アガサ・クリスティー著『ナイルに死す』感想 不連続殺人事件の元ネタか

たまたま読んでいた『不連続殺人事件』と似てる

美貌の資産家リネットと夫サイモンのハネムーンはナイル河をさかのぼる豪華客船の船上で暗転した。轟く一発の銃声。サイモンのかつての婚約者が銃を片手に二人をつけていたのだ。嫉妬に狂っての凶行か?……だが事件は意外な展開を見せる。船に乗り合わせたポアロが暴き出す意外な真相とは?

ま、こっちの方が先なんでしょうけどね。調べたらやっぱり同じこと思っていた人、多いみたい。

やっぱそうだよね。クリスティから持ってきちゃうと、分かりやすいよね。

位置: 363
その連中のほとんどが、疲れ果てた、退屈至極な顔をしている! ただ、小太りの健康そうな男たちだけが楽しんでいるようにみえる。反対に、彼らの踊りの相手の女たちは、いかにも辛抱強く我慢しているといった様子だ。あの紫の服を着た太っちょの女は晴れ晴れとした顔をしてるなあ……とにかく、太った人間たちの方が大いに人生を楽しんでいるといったふうだ……身体つきのほっそりした連中は何となく、精気というか、心からの喜びが欠けているようだ。

本筋とは全く関係ないけど、楽しそうなデブっていいよね。

位置: 562
「わかってるさ。お母さんは、他人の夫をかっぱらったりすることには大反対なんだから」
「わたしたちの時代には、ちゃんと道徳の基準ってものがあって、それで万事がうまくいったんですよ。今の世の中じゃ、若い人たちは、自分の好きなことはなんでもしていいと考えてるらしい……」
「考えるだけでなくて、ちゃんと実行するんです。〝リネット・リッジウェイをみよ〟ですよ」

クリスティーにしばしば出てくる、親子関係。世話焼き母。自身の出自に関係あるんでしょうね。

位置: 1,164
「それに、あたしの――あたしたちの――方で、逃げあるく理由はないわ! まるで、まるで、あたしが――」
彼女は口をつぐんだ。
「そのとおりです、マダム。まさにそうです。まるで、あなたが――! 問題の焦点はそこにあるんじゃありませんか?」
リネットは顔を上げて、彼を見つめた。
「それ、どういう意味ですの?」

友人の恋人を寝取る、なんてのは行儀の良い行為ではない。禍根を残すからね。なるべく人の恨みを買うこと無しに生きていきたいものだ。恨みを買うくらいならやらない、というのが一つの立派な選択肢の基準であっていい。

位置: 1,317
「マドモアゼル、友人としてお話しします。死んだものは埋めておしまいなさい」
彼女はぎくっとしたようであった。

ポワロのこういうところ、神格化されてるよね。名探偵は常に何かを見抜いている。

位置: 1,749
「たとえば、ピラミッド。あれなんか、傲慢な専制君主のエゴイズムを満足させるために建てられた、巨大な石の堆積にすぎないですよ。これを建てるために、血と汗を流した大衆のことを考えてみたことがありますか。実際、ピラミッドに表われた一般民衆の苦しみを考えると、気分が悪くなりますね」
ミセス・アラートンは快活に言った。「それじゃ、あなたは、つまり、ピラミッドも、パルテノンも、美しい墓も、寺院も要らないとおっしゃるのね? ただ、人間が一日三食、ちゃんと食べて、ベッドの上で死んでいったということを聞けば、それで満足なわけね?」
若い男は、彼女の方にそのしかめ面を向けた。「ぼくの考えでは、石よりも人間の方が大切だと思いますね」
「しかし、人間の方はどうせ長続きしないですよ」とポアロが口をはさんだ。
「ぼくは世のいわゆる芸術品なんかより、充分に三度の食事を食べてる労働者をでもながめたいですね。大切なのは将来ですよ――過去ではない」
これはシニョール・リケティにとっては我慢できなかった。彼は激烈な、ところどころ聞きとれない早口でしゃべりはじめた。

こういう細かいやり取りで、人物はリアリティを獲得するんだな。
殺人事件の周りに、ブルジョワとプロレタリアートの戦いだとか、巨大建築と人権の問題だとか、そういう対立を入れてくる。面白いね。

位置: 2,517
「まあね。しかし、私はどうも憂鬱ですよ。もし私の考えが正しかったら――どうせ私の考えはいつも正しいことになってますが――」
レイスはいかにもポアロらしいこの言葉を聞いて、髭の中でにやりと笑った。 「で、もし正しかったとすれば、ですね、非常に困ったことが起こると思うんです。ところが、そこへまた、あなたは別のややこしい問題を持ちこんできた。この船の中に人殺しの常習犯がいるとおっしゃる――」

謎を複層化してますね。物語に奥行きが出る。

位置: 6,312
だからあたし、いやでも頭をつっこむことになったわけ。あの人の面倒をみてやるために……」
彼女はごく簡単に、しかしいかにも男に忠実な調子でこう言ってのけた。ポアロは彼女の動機が彼女の言う通りであることに疑念を持たなかった。彼女自身はリネット・リッジウェイの金を欲しがったわけではなく、ただ、サイモンの愛をひたすら欲しかったのだ。その愛は理性だとか、道徳心だとか、憐憫だとかいう感情すべてを超越した愛欲だったのである。

最後、同期は愛だったという陳腐なやつ。
しかし、この話はわりと序盤から犯人が分かりましたね。ミステリ慣れしたかしら。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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