『グリーン家殺人事件』感想 教養を語るわりに犯人当ては難しくない

これは途中で犯人がわかった人も多いんじゃないかしら。

推理小説愛好家でその名を知らぬ者はないと言われるヴァン・ダインの、「僧正殺人事件」と並ぶ代表作。
ニューヨークに建つ古めかしいグリーン邸で銃声が響き、長女は即死、末の養女も怪我を負う。捜査が進むにつれ、家族が互いに嫌悪感を抱く、異常な関係が浮かび上がってくる。雪の上に残った足跡、相続人に奇妙な条件を課した先代の遺言、事件を神の罰と断罪する狂信的な女中、絵文字暗号が記された紙切れなど、謎めいた状況が次々に明らかになる。

明らかに怪しい人が犯人、という珍しい例。
これが代表作である理由はあんまり分かりませんでした。つまらなくはないけど、膝を打つような箇所もない。

位置: 77
そう、謎を解明し事件に終止符を打ったのは、奇妙なことに、警察とは無関係の人物なのだ。その名前は、あれだけ膨大な記事や記録の、どこにも現れていない。その人物がいなかったら、あるいは、その人物が駆使する新しい犯罪推理手法がなかったら、グリーン家を狙った犯人の目論見はまんまと成功していただろう。警察は、外面的な証拠のみを頼りに、独断的な捜査をしていた。一方、犯人の方はというと、警察の想像をはるかに超えたところで計画を練っていたのだ。 この人物は、何週間にもわたって入念に、気の滅入るような推理を積み重ねた末、ついに真相にたどり着いた。上流階級に属する若者で、地方検事ジョン・F・X・マーカムの親友。本名を明かすわけにはいかないので、ここでは仮にファイロ・ヴァンスと呼ぶことにする。

名前は常々。ファイロ・ヴァンス。
こういう語られ方、かっこいいよね。

位置: 908
「何だあれは! マーカム、あの質問は!」バートンが部屋を出ると、チェスターが叫んだ。「不真面目にもほどがある。けしからん」 マーカムも、ヴァンスの軽薄な訊問にとまどっていた。「あんなくだらない質問は、時間の無駄じゃないか」と、いらだちを抑えながら言う。
「泥棒説にこだわるならば、確かに、時間の無駄だね。でも、チェスターさんが言うように、別の可能性を考えるならば、家の中の状況を把握しておくことが大切だからね。それに、使用人たちに怪しまれないことも重要だ。的外れのことを訊くのもそのためさ。家の中の人間関係を頭に入れておきたいと思ったのだが、その狙いは思ったよりうまくいったようだよ。いろんな可能性にも思い当たったしね」

これもシャーロック的様式美だよね。回りは憤慨、しかし探偵はニンマリ。

位置: 1,469
「実に面白い」ヴァンスが母音を引き延ばすようなオックスフォード訛りで言った。言葉そのものばかりでなく、その皮肉っぽい言い方もあって、誰もが何を言い出すのかと息を呑んだ。

これはガリレオシリーズ定番のセリフですね。ここから来ていたのか。

位置: 2,282
「分かったよ、スプルート……もう行け」ヴァンスは言い放った。「意味不明なレトリックは、トマス・アクィナスだけで充分だ」

かっこいいけど人生で一度も使う予定のないセリフだな。「意味不明なレトリックはトマス・アクィナスだけで十分だ。」

位置: 2,801
「処罰だって?」グリーン夫人はばかにするように繰り返した。「処罰なんてのはね、もう済んでいるんだよ。長年こうやって、病人をひどい目にあわせた罰は、もう下されたんだよ」 見ているだけでおぞましくなった。子供たちをこれほどまでに憎悪し、その二人が死をもって罰せられたことに深く満足している。

不幸な人だ。しかし正直なんだろう。
遺産とかで家族が割れるというのは本でもあまり読みたくない話だね。

位置: 2,809
グリーン夫人はしばらく何も言わなかった。無力感にさいなまされた顔つき。マーカムを兇暴な目でにらむ。やがて、底意地の悪い目つきが和らぎ、深くため息をついた。 「もう結構です。何も言うことはありません。どうせこんな病人のことなんか、誰も気にしないでしょうからね。寝たっきりで、たった一人で、自分じゃ何もできないで…… 邪魔者扱いされ て……」

グリーン夫人は、祖母を思い出させるね。
底意地が悪くて、僻みっぽくて。リアリティってやつだろうな。

位置: 5,377
ヴァンスは困ったように頷いた。 「確かにその点は問題だ。もしかしたらそれが、クレタの迷宮から抜け出すための、アリアドネの糸玉になるかも知れない。もっとよく考えなければならないね」

教養!

アリアドネとかクレタとか、聞いたことはあるけど、全然分からぬ。ギリシャだの北欧だのの神話はとっつきにくいね。知っているとかっこいいだろうなとは思うけど。

位置: 5,521
ヴァンスはしばし、たばこを吹かす。やがて、気のなさそうな口調で話し始めた。
「優れた絵と写真との間には決定的な違いがある。もちろん、そう考えない画家も少なくないけどね。でも、今に実物そっくりのカラー写真が撮れるようになったら、古い伝統に凝り固まった連中は揃って職を失ってしまうだろう。だが実は、絵と写真には、厳然として大きな隔たりがあるんだ。この原理的な違いこそが、これから話す物語の要点でね。例えばミケランジェロのモーゼ像。これは、ひげを生やして石板を持った長老の写真と、何が違うのか。ルーベンスの『ステーンの塔がある風景』と、ライン川沿いの城を観光客が写した写真は、何が違っているのか。セザンヌの静物画は、りんごを盛った皿の写真と比べて何が優れているのか。ルネサンス時代のマドンナ像が何百年もの命脈を保っているのに、その辺の母と子の写真が見向きもされないのはなぜなのか……」
マーカムが何か言おうとしたが、ヴァンスは手で制した。
「無駄話じゃないんだから黙って聞いていてくれ…… 優れた絵画と写真との違いは、その構成要素をうまく配置し、組み立て、組織化しているか、それとも、たまたまそこにある情景、あるいはその断片を偶然に写し取っただけのものか、という点にある。要するに、様式があるか、混沌のままか、という違いだね。

ここまで言っておいて、謎が解けなかったら格好悪い。
これを言うからかっこいいんだ。様式美か。あたくしはこれになりたかったのか?いや、クサすぎて無理だけどな。

位置: 6,400
保護施設に収容されていたことが分かった。それから警察で、経歴も調べた。エイダの父親であるアドルフ・マンハイムは、ドイツではよく知られた殺人犯で、死刑の宣告を受けたが、シュツットガルトの刑務所を脱走してアメリカに逃げてきたらしい。トビアスが脱走の手助けをしたのではないかと僕は疑っている。まあ、それはさておき、エイダの父親が殺人狂で、職業的犯罪者であったことは間違いない。とすれば、エイダがあのような犯罪を犯した背景も説明できる……」

殺人犯の娘は殺人犯、ってね。
今じゃこれは不適切な表現だろうな。実際、そういう観念が共有されると容易に迫害になるからね。

まとめ

謎自体は教養のないあたくしでも結構簡単に解けました。もちろん、エイダの母だの生い立ちは分からないけどね。犯人は分かった。

ヴァンスはだいぶ中二病的なウンチクを語る。

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