『羊をめぐる冒険』感想① ふむ、出だしは面白い #村上春樹 #羊をめぐる冒険

マツオさんが面白いというので。やれやれ。

第4回(1982年) 野間文芸新人賞受賞
「羊のことよ」と彼女は言った。「たくさんの羊と一頭の羊」「羊?」「そして冒険が始まるの」 故郷の街から姿を消した〈鼠〉から〈僕〉宛に、ある日突然手紙が届く。同封されていた一枚の写真が、冒険の始まりだった。『1973年のピンボール』から5年後、20代の最後に〈僕〉と〈鼠〉がたどり着いた場所は――。野間文芸新人賞受賞の「初期三部作」第三作。

物語の冒頭に我が懐かしのキャンパスが出てきたりしてほっこり。
三島由紀夫の市ヶ谷のシーンが出てきたり、意外と昭和感を感じさせる。そういうのと無縁のアーバンライフが春樹だと思っていたので、ちょっと意外。

位置: 269
「とにかく、誰とでも寝ちゃう女の子だったのね?」 「そうだよ」 「でも あなたとは 別だったんでしょ?」  彼女の声に何かしら特別な響きがあった。僕はサラダの皿から顔をあげ、枯れた鉢植えごしに彼女の顔を見た。 「そう思うの?」 「なんとなくね」と彼女は小さな声で言った。「あなたって、そういうタイプなのよ」 「そういうタイプ?」 「あなたには何か、そういったところがあるのよ。砂時計と同じね。砂がなくなってしまうと必ず誰かがやってきてひっくり返していくの」 「そんなものかな」  彼女の唇がほんの少しほころび、そしてもとに戻った。

正直、あたくしもそういうタイプになりたかった。そして、まるでそういうタイプではないのが今のあたくしであります。「でも、あなたとは別だったんでしょ?」ってセリフ、ミステリアスでいい。普通の女の子がいうなら嫉妬とも取れるけど、そう単純に思わせないところがこの著者の凄いところ。

位置: 447
あるカーブはあらゆる想像をこえた大胆さで画面を一気に横切り、あるカーブは秘密めいた細心さで一群の小さな 翳 を作りだし、あるカーブは古代の壁画のように無数の伝説を描きあげていた。耳たぶの 滑らかさは全ての曲線を超え、そのふっくらとした肉のあつみは全ての生命を 凌駕 していた。

耳たぶの美しさを描いたこの描写。もしかしたら本作で一番好きかも。いきなりだけど。フェティッシュなものを語るなら、どこがどう好ましいかしっかり書くことが大切。そして、ここではそれが端的に美しく書かれています。好ましい。

位置: 491
僕が話し出そうとした時に、ヘッド・ウェイターが確信にみちた靴音を響かせて我々のテーブルにやってきた。彼は一人息子の写真でも見せるようににっこりと 微笑みながらワインのラベルを僕に向け、僕が 肯くと感じの良い小さな音を立てて栓を抜き、グラスにひとくち注いでくれた。凝縮された食費の味がした。

位置: 847
「私はその方から全権を委任されて、ここに来ています」としばらくあとで男は口を開いた。「つまり、私がこれからあなたに申し上げることは全てその方の意志であり、希望であると理解していただきたい」 「希望……」と相棒は言った。 「希望というのはある限定された目標に対する基本的姿勢を最も美しいことばで表現したものです。もちろん」と男は言った。「別の表現方法もある。おわかりですね?」  相棒は頭の中で男の 科白 を現実的な日本語に置き換えてみた。「わかります」

シニカル。食費を切り詰めた状況でくう無駄な贅沢メニューは、札束の味がするよね。貧乏なら特に。そういうみみっちさとは真逆のステキアーバンライフばかりを春樹は書くと思っていたから、またまた意外。

そして後者は脅し。慇懃な恐怖というのは意外と書きづらくて、その点でもきっちりしてる。うん、序盤、いいぞいいぞ。どんどん読める。

さて、後半はいかに。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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