『人間はこんなものを食べてきた 小泉武夫の食文化ワンダーランド』感想 食の知識、詰まってるなぁ

小泉武夫さん、読みやすい。

人類の誕生時から現代まで、人間は何を食べてきたのか? 火や道具による調理法の発達、微生物の利用に見る食の知恵、民族ごとの食文化の違いなどなど、目から鱗の落ちる話満載。小泉先生とたどるおもしろ食文化史!

断定も強いけど、読み物としてすごく易しくて勉強になる。

Ⅰ 食の文化とは

位置: 165
こうして魚は発酵することによって保存性がよくなる。チーズと同じことだ。生の牛乳のままだったらすぐ腐るが、乳酸菌で発酵したらチーズになる。チーズになったら腐らない。それと同じように、自然界にある微生物の力で発酵させる。発酵によってこの魚はいつまでも保つことができるから、冬の貴重なタンパク源として、食べたいときに魚を穴から取り出してきて、いつでも食べることができるのである。

実際、自分で発酵物を積極的に作ったことはないんですが、こういうの読むと作りたくなりますね。

Ⅱ 人間以前からヒトへ

位置: 262
大昔の人たちが食べていたそれらの炭水化物源は、すべてデンプンから成り立っている。ところが、サルやウマ、ヒツジは草を平気で食べている。しかし、人間はそういうわけにはいかない。
その理由は、草は繊維素でできていることだ。草も炭水化物源であるが、人間は消化酵素のなかに繊維素を分解する酵素をもっていないから、たとえこれを食べたとしても消化できないのでエネルギーにはならず、だから食べない。人間はデンプン質のものだけしか炭水化物源にならないのだ。

人間とは弱い内臓をしている。

位置: 273
これは、人間が加熱されていない生デンプンを消化することができないのに対し、サルやチンパンジーは生デンプンを消化できるという違いである。類人猿に限らず、ウマやウシ、ヒツジ、ウサギなども雑穀を生で食べることができるのは、生デンプンを消化できるからである。

当たり前のことだけど、こう言われないと気づかない事実ね。
確かに雑穀を生では食えない。

位置: 303
炭水化物の次に、人間に必要なものはタンパク質である。人間は炭水化物だけでは生きていけない。炭水化物はエネルギーとして重要だが、そのエネルギー効率を高める必要がある。
なぜならば、人間は次の食糧確保のために大いに動かなければならないから、エネルギーを最大限に活用しなければならない。これにはタンパク質が必要なのだ。そのタンパク質源の代表が、雑食性の時代は虫であった。

昆虫食というのは、サバイバルなどでは度々言われますが、ちょっと生理的に難しいものもあります。再び流行ること、あるのかなぁ。

位置: 307
すでに述べたように、糞石から出てきた虫の数はものすごく多い。なかでもいちばん多いのはシロアリだ。シロアリは地球上でいちばん多い昆虫で、これはほとんどタンパク質でできている。次にアリも多い。いまでもあちこちで食べられていて、オーストラリアではアボリジニの人たちがアリをたくさん食べるし、現在、旅行者でも体験的に食べられるところもある。
バッタとかイナゴなどのバッタ類も多い。それからカブトムシ。カブトムシの幼虫は最高においしい。

うーん、ちょっと簡単にはそうですね、と言いづらい。
揚げたりすればなんとか……、いやでもきついな。

Ⅲ 食と知恵の発達

位置: 455
物理的には、強風で大きな木と木のこすれあいが続くと、その摩擦熱でも火がつく。
火がつくと山火事になり、山が燃えてしまう。しかし翌年の春は、ものすごく豊かな恵みがその山を覆う。
山火事によって木が燃えてしまうと、灰の主成分はカリウムなので、焼けた山にはカリウムが豊富になる。カリウムは植物を生長させるのにいちばんよい養分だ。

焼き畑の自然版ってやつね。灰なんてもんが植物に良い、というのはにわかには信じられないことでしたね、昔の自分には。

位置: 512
最近はおこわをあまり食べないが、炊いたご飯を食べるようになったのは室町時代の初期である。それ以前の平安時代の貴族は「 飯」、つまり、蒸したご飯を食べていた。炊いたご飯のことは「 飯」という。なぜ平安時代までは蒸して食べていたのかというと、火に耐えられる煮るための器がなかったからだ。火の高温に耐えられる鉄や陶器がつくられるようになれば煮て食べられるが、鉄が一般家庭に普及してくるのは室町時代の初期で、それまでは蒸して食べるしかなかったのである。

