前後編なんですが、スラスラ読めちゃう。
古典とは違った楽しさがあります。
全日本マーチングコンテストに向けて、過酷な特訓を重ねる立華高校吹奏楽部の部員たち。1年生ながらAメンバーに選ばれた梓も日々練習に励むが、梓に相談もなくカラーガードを志望したあみかとのあいだにはしこりを残したままだった。梓の胸に蘇る、中学時代のトラウマ。そんななか、マーチングコンテストを目の前にして思わぬアクシデントが起こり……。アニメ化話題作に新シリーズ登場!
しかし梓という人物はどこまでもポジティブで明快。あまり物語の主人公には向かないタイプのような気がします。独白が薄い。正義がしっかりしていて議論にならない。
位置: 681
「梓さ、前に私に言ったやん。頼られるのが好きって。でも、あみかはもう梓に頼らんことを選択してんで。梓はいつまであみかに頼るの」
「うちがあみかを頼る? 逆やろ」
「逆ちゃう。ほんまは自分でもわかってるんやろ。相手がおらんくなって困るのは、あみかやなくて梓自身やって」
「そんなことない!」
共依存の崩壊。
どろどろしていますが、梓の前向きさがその重みを軽くしちゃってる。
位置: 842
夢と記憶の境目が、ときおりひどく曖昧になるときがある。これははたして自分の脳が見せる妄想なのか、それとも実際にあった出来事なのか。手探りで過去をたどってみると、乾燥した指の端にコツンと何かが引っかかった。
「乾燥した指の端」っていい表現ですよね。
武田さんってこういうのとても上手だし、またその自覚がお有りな感じ。
位置: 2,040
「梓さ、昔からそうやったん?」
「何が?」
「人間関係。前からさ、そんなに極端なん?」
そんなことないけど。そう言おうと口を開いた梓は、しかしそこで動きを止めた。芹菜の顔が、あの日の光景が、一瞬だけ脳裏をよぎったからだ。確かに芹菜も志保と似たようなことを言っていた。あのときの梓も、やっぱりその台詞の意味を理解することができなかったけれど。
ポジティブな人間のオール・オア・ナッシング感というか、そういうのは少なからずあたくしも感じているところで。ただ、ネガティブな人間もオール・オア・ナッシングに取り憑かれることがあるんでね。なんとも言えない。
位置: 2,531
キャーという黄色い悲鳴とともに、部員たちは駆け足でフロアへと足を踏み込む。部員たちの夢をかけた六分間が、いままさに始まろうとしていた
*
本番を終えて楽器の搬出を終えるころには、表彰式の時間となっていた。
本番をあえて書かない。武田先生の十八番。
良い余韻だな。
位置: 2,833
一礼した梓に、未来が笑顔で手を振った。南は未来のほうを向いたまま、手だけをこちらに向ける。一見普段どおりにも見える無表情なその横顔からは、しかしよく見ると焦りの色が濃く浮き出ていた。梓は速やかに保健室から退室すると、音を立てないように扉を閉めた。隙間がなくなるその瞬間、未来のすがるような嗚咽の音が梓の鼓膜に突き刺さった。
泣いちゃうよ。泣いちゃう。
こっちだって泣いてるもの。嗚咽ですよ。
無念ですね、まさに。マーチングゆえの怖さ。
位置: 3,222
「佐々木も、早く体調直しなよ!」 「えっ」 唐突に告げられた懐かしい呼称に、梓は一瞬呆気に取られた。慌てて扉を開いたときには、すでに芹菜の後ろ姿は見えなくなってしまっていた。
玄関を閉めると、家には再び静寂が舞い戻ってきた。なんだか都合のいい夢を見ていたみたいだ。リビングに戻ると、ウナギがテーブルの下で腹を出して眠っている。その上に置かれたふたつのグラスが、先ほどのやり取りが現実であることを梓に教えてくれていた。
「呼称が戻ったこと」で二人の関係が修復されたことを示し、加えて「グラス」で事実を語る。このへんの構造というか風景と心理が重なり合うように物語を構成するのがほんと上手い。
でも2冊も読むと、やっぱり黄前久美子が懐かしくなるね。やっぱり主人公は黄前ちゃんしかいないよ。
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