫して無理解を装うことで、ふぬけた孫を励まそうとしてくれた。
「女にふられたってご飯は食べなきゃならないんだからね」
祖母は、どうかすると二日でも三日でも引きこもっていられるわたしを部屋から引きずり出し、なんて情けないんだろう、とおでこを指でつついた。
「ふられてよかったわよ。あんな家と親戚になるくらいなら、あたしのほうがアメリカに行っちゃうわよ」
「ほっといてくれよ!」祖母に暴言を吐きつつ、わたしは茶碗の白米をかきこむ。「おれにかまってないで 李 奶奶 と麻雀でもやってくれば!」
「そういうところ、あんたのおじいちゃんにそっくり。あの人が最初の奥さんを捨ててあたしを選んだときもずーっとそうやってねちねち後悔してたものよ。なにを後悔することがあるの? 後悔しようがどうしようがなるようにしかならないんだから、とっとと開きなおりゃいいのよ、馬鹿」

いい肝っ玉ばあちゃん。ほんと、ウジウジするときってあるよね。あたくしも若い頃にウジウジしていたのを思い出しました。

第十二章 恋も二度目なら

位置: 4,417
「あの人もとうに七十を過ぎてるでしょ?」
「ああ、それくらいだろうな」
「この歳になったら、とにかく自分の気が済むようにするのがいいのよ。財産目当てでもいいじゃない、それで馬大軍が気持ちよく余生を過ごすことができるなら」

そうだよな。あたくしもそう思う。一方で狂った親族をみたくはないけどね。

第十三章 風にのっても入れるけれど、牛が引っぱっても出られない場所

位置: 4,880
おれがいまなにがいちばん食いたいかわかるか?  臭 豆腐 さ、死ぬほど食いたかった

ツォウドウフー?

落語に酢豆腐ってのがありますが、本当にあるんだな、似たような豆腐が。ぜひ一度食してみたい。

エピローグ

位置: 5,703
だから、いまはただこう言って、この物語を終えよう。
あのころ、女の子のために駆けずりまわるのは、わたしたちの誇りだった。

素敵な終わり方。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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