有名な「豊作だ!」のシーンが前半ラスト。
位置: 3,592
結局ただ一つ、彼が 家 を出る時から漠然頭にあった、悪い場所だけが気軽に彼の為に戸を 開いている、そう思われるのだ。彼の足は自然その方に向うのである。
パチンコとか賭場にフラフラ寄っていってしまう人間の性とはそんなものかしら。あたくしはあまりギャンブルわからないのですが。酒場やゲーセンに行く人の気持なら分かるかな。
位置: 3,772
彼は然し、女のふっくらとした重味のある乳房を柔らかく握って見て、云いようのない快感を感じた。それは何か値うちのあるものに触れている感じだった。軽く揺すると、気持のいい重さが 掌 に感ぜられる。それを何と云い現わしていいか分らなかった。 「豊年だ! 豊年だ!」と云った。
そう云いながら、彼は幾度となくそれを揺す 振った。何か知れなかった。が、とにかくそれは彼の空虚を満たしてくれる、何かしら唯一の貴重な物、その象徴として彼には感ぜられるのであった。
遊女の乳を揉みながら「豊作だ!」と叫ぶいいシーン。前半のハイライトでもあります。やはりいつの時代も乳房は正義。
そして話は後半へ。ハーレムラノベから一気に話が展開します。
- 後篇
位置: 3,967
暫くして二人はそこを出、連れ立って東三本木の宿へ帰った。そして謙作は前日からの事を割に 精しく高井に話した。 「随分真剣なんだね」高井は二十前後の青年かなぞのような 初々しい謙作の感情をちょっと意外に感じたらしかった。 「僕としては純粋な気持だ。然しこれからどう進ませるか、それは今のところちょっと見当がつかない。若しこのままにしていると今までの経験では、又、 有耶無耶 になりかねないが、何となくそうはしたくない気があるんだ」
放蕩息子が、それなりに真面目に考えています。根は放蕩なんですがね。
位置: 4,947
謙作は直子を再び見て、今まで頭で考えていたその人とは大分 異う印象を受けた。それは何と云ったらいいか、とにかく彼は現在の自分に一番いい、現在の自分が一番要求している、そういう女としていつか心で彼女を築き上げていた。一ト言に云えば 鳥 毛 立 屛風 の美人のように古雅な、そして優美な、それでなければ気持のいい喜劇に出て来る品のいい快活な娘、そんな風に彼は頭で作り上げていた。 総ては彼が初めて彼女を見た、その時のちょっとした印象が無限に都合よく誇張されて行った傾きがある。そして現在彼は同じ 鶉 の 枡 に大柄な、 豊 頰 な、然し眼尻に 小皺 の少しある、何となく気を沈ませている彼女を見た。髪はその頃でも少し 流行らなくなった、旧式な所謂 廂 髪 で、彼は初めて彼女を見た時どんな髪をしていたか、それを 憶 い出せなかったが、恐らくもっと無雑作な、少しも眼ざわりにならないものだったに違いないと思った。
放蕩息子はそれなりに客観性を持っていると自負しています。だから冷静に直子のこともみているつもり。己の思い込みやご都合主義にもちゃんと向き合っている。
位置: 4,963
それにしろ、彼女は彼が思っていたように美しい人でなかった事は事実である。
ここだけ抜き出すとひどいね。
位置: 4,979
舞台では「 紙屋治兵衛」 河 庄 うちの場を演じていた。謙作は何度もこの狂言を見ていたし、それにこの役者の演じ方が 毎時、余りに予定の如くただ上手に演ずる事が、うまいと思いながらも面白くなかった。そして彼は何となく中途半端な心持で、少しも現在の自身── 許婚 の娘とこうしている、楽しかるべき自身を楽しむ事が出来なかった。彼は 寧ろ現在眼の前にいる直子を見、二タ月前 の彼女を憶い、それが同一人である事が不思議にさえ思われた。
ここもひどい。しかし、そういう時あるよ。恋に恋する魔法が抜けた時、ふと我に返って己の恋人の顔を見るとね。
しかし、あれだ。この「うまいと思いながらも面白くない」ってのは本当によくある。落語なんざ本当にそう。古典落語の名手だけど、どーも肌に合わないなんてのはある話。
位置: 5,151
「貴方もなかなかお茶人なのね。今日のお買物を見てもそうらしいと思ったわ」
こんな事を云って直子は笑った。
「兄さんはどうなの?」
「兄さんも私もお母さんの子ですもの、そう云う方は一向いけない方よ」
「その方がいい。若い人のお茶人はあまりいいものじゃないよ」
「貴方のは何でも解らない方がいいのね。文学も解らない方がいいし、風流も解らない方がいいし」
「本統だよ」と謙作は云った。「文学が解ったり、風流が解ったりすると云う事は一種の悪趣味だ」
「妙なお説ね。私、それも解らないわ」直子は大きな声をして笑い出した。謙作も笑った。直子はそれを 覗き込むようにして、「やはりそれも解らない方がいいの?」と云って自分でも堪らなそうに笑いこけた。
仲睦まじい感じがよく出ている。やっぱり後半の方がよほど読みやすい。
言葉が現代風になった印象があります。なんだろうね。
位置: 5,389
「芸者も赤切符なら、茶屋も赤切符なんだよ。どうもヴァニティを傷つけるからな」
vanity : 虚栄心
だそうです。赤切符とは無許可、ってことかしらね。今「赤切符」でググっても車のことしか出てこない。
最新記事 by 写楽斎ジョニー (全て見る)
- 辻村深月著『傲慢と善良」』感想 でもモテ男とクソ真面目女の恋愛でしょ - 2024年9月17日
- 佐藤光展著『心の病気はどう治す?』感想 門外漢の視野が広がる - 2024年9月4日
- 芦名みのる監督アニメ『スナックバス江』感想 - 2024年8月24日