ハードSFとはこうあるべきだ『あなたの人生の物語』テッド・チャン 2

しかし、特殊な才能であると思いますね、SF書きって。
屁理屈に長けていないと書けないかも。もはや屁理屈でもないのか。

  • ゼロで割る

位置: 1,705
数学の大部分には、現実的な応用のすべがない。それは形式的理論として存在するだけで、知的な美しさを求めて研究される。しかし、もはやそれも長くつづかない。自己撞着する理論はあまりにも無意味だから、大半の数学者は嫌悪にかられてそれを投げだしてしまうだろう。
レネーを心から憤慨させたのは、自分の直観に裏切られたことだった。あの呪われた定理はすじが通っている。まさに倒錯した流儀ではあるが、 正しいと感じられる。彼女はその定理を理解し、なぜそれが真であるかを知り、それを信じた。

自己撞着する理論の無意味さに人は嫌悪する、ってこと、なんとなく想像は付きますね。
そんな経験はあんまりないですけどね。箱庭を永久に楽しめる人は少ない、とでもいいますかね。

位置: 1,775
多くの人間とおなじように、レネーも以前はつねにこう考えていた。数学は宇宙からその意味をひきだすのではなく、逆に宇宙に対していくつかの意味を押しつけるのだ、と。物質的存在には、大小の区別はなく、また、相似や非相似もない。それらはたんにそこにあり、存在するだけだ。数学は完全に独立しているが、こうした物理的存在に記号の意味を与え、範疇や関係を提供する。数学が表現するのは固有の性質ではない。ある可能な解釈なのだ。

しかし、もはやそうではない。というふうに続きます。
あたくしは当然、数学についてそんなに考えたことないですから、なんとも言えませんが、そういう「気にさせてくれる」のがSF小説っていいなぁと感じますね。

位置: 1,804
もし妻がとつぜん精神の 病 にかかった場合、夫が妻と別れるのは罪ではあるが、許される罪だ。別れずに暮らすのは、前とちがった種類の関係を受けいれることを意味するが、だれもがそれに耐えられるわけではない。そして、カールはそんな状況にさらされた人間をけっして責める気にはなれない。

そうかもしれない。許される罪。
許されない罪というのがあるということですね。つらいことです。

この短編は結局、数学の矛盾を己の人生の矛盾として捉えることから離れられなかった奥さんとその夫の話で、静かに絶望していくんですが、何だかとても行間があるんですよね。
SFでも、というとすごく差別的かもしれませんが、とても純文学的です。すき。

  • あなたの人生の物語

映画化もされたこの短編。
もしかしたら宇宙人てこうなのかしら?ってなりますね。

位置: 2,034
一七七〇年、クック船長の船、〈エンデヴァー〉がオーストラリアはクイーンズランドの海岸に座礁した。クックは部下の数人を修理にとりくませておき、その間に探検隊を率いて出かけ、アボリジニのひとびとに遭遇した。船員のひとりが、袋に子を入れて跳ねまわっている動物を指さして、あれはなんと呼ばれているのかとアボリジニにたずねた。そのアボリジニは、「カンガルー」と答えた。そのときから、クックと部下の船員たちはその動物をその語で呼ぶことになる。それは、のちになって彼らがその語は、〝あなたはなにを言っているのか?〟という意味であることを知るまで、変わらなかった。
わたしは毎年、自分の受け持つ基礎講座でこの話をする。これがほら話であることはほぼ確実だし、あとでそのように説明はするけれど、古典的逸話であることはまちがいない。

日本でいう「カステラ」秘話ですね。
カステラは本当でカンガルーは嘘のようですが。

位置: 2,285
「言語の発達において、習得の容易さというのは主要な圧力にはならないの。ヘプタポッドにとっては、書くことと話すことは相当に異なる文化的あるいは認知的役割を果たしていて、別個の言語を使用するほうが、同じ言語を異なった様式で使用するより理にかなっているのかもしれない」

言われると最もだ。
どんなに難しい言語でも母語の人は使うこなすものね。

位置: 2,342
わたしには、そこであなたがしていることは理解できないでしょうし、おかねに魅了されるあなたの気持ち、職を提示されたときの交渉であなたが要求した破格の給料についても、やはり理解できないでしょう。わたしとしては、あなたが金銭的報酬にとらわれない仕事に従事してくれるほうがいいけど、べつに不満があるわけじゃない。わたし自身の母親にしたところで、なぜわたしがハイスクールの英語教師だけをしていられないのかは永遠に理解できないのだから。あなたはあなたがしあわせになれることをすればいいし、わたしがあなたに望むのはそれがすべてなの。

ハードなSF世界と、個人的な物語が交差する。そして溶解していく。
この感じはとても受け入れやすいですね。

位置: 2,772
物理という領域は、完璧に両義的な文法を持つ言語でなりたっている。あらゆる物理現象は、まったく異なる二とおりの方法で説明できる言辞であり、ひとつは因果律的で、いまひとつは目的論的だが、どちらも妥当であって、どれほど多数の文脈を動員しようが、どちらもその適格性を奪われることはない。

こういう物の言い方するよね、SFって。

位置: 3,022
わたしとしては、ヘプタポッドの世界観をもっと深く知って、〝それら〟と同様の感じかたができるようになりたかった。そうなれれば、残る生涯、たんに事象の波に揺られて歩んでいくのではなく、〝それら〟のように事象の必然性のなかにわが身を浸しこむことができたかもしれない。

宇宙人は必然性のなかにわが身を浸しこんでいる、という。
なんのこっちゃ。
でもそれがしっくりくるんだな。不思議な話。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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