こんな傑作があるから、漫画読みは辞められないんです。
舞台は江戸。
密通(不倫および不貞)したら男女はともに死罪という時代。
主人公の久蔵は妻ひとり子ひとり。
髪結床の主人として何とかほそぼそと生きていた。
ところが、幼なじみで咎人の与三次が長屋に帰ってくることを聞くと冷や汗がとまらない。
与三次が留守中に、与三次の妻であるおえんと関係をもち、その上に首を締めて殺してしまったからだ。
与三次が帰ってきて、罪におのれが耐えられなくなった久蔵。
ついに自我が崩壊しそうになるのだが、それを妻が必死に食い止めようとする----。
的な話です。
特別すべきはその描写力。
真面目一本な久蔵が罪の重みに耐えられなくなっていく様。
妻のおみつの、女として母として妻としての意地。
おえんの妖艶な、遊びの愉しみの中にある狂気。
その辺りの話が、デジタルでしょうか、独特の絵柄から繰り出されるのです。
これが滅法良い。
デジタルと江戸の話の相性がこれほどとは。わさび醤油とアボカドの食い合せが至高のごとし。
この話でもっともわがままなのは主人公である久蔵。
真面目一本槍というのがいかにわがままであるかを丁寧に書いてあります。
寓話的な話を描かなきゃならない人には到底無理な所業。
妻のおみつが、器量が良くないなかでやっと掴んだ幸せに必死に縋りつく様。
咎人の与三次の、胆力と業。
このあたりの描写は本当に秀逸。
そして多くは語られないおえんの色魔としての底抜けな恐ろしさ。
どれをとっても一級品です。
いい読書体験をさせていただきました。
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