『山猫の夏』 読めば分かる圧倒的なかっこよさ

長かった。が、長いと思ったことは本当に少なかった。

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船戸冒険小説の原点(ブラジル篇)。ブラジル東北部の町エクルウは、アンドラーデ家とビーステルフェルト家に支配されている。両家はことごとに対立反目し、殺し合いが絶えない。そんな怨念の町に、<山猫(オセロット)>こと弓削一徳(ゆげいっとく)がふらりと現れた。山猫の動く所、たちまち血しぶきがあがる。謎の山猫の恐るべき正体はいつ明かされる?

ブラジルには人一倍思い入れがありますが、中でもペルナンブコ州にはかなりあります。
新婚旅行で一番長く滞在した州がこちらですからね。

ここで繰り広げられる、ハードボイルドな物語。
あまりハードボイルドは好きじゃない、と思っていたのですが、これは面白かった。『ロング・グッドバイ』が肌に合わなかったからかしら。すこし毛嫌いしていたのですが、これは面白かった。

“『ロミオとジュリエット』の舞台に三船敏郎『用心棒』が現れたら”みたいな話。
kindle版には高野秀行氏の解説がついてなくて、ちょっと残念でありんした。

次から次へと繰り出され続ける血の連鎖。
その修羅場を生き抜く主人公のビルディングスロマン。
「山猫」のもつ陰惨な背景と圧倒的な逞しさ。

どれも、どれも、素晴らしくいいカタチ。かっちょいい。かっちぶー。
読むのに時間はかかれど、それだけの価値は間違いない、素晴らしい小説。

「戦争終結後二年くらい経って、戦勝派の内部がおかしくなりはじめたのだ。何かがすさまじい勢いで腐っていった。なめくじどもがあっという間に徘徊しはじめたのだ。戦勝派の運動そのものを金に換えようとする輩が戦勝派を巣食いはじめたのだ。すでに無価値になった日本の旧円を売りつける。日本が占領してるというふれこみで南洋の土地を売りつける。来るはずのない日本への帰国船の切符を売りつける。なめくじどもはそうやって日本の勝利を信ずる移民たちからなけなしの金を巻きあげていった」  そのことについても、おれは多少、耳にしている。旧日本円の販売、旧植民地の土地の販売、偽船切符の販売、そして、最後には朝香宮と名乗る偽皇族の出現まで、戦勝派の何人もの人間が汗水垂らして貯めた金を巻きあげられたと聞いている。
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地球の裏側のハードボイルド小説かと思うなかれ。
内容としては我々日本人に無関係どころか大いに関係ある、示唆に富んだ内容でした。
再読を期したいですな。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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