『熱帯』は読み切れるものなのか。『峨眉書房』とは。

湿度が鼻先で感じられるような文章を書く。それが筆の力なんでしょうね。

位置: 3,298
密林の樹冠は月光を浴びて金属のような煌めきを放ち、暗い海の彼方は満天の星空と溶け合っている。そんな情景を見つめていると、この観測所が宇宙空間を漂流しているような錯覚にとらわれた。僕たちの足下には陸も海もなく、ただ真っ黒な虚空しかないと感じられるの

短くても端的。森見先生もかなり引き算の描き方になってきた印象があります。何様目線かは知りません。

位置: 4,555
「あれは魔法の杖ではなく、この世界の容れ物にすぎないんだよ。この海、群島、そこで暮らす我々のような人間たち、すべては魔術によってあの木箱の内側に創られた。この世界がカードボックスの中にあるのだから、カードボックスそのものは世界の外にあるわけだ。そんなものを盗めるわけがないだろう」
「でも僕はこの目で見ましたよ」
「水平線は目に見える。しかし存在しているか?」
主人は愉快そうに言った。
「この世界に存在していないものを盗むことなんて誰にもできない。学団の男たちの夢は原理的に不可能なことだ」

レトリックというかなんというか。こういうはぐらかし方が素敵なのも森見文学の魅力ですよね。「水平線は目に見える。しかし存在しているか?」なんて、いい返事じゃないですか。気が利いている。

位置: 4,816
「そんな目で見るなよ、図書館長。あんたの船が沈んだのは俺のせいじゃない。あんたには信心が足りないんだ」
彼は図書館長を慰めるように言った。
「この海では懐疑派が貧乏籤を引く」

この「この海では懐疑派が貧乏籤を引く」ってのもいい。「やんぬるかな」なんて思わせる。

位置: 5,410
長谷川のアパートは小さな工場のならぶ街路を十分ほど歩いたところにあり、裏手にはドブ川が流れていた。長谷川は外階段を伝って二階へ上がった。ドアの脇に貼りつけられた薄い板には「峨眉書房」と書いてある。

出ました、がびしょぼう。四畳半にも夜は短しにも出てきますな。
ガビというのは四川省のあれでしょうか。

位置: 5,869
春琴堂書店を通りすぎたところで喫茶店に入ると、珈琲の香りを含んだ暖かい空気が僕を包む。ラジオから小さく朝の音楽が流れている。
僕は朝刊を手に取って日付を見る。
そこには一九八二年二月四日とある。

珍しく日付が出てくる。

振り返るとほとんど引用すべきところがない。それだけ重要ポイントを絞らせない、つまりふわふわした話だったということでしょう。

読むうちに頭がぼーっとしてくる熱帯、あたくしは最後まで本当に読めたのかしらん?

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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