蒸した米は「いい」、炊いた米が「めし」なんだそうな。

位置: 579
それは、笹の葉は包んだものの水分をとって自分で乾燥する性質がある。いわば天然の乾燥剤と考えてよい。

だから、握り飯を笹の葉で包んである描写があるんだな、今更ながら納得。

位置: 631
燻製がなぜ腐らないかは、葉に包むのと同じ原理である。葉にはポリフェノールがあるが、煙にも葉っぱとは種類の違うポリフェノールがいっぱいあり、これによって微生物を抑えることができるのである。

勉強になります。

位置: 640
昔、指を切った、足を切ったというと、すぐに灰をなすりつけたものだ。これで化膿せずに治ってしまう。灰には防腐効果があるので腐敗菌がこないから治るのだ。

灰かぶり姫って、意外と健康的だったりとか。

位置: 653
食べるときは、水でじゃぶじゃぶと洗って灰を落とすだけ。もう燻製になっているから、灰を落とすだけで食べられるわけだ。とにかくダイナミックな保存法であった。

まったく。灰まみれになったものを洗って食うってのは、それはそれで度胸がいるかと思いきや。しかし優れた保存法なんですね。

位置: 662
それほど土壌には菌が多いのだ。
そんなところに、ジャガイモの切ったのを入れたら、どうなるか。ジャガイモにはデンプンがあり、ミネラルがあり、ビタミンがある。微生物にとっては最高の栄養源、つまり 餌 だ。ジャガイモはあっという間に腐ってしまうだろう。これを防いでくれるのが灰である。灰をまぶすことによって、その抗菌作用のために土壌微生物をブロックすることができるのだ。

すごいなぁ。その過程を色々すっ飛ばして、現代人は呑気に生きている。ありがたいね。

Ⅳ 国の始まりは食の分配から

位置: 731
日本でも、ほとんどの神は作物や山の神だが、食べものを安定して供給してくれる、いわば食べもの専門の神様としてできたのが伊勢神宮だ。伊勢神宮の内宮の中に、 豊受大神宮が祭られている。なにを豊かに受けるのか──もちろん農産物である。だから、豊受大神宮に供えるものはすべて酒と農水産物で、 神饌 の供物としてそれ以外は上げないことになっている。

とようけだいじんぐう、なるほど。富の再分配こそが国家の基本中の基本である、と。そうだよね。

Ⅴ 発酵が食の歴史を変えた

位置: 790
酸っぱくなれば、もう魚は腐らない。梅干しが腐らないのと同じ原理である。 pH が三・八以下になったら、バクテリアはこなくなる。バクテリアはとにかく塩と酸に弱いのだ。

バクテリア、つまり細菌すね。

位置: 852
私にいわせれば、「チーズは熟鮓である」と極論できるのだから。

美味しんぼにそんな話がありましたね。

位置: 910
これを食べているところは韓国の全羅南道の 木浦 という港町だ。全羅南道の人たちは冠婚葬祭にかならずこのホンオ・フェを出す。出す量によってその宴席の格式が決まるというので、非常に高価なものにもかかわらず、いっぱい出てくる。そしてみな、これを食べてポロポロと涙を流すのである。私は世界中の珍しい食べものを食べてきたが、催涙性の食べものはこれが初めてだった。

韓国人の友人に聞きましたが、食べたことはないとのこと。
ふーむ、ホンオ・フェ。興味はある。食える気はしないけど。

位置: 940
ちなみに、臭みの強さを測定するアラバスターという精密機械で測定してみたところ、次のような結果となった。数字が大きいほど臭みが強いということだ(AUとはアラバスター 単位)。
納豆 四〇七AU
くさや 四七七AU
焼いたくさや 一〇二五AU
私の靴下 一三九AU
野球部の学生の靴下 四九〇AU
シュールストレンミング 八〇九四AU

シュールストレミング、昔、日ハムにそんな投手がいたのはさておき、食べたことありますよ。代々木公園に捨てることになりましたがね。あれはいい思い出だ。焼いたくさやの8倍のくささ。

