『ノルウェイの森』のミドリは下巻に入ると途端に可愛らしくなる

みごとなキャラチェンジです。

p155
彼女の乗った列車が見えなくなってしまうと、僕と小柄な女の子はどちらから誘うともなくホテル に入った。僕の方も彼女の方もとくにお互いと寝てみたいと思ったわけではないのだが、ただ寝 ないことにはおさまりがつかなかったのだ。
ホテルに入ると僕は先に裸になって風呂に入り、風呂につかりながら殆んどやけでビールを飲 んだ。女の子もあとから入ってきて、二人で浴槽の中でごろんと横になって黙ってビールを飲ん でいた。どれだけ飲んでも酔いもまわらなかったし、眠くもなかった。彼女の肌は白く、つるつ るとしていて、脚のかたちがとてもきれいだった。僕が脚のことを賞めると彼女は素っ気ない声 でありがとうと言った。
しかしベッドに入ると彼女はまったくの別人のようになった。僕の手の動きにあわせて彼女は ル 敏感に反応し、体をくねらせ、声をあげた。僕が中に入ると彼女は背中にぎゅっと爪を立てて、オルガズムが近づくと十六回も他の男の名前を読んだ。僕は射精を遅らせるために一所懸命回数を数えていたのだ。そしてそのまま我々は眠った。

知らないけど、そんなことある?というのがあたくしの人生観。どちらからともなくホテルって入るもんですか。そうですか。寝たいと思わなくても収まりがつかなきゃ入るんですかね。まるで分らん。

p262
射精が終ると僕はやさしく彼女を抱き、もう一度口づけした。そして直子はブラジャーとブラ ウスをもとどおりにし、僕はズボンのジッパーをあげた。
「これで少し楽に歩けるようになった?」と直子が訊いた。
「おかげさまで」と僕は答えた。
「じゃあよろしかったらもう少し歩きません?」
「いいですよ」と僕は言った。

この賢者タイムの緩い感じ、嫌いじゃない。ちょっと言葉遣いが変わるの、可愛らしいですね。

p10(下巻)
「昨日はどこまで話したっけ?」とレイコさんが言った。
「嵐の夜に岩つばめの巣をとりに険しい崖をのぼっていくところまでですね」と僕は言った。
「あなたって真剣な顔して冗談言うからおかしいわねえ」とレイコさんはあきれたように言っ た。「毎週土曜日の朝にその女の子にピアノを教えたっていうところまでだったわよね、たしか」
「そうです」

この主人公のとぼけた感じ、可愛らしいです。あたくしは冗談を言うとき、冗談だよって顔をしちゃうのでこの領域にはたどり着けない。

p18
 仕方ないから私、その子の頭を抱いて撫でてあげたわよ、よしよしってね。その頃にはその子 は私の背中にこう手をまわしてね、撫でてたの。そうするとそのうちにね、私だんだん変な気に なってきたの。体がなんだかこう火照ってるみたいでね。だってさ、絵から切り抜いたみたいなきれいな女の子と二人でベッドで抱きあっていて、その子が私の背中を撫でまわしていて、その 7 撫で方たるやものすごく官能的なんだもの。亭主なんてもう足もとにも及ばないくらいなの。

この女の子も悪の権化みたいな感じの描かれ方でずいぶん魅力的なんですが、終わってからみると本当にちょっとしか出てこない。こういう味付けのキャラクターが多く出ては消えるのが村上春樹作品の特徴なのかもしれません。妙に去り際がいい。

p50
僕と緑はそんな街をしばらくぶらぶらと歩いた。緑は木のぼりがしたいと言ったが、新宿に はあいにくそんな木はなかったし、新宿御苑はもう閉まる時間だった。
「残念だわ、私木のぼり大好きなのに」と緑は言った。
緑と二人でウィンドウ・ショッピングをしながら歩いていると、さっきまでに比べて街の光景 はそれほど不自然には感じられなくなってきた。
「君に会ったおかげで少しこの世界に馴染んだような気がするな」と僕は言った。
緑は立ちどまってじっと僕の目をのぞきこんだ。「本当だ。目の焦点もずいぶんしっかりして きたみたい。ねえ、私とつきあってるとけっこう良いことあるでしょ?」
「たしかに」と僕は言った。
五時半になると緑は食事の仕度があるのでそろそろ家に帰ると言った。僕はバスに乗って寮に 戻ると言った。そして僕は彼女を新宿駅まで送り、そこで別れた。
「ねえ今私が何やりたいかわかる?」と別れ際に緑が僕に訊ねた。
「見当もつかないよ、君の考えることは」と僕は言った。
「あなたと二人で海賊につかまって裸にされて、体を向いあわせにぴったりとかさねあわせたま ま紐でぐるぐる巻きにされちゃうの」
「なんでそんなことするの?」
「変質的な海賊なのよ、それ」
「君の方がよほど変質的みたいだけどな」と僕は言った。
「そして一時間後には海に放り込んでやるから、それまでその格好でたっぷり楽しんでなって言って船倉に置き去りにされるの」
「それで?」
「私たち一時間たっぷり楽しむの。ころころ転がったり、体よじったりして」 「それが君の今いちばんやりたいことなの?」
「そう」
「やれやれ」と僕は首を振った。

春樹節全開のやつ。女の子がどんどん奔放になっていく。この過程のミドリは、というかこのあたりからミドリが急に可愛くなる。前半の描かれ方と地続きとは思えませんね。直子も急に性格変わったりするけど、それが春樹の人生観なのかしら。

そういえば高校の時にこういうこと言いだす奴がクラスにいて、唐突にリンゴを買ってきて頭の上にのせてウィリアムテルごっこをした記憶があります。あれはなんだったんだ。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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