『トーニオ・クレーガー』感想_1 はじめてのトマス・マン

ノーベル文学賞受賞者。
北杜夫をして「20世紀最大の作家」と言わしめた人。

しかし未読。ようやく一冊目。
知識人への道は遠い。別に目指してないけどね。

ぼくは人生を愛している。これはいわば告白だ――孤独で瞑想的な少年トーニオは成長し芸術家として名を成す……巨匠マンの自画像にして不滅の青春小説、清新な新訳版。併録「マーリオと魔術師」。

出版は1903年。圓生師匠ですら3歳?4歳?

位置: 67
つまり、トーニオはハンス・ハンゼンが大好きで、これまでもハンスのためにたびたび苦しんできたのだった。誰よりも深く愛してしまった者は敗者であり、苦しまなければならない──単純な、だが厳しいこの教えを、たった十四年の人生でトーニオはすでに学んでいた。

惚れたほうが負け、ってな。
冒頭からちょっと『風と木の詩』を彷彿とさせる。

位置: 118
ハンスを知ってからというもの、ハンスを見るたびにトーニオはある 憧れを、 妬ましい憧れを感じた。その思いはトーニオの胸をちりちりと焼いた。君みたいに青い目をして、君みたいにまわりの人たちとうまく楽しくやっていける人はなあ!

嫉妬ですね。読めば読むほどハンスにジルベールを感じる。
劣等感というのは嫉妬から来るケースが多いからね。

位置: 191
こんなふうに何もかもわかってしまうのは……。ふたりきりでいるときは、ハンスはちょっとはぼくが好きになる。それは間違いない。けれども誰か別の人間が来ると、それを恥ずかしがってぼくをさらし者にする。そしてぼくはまたひとりぼっちになってしまうってわけだ。

ちょっと分かるんだよなぁ。
二人だけで閉じた空間で遊びたい、って子供の頃よく思ったもんだ。

位置: 198
ハンスは力をこめて言った。ちやほやされ、自信のある人間にはよくあることだが、ハンスも自分の好き嫌いをすぐに口にする癖があった。まるで、「教えてあげる」とでもいうように……。

このへんとか、100年前の青少年が「はうう」と胸を掴まれたんだろうか。
あたくしは21世紀に掴まれております。好き嫌いをすぐ口にする人は自信のある人。

位置: 218
すると、トーニオ・クレーガーはすっかり幸せな気分になって、意気揚々と歩き出した。風が後ろから押してくる。けれども、足どりが軽やかなのはそのためだけではなかった。
ハンスは『ドン・カルロス』を読むだろう。そうしたらぼくらにしか通じない話ができる。イマータールだろうと誰かほかのやつだろうと、口なんか挟めない。すごく意見が合うだろうな! もしかすると──ハンスにも詩を書かせてしまうかもしれない……

独占欲丸出し。これはいけませんよ。
災いのもと。

位置: 386
それでもなおしばらくの間、トーニオは冷えた祭壇の前に立っていた。そして、この世に誠実などというものがありえないことに 愕然 とし、深い幻滅を味わった。だが、それから肩をすくめて自分の道を歩いていった。

失恋も大事な経験。
それを端的に書いてますね。

恋に冷めるのも大切な失恋。

位置: 414
その力はトーニオの目を鋭くし、人々の大言を見破らせてくれた。そして自分や人の心の奥深くを開いてくれただけでなく、透視力を与えてくれた。世界の内側や言葉と行為の根底にある究極のものを、あますところなく見せてくれたのだった。だが、その結果、いったい何を見たか。 滑稽 と 無惨 ──そう、滑稽と無惨だけだった。
トーニオは孤独になった。 識 ることによって苦しんだだけでなく、高慢になったからだ。

また端的な文章を。
識ることによって高慢になる。ありますね。自戒も込めて。

位置: 446
生きるために働くのではなく、働くことしか望まない人のようにトーニオは働いた。というのも、社会における自分を取るに足らない存在としか見なさず、創造する者としてのみ扱われることを望んだからだ。

どうした、トーニオ。そんなこと出来るのか?
たまにでも、そういう人、いますね。

位置: 453
優れた作品というものは、つらい日常の重圧のなかからしか生まれないこと、人生を愛する者は創造などできないこと、真の創造者でいるためには、死んだも同然でなければならないこと

ストイックすぎる。もっとおおらかに、明るく陽気にいきましょう。

なんて、思春期には聞きたくもないセリフだろうな。

位置: 893
いちばん奥のもうすこし小さな三つ目の部屋は、いまでは同じように本がつめこまれ、やはりぱっとしない男が番をしているが、あそこは長い間トーニオの部屋だった。学校が 退けると、今日のように散歩をしてから帰っていった場所だ。 壁際 には机があって、引き出しにはひたむきな、けれどもつたない初期の詩がしまわれていた……。

久しぶりに行った我が家への郷愁。
こんなこと、現代じゃあないですけどね。けど、いい郷愁だ。体験したことないのに、体験したような気にさせる。

位置: 1,337
つねに斜に構え、鋭すぎる知性のためにぼろぼろになった自分を見た。認識によって疲弊し、 麻痺 し、創造によって生ずる熱や 悪寒 で半ばすりヘった自分の姿を。良心の 呵責 に苦しみながら、高潔さと欲情という、ふたつの極端な世界の間をよろよろと行ったり来たりしている自分、観念的で心貧しい自分を。情熱もなく、作為的に精神を高揚させたために疲れ果て、混乱し、荒み、 苦悶 し、病んでいる自分を──そして悔恨と郷愁にむせび泣いた。
あたりはひっそりとして暗かった。けれども階下からは、 凡庸 な三拍子を刻んで、生きることの喜びが、揺れながら甘くかすかに響いてきた。

結局、創造にストイックになりすぎると幸せになれない、ところまで描いてるんですね。
ほどほどが良いようで。

しかし端的な文章だ。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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