位置: 946
ニュージーランドの「エピキュアーチーズ」も有名だ。臭いチーズのなかでもとびきり臭い。缶詰の中で発酵と熟成をする点でも、シュールストレンミングと兄弟分である。発酵菌はプロピオン酸菌と乳酸菌で、強烈なにおいがする。においについては形容しがたいが、すごみのあるにおいとでもいえようか。だいたい、チーズが缶詰になっていること自体があやしい。

あやしいですねぇ。しかし、興味ある。

位置: 956
においの強い食べものはこれくらいにして、とにかく食べものを発酵法によって保存することは、一歩進んで考えると、ビタミンやミネラルを補給することにも通じる。キビャックやホンオ・フェ、シュールストレンミングをはじめ 熟 酢 もビタミンの宝庫なのだ。まさに一石五鳥でも六鳥でもある。大昔の人たちはいろいろな知恵をもっていたことがわかる。

臭い、ばっかりだと片手落ちということですね。
ビタミンの宝庫というのはちゃんと理解しないといけない。

位置: 959
食べものを微生物で保存することに関して、日本にしかないものがある。カビを使うことだ。発酵は、一般的に酵母、細菌、そしてカビの三大微生物によって行われる。

位置: 964
日本では、鰹節が代表的なカビによる発酵保存食品だ。鰹節は、世界でもいちばん堅い食べもので、二番目に堅いのが干した 鮑。鰹節がなぜあんなに堅くなったかというと、カビの力による。鰹節は、カツオを三枚におろしたものを煮て、その後で燻す。そうすると、表面の水分はとんで、内部に水が残る。この状態が 荒節 だ。この荒節を舟形に削って天日に干す。

もやしもんの世界だ。
日本のカビ食文化。

Ⅵ 調理と料理

位置: 1,026
次に目につけたのは、木や草を燃やしたあとの「灰」であった。灰はものすごくミネラルが多い。木は水分と一緒に土中のいろいろなミネラルを吸い上げている。だから、それを燃やして得られる灰は、山の中の人たちにとっては非常に重要なミネラルの補給源だった。特にべとばのまわりの草、 灌木 には塩分が多い。その灰を水の中に入れておくと、灰の成分が水の中に溶出される。その水を飲むことによって大変な塩分の補給にもなる。

灰を入れた水、という文字的にはあんまり美味そうじゃないもの。しかし、栄養満点なんですね。

Ⅷ 食文化と酒

位置: 1,480
そんな田舎のぼんくら中学生の私でも酒がつくれたのだから、果物(糖)があって、器があって、酵母がいたら、旧石器時代にも酒ができても不思議ではない。これが、私の大胆な考えである。だから、人類が最初につくったお酒は果実からつくったものだと思うし、果実はヤマブドウ、キイチゴ、コケモモ、クマイチゴ、桑の実などの漿果であっただろう。
日本でさえこうなのだから、もっと南の地方──ヤシの実やバナナなどがとれるところでは、さらに前から酒が発生していただろうとも考えられるのだ。
これはあくまでも小泉説だが、何度も繰り返すようだが、糖があって、器があり、酵母があった旧石器時代にはお酒があったと考えるほうがむしろ自然である。

まったくそうだね。人間は古代から酔っ払ってきたのであります。ふふ、うれしい。

位置: 1,525
この口噛みの酒の歴史も古く、日本では『 播磨 国風土記』にその記述があるが、もちろんこれは文献上のことで、実際はもっともっと古くからあっただろう。そしておもしろいことに、口噛み法による酒づくりは南米のアンデスや東アジア、東南アジア、西アジア、アフリカなどにも点在してあることがわかっており、世界中で行われていた方法なのである。

頼もしいね。人類みな酔っ払い。しかも口噛み。よきよき。

位置: 1,816
さて、その日本酒をつくるときには、仕込み水(原料水)の中に〇・〇二 ppm 以上の微量の鉄が含まれていると、もう酒ができないのである。それ以上鉄が含まれていると、麴菌のつくったデフリフィリクロームと鉄が反応し、デフリフィリクシンという物質ができる。これはものすごい発色物質であり、できた酒が錆びたように赤褐色になってしまい、市場性を失うのである。
それでは、世界で鉄が〇・〇二 ppm 以下という純水に近い水のあるところはというと、不思議なことに日本だけである。

なるほど。日本酒の奇跡ですね。
この「○○なのは日本だけ」って表現、そのものにはなんとなく胡散臭いものを感じますが、日本酒の奇跡は信じたくなりますね。酒飲みだからかな。

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