『響け! ユーフォニアムシリーズ 立華高校マーチングバンドへようこそ』は本家以上にスポ根 1

黄前久美子が主人公の本編よりスポ根です。

マーチングバンドの演奏を見て以来憧れだった立華高校吹奏楽部に入部した佐々木梓は、さっそく強豪校ならではの洗礼を受ける。厳しい練習に、先輩たちからの叱責。努力家で完璧主義の梓は、早く先輩たちに追いつけるよう練習に打ち込むが、楽器を演奏しながら動くことの難しさを痛感する。そんななか、コンクールに向けてオーディションが行われることになり……。アニメ化話題作に新シリーズ登場!

座奏も当然ながら、それ以上にマーチングに青春をかける少年少女の物語。
その心理描写の巧みさから、すっかりファンになりました。京都アニメーションの影響も大きいです。

位置: 107
吹き鳴らされるメロディーは、あまりに聞き慣れたあの楽曲──シング・シング・シング、立華高校の十八番だ。


あぁ、この曲かってなりますよね。映画『マスク』で流れていたような。
確かにこれはノッちゃう。踊っちゃう。スウィングしちゃうわ。

位置: 420
そう尋ねると、志保は少しばつの悪そうな顔をした。筋ばった指先が、深緑色のジャージをなぞる。手の汗をこすりつけるように、梓はTシャツの裾をつかむと、ぱたぱたと前後に動かし

武田先生の特徴として手とか足とかの動きが妙に細かいのがあります。「筋張った指先が深緑色のジャージをなぞる」なんて、妙に具体的。

位置: 1,398
「梓相手やし、めっちゃ正直なこと言っていい?」
「え、何? わざわざ聞かれると怖いんやけど」
「べつに、そんなたいしたことちゃうねんけどな、」
両手を膝の上に行儀よく置くと、志保はカラカラと力なく笑った。まるでなんでもないような口ぶりで、彼女は言う。
「私、あみかのこと好きになれへん」
沈黙が落ちる。三角座りをするように、梓は自身の太ももを引き寄せる。膝小僧に顎をのせ、梓は目を伏せた。
「知ってたよ」
「そっか」
「うん」

そうなんだよ、こういう嫉妬とか憎悪とかね、好悪入り混じった複雑な感情をテーマにするんですよ、この著者。これが最高なんだ。細かい描写が実にしっくりくる。

位置: 1,484
私、アンタのそういうとこ見ると、苦しくなる。アンタがそうやっていい子であればあるほど、自分がどんどん惨めになる」
まくし立てられた言葉は、きっと彼女の本心に違いなかった。苦しげにゆがんだその顔は、涙をこらえているようにも梓には見えた。すりガラス越しに見える廊下の灯りはうすぼんやりとしていて、いくら手を伸ばしてもつかめそうにない。電気を消したままの教室は暗く、光によって引かれた空間の境界線は、世界を明確に区切っている。蛍光灯に 煌々 と照らし出された廊下を、ほかの部員たちが通り過ぎていく。彼らはこちらに気づかない。光に目を奪われているあいだ、人間は暗闇のなかに何があるかなど気にしようともしないのだ。
「べつに、いい子ちゃうよ」
志保の腕の輪郭を指先でたどりながら、梓は告げる。
「うちはね、自分のためにみんなの手助けをしてんの」

しかし全体的に青春のベールで包んであるので、のどごしは爽やかなんだな。
しかし内包されているのは青春に限らず人生単位で付き合わなければならない難しい命題。まっこと、人間というのは面倒くさい。

位置: 1,677
「みんなちゃんと見てるから、頑張ってるとこ。やから、腐ったらあかんよ」  かけられた言葉からは、先輩の確かな気遣いが感じられた。ほかの先輩たちが初心者であるあみかを気にかけているのと同じように、栞は志保のことをきちんと見てくれていた。同じ経験者として何か思うところがあったのかもしれない。

「ちゃんとみてるよ」ということを伝えることって難しいんですよね。大人になってもそう。ここではストレートに行って成功しているけどね。そこが10代のいいところでもある。

宝島。途中で流れます。音楽の基礎教養がないと、読みながらこういうのもいちいち調べないとわからないよね。

位置: 1,848
「佐々木さんさ、病気や思うよ」
芹菜は言った。その声は 平坦 で、なんの感情も映してはいなかった。スクールバッグのファスナーを開き、梓はそのなかにノートを乱雑に突っ込む。振り返ると、芹菜が一歩だけこちらに歩み寄った。
「何が?」
「そうやって、誰とでも仲良くなろうとするの。自分が不利な立場にならんように、みんなに八方美人して。嫌われたくない病にかかってる」

嫌われたくない病、というカロリー高めの言葉。
いや、誰だってそうよ。程度こそ違えど。
嫌われたって構わない人ってそんなにいないし、嫌われたら堪えるでしょ。

位置: 1,858
ただ、と彼女はそこで一度言葉を切った。窓の隙間から、夕焼けの空気をたっぷりと吸った春風が吹き込んでくる。カーテンがばさりと揺れた。生温かい風が芹菜の横顔を優しくなでる。長い前髪が翻り、そこからふたつの眼が現れた。睫毛に縁取られた、黒目がちの双眸。そこに映り込む鮮やかな紅に、梓は無意識のうちに息を呑んだ。芹菜がこちらを見ている。梓を、まっすぐに見つめている。ツンと上を向いたその小さな唇が、嘲笑するように静かにゆがんだ。
「佐々木さん、全然楽しそうには見えへんけど」
侮慢をはらんだ彼女の声に、カッと頬に熱が走った。こんなふうに直接的に他者から悪意をぶつけられたのは、これが初めてのことだった。

それでも、梓は天性の前向きなんだな。こんなこと言われたら凹むのが当たり前だけど、立ち直るのが早い。

位置: 3,081
三年生部員のなかには、音楽室に残って練習している者も多い。しかし、梓は先輩に交じって練習することを避けるようにしていた。やりたい箇所を気ままに吹いていると、あらぬ誤解を生むことが多々あるからだ。中学時代の経験から、梓は吹奏楽部という場所の怖さを正しく理解していた。

「正しく」ね。実力主義の世界は怖い。なあなあが一番。

位置: 3,138
「今日さ、未来のソロの代理やったやんか」
「あ、はい」
「アレ、当然やと思わんといてな」
ゴクリと、無意識のうちに喉が鳴った。まさか栞にそのようなことを言われるとは、微塵も思っていなかった。タオルに包まれたマウスピースを、梓は布越しに強く握る。
「未来が本番当日に休むことになったら、きっと梓がソロを吹く。梓が二番目に上手いってこと、みんな認めてる。でも、ほかの三年もソロをやりたいと思ってることは忘れんといて」

こういうこと、言っちゃうんだよね。あたくしも言っちゃうタイプ。
言っちゃだめなんだよ、こういうの。わかってても。今は黙れるかな?黙れるといいな。

位置: 3,143
「悔しいって思ってるよ、みんな。カッコ悪いから言わへんだけで」  そう言って、彼女はマウスピースをハンカチで拭った。水がこれ以上こぼれないように、彼女はきつく蛇口のハンドルを閉める。 「それだけ」  栞は顔を上げ、そこでようやく梓の目を見た。その瞳の奥にある感情は、嫉妬によく似た色をしていた。

嫉妬によく似た色、ってのが詩的だよね。
それって何色よ、ってね。栞はいいキャラクターだな。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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