『熱帯』があたまを熱帯夜にさせていく

どんどん難解になっていくんだ。

位置: 336
「なーるほど。だから『沈黙』読書会なんですね」  店主は我が意を得たり、というように 頷いた。 「俺たちは本というものを解釈するだろ? それは本に対して俺たちが意味を与える、ということだ。それはそれでいいよ。本というものが俺たちの人生に従属していて、それを実生活に役立てるのが『読書』だと考えるなら、そういう読み方は何も間違っていない。でも逆のパターンも考えられるでしょう。本というものが俺たちの人生の外側、一段高いところにあって、本が俺たちに意味を与えてくれるというパターンだよ。

むしろ両方のパターンしかないと考えるほうが正しいような気すらします。
僕らが本を読み解くとき、本もまた僕らを解いているってね。あたくしはそんな気がするな。子供のころ経験不足で読めなかった本が、今楽しく読めるってこと、往々にしてあるからね。

位置: 342
だってもしその謎が解釈できると思ったなら、その時点で俺たちの方がその本に対して意味を与えていることになってしまう。それで俺が考えたのはね、もしいろいろな本が含んでいる謎を解釈せず、謎のままに集めていけばどうなるだろうかということなのよ。謎を謎のままに語らしめる。そうすると、世界の中心にある謎のカタマリ、真っ黒な月みたいなものが浮かんでくる気がしない?

結局、この『熱帯』というのはそこにつきる。構造やら読解というのは副次的なものにすぎず、第一として「謎を謎のまま集める・受け止める」というのがこの本の、というか本全体に対するスタンスとして理想的である、ってことかな。つい人は面白く読み解いてしまうし、読み解きづらいものを「つまらない」と言ってしまうけど、そうじゃない、と。
「夢十夜」なんかもそうやって読み解かないのが理想的なのかも。

位置: 448
「小説なんて読まなくたって生きていけます」
そう言って 白石 さんは語り始めた。
そんな彼女も学生時代にはそれなりにいろいろな小説を読んだという。
しかし大学を出て働くようになると、仕事に関係のあるものを読むだけで精一杯という状況になった。有益な本はそれこそ数かぎりなくあったので、彼女は腕まくりをしてそれらの知識を吸収した。慌ただしく暮らしているうちに小説を読む習慣は失われてしまった。 「小説なんて読まなくたって生きていけます」
もう一度白石さんは言った。

この白石さんが主人公のような、しかしそうでもないような。変な話なんですよ、これ。要約できない。

位置: 559
「ちょっと受験勉強みたいですね」
「手間をかけたほうが面白い場合もある。トルストイの『戦争と平和』を読む場合にですね、あの膨大な登場人物たちを人物表も作らずに把握するのはたいへんなことです。主要な人物だけでもメモしておけば、グッと読むのが楽になります」
「なーる」
「なーる、ってなんです?」
「なるほどっていうことですよ、池内さん」
「ああ、なるほど。なーる……」
「でも、私なら人物がこんぐらがる前に勢いで読んじゃいますね」
「それもまたひとつの流儀です。人それぞれですよ」
心打たれた文章をノートに抜き書きするのが楽しみなのだと池内氏は言った。そうやってノートに書きためた文章を持ち歩いて、ことあるごとに読み返す。いずれの文章も自分が手間をかけて抜き書きしたもの、骨肉となるべき文章である。自分の選んだ文章で自分を創っていく、その作業が目に見えるかたちでノートに記録されていく。

やったことないな、メモ取りながらの読書。相関図をネットで検索して読むことはあるけど、メモに比べるとどうも短絡的でいかんような気がする。

位置: 1,454
らしい。小さな階段でつながれたフロアが立体迷路のように入り組んでいる。中二階のようになったフロアには、ぎっしりとならんだ麻雀ゲームの 筐体 が暗がりの底で不気味に輝き、低い天井すれすれを煙草の煙が 靄 のように漂う。陰鬱な顔をした背広姿の男性がくわえ煙草でゲーム機に向かっていた。

神保町にかつてあった『ミッキー』をほうふつとさせます。多分モデルなんじゃないかな。森見さんもいったことあるのかしら。

位置: 2,668
ひょっとして自分はすでに死者となっているのだろうか。奉天の街でソ連兵に撃ち殺されて、いまはただ 魂魄 のみが満州の大地をさまよっているのだろうか。

急に部隊が戦争中の満州へ。このあたり、『ねじまき鳥クロニクル』のような。

位置: 3,227
いた。 「どうしてこんなに椅子があるんですか?」 「人にはそれぞれ座るべき椅子があるからさ」

こういう思わせぶりなセリフをどんと入れてくるの、好きだな。急に格好つけるの。

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