中田永一著『吉祥寺の朝日奈くん』感想 やっぱり刺さらぬ

やっぱり乙一の面白さはピンと来ない。

彼女の名前は、上から読んでも下から読んでも、山田真野(ヤマダマヤ)。吉祥寺の喫茶店に勤める細身で美人の彼女に会いたくて、僕はその店に通い詰めていた。とあるきっかけで仲良くなることに成功したものの、彼女には何か背景がありそうだ…。愛の永続性を祈る心情の瑞々しさが胸を打つ表題作など、せつない五つの恋愛模様を描く中田永一の代表作。

某podcastで強烈にオススメされていたので読んだんです。乙一がそれほど刺さらないんだよなぁとは思っていましたが、案の定刺さりませんでしたね。叙述トリックとしてはそれほど完成度が高くないと思うんですよね。

ラクガキを巡る冒険

位置: 788
「桜井さんは、どうして、森君のことで、こんなことを……?」
「なんとなく、だよ」
すこし無言であるいて、何か言葉を継ぎ足すべきだとかんがえる。
「私も、小学生のとき、おなじような目にあったから。でも、だれも味方がいなかったから」
そのとき、自分と話をしてくれる同級生がいたら、その後の性格はずいぶんかわっていたのかもしれない。

この話は、ちょっと切なくて好きでしたね。

いじめられっ子の机に落書きしたのは誰なのか、から始まるミステリ。どんでん返しに更にどんでん返しがあり、なんともエモい。狭い世界で繰り広げられる話が好きなので、これは刺さりました。

刺さる話もある。

吉祥寺の朝日奈くん

位置: 2,824
「どうしよう、朝日奈くん」
不安そうに眉をよせて僕を見る。
「夕飯、食べてきてもいいって」
吉祥寺シアターの前の歩道で、彼女は立ったまま、だまりこんだ。芝居を観終えた人々が、建物から出てきて散らばっていく。
「旦那は私が、女の子の友だちと芝居を観に行ってるとおもってるわけ。いつも仕事ばかりでかまってやれないからって、遠野の世話をひきうけてくれたの。遠野の分の夕飯も、自分でつくるって。どうしよう、朝日奈くん。すごい罪悪感だよ」
すこしだけうつむいて、次に顔をあげたとき、彼女は言った。
「今日は、帰る」
僕たちはゆっくりと駅にむかってあるきだした。会話はなかった。

娘の面倒や飯の支度くらい、普通だろ、って思いはありますけどね。
しかし、このあたりでグッと引き込んでおいて、あとで落とすという。上手いね。

位置: 3,011
全員の出発する用意がおわると、山田真野が、玄関のほうにむかったので、僕はそれを引き止めた。玄関に置いてあった彼女のブーツと遠野の子供用の靴を持って、八畳一間の部屋にもどり、アパート裏手に面している窓をあけた。僕の部屋は一階にあるため、そこから直接、外へ出られるようになっている。
「こっちから出てもらいます」
「なんで?」
「まあ、いいじゃないですか」
アパート裏には、洗濯物を干すための小さな庭がある。

なんで?と読者みんなに思わせる。テクニックだね。

位置: 3,029
「私たちが、玄関を出入りするのをさ、見られたくなくて、裏から出たの?」
「ちがいます」
「じゃあ、なんで?」
「正面から出たら、山田さんは、写真を撮られていました」

そこまで知っているってのは同業者ってことだ。このあたりは教科書通りで鮮やか。

結論

やっぱりあんまり刺さらない。なんだろうね。
面白い話なんだけど、裏切られた快感が少ないんですよねー。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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