『「弱くても勝てます」 開成高校野球部のセオリー』 5億点だよ、あんたら…‥

いやー、これ、全国の野球少年たちに読ませたい。

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練習時間、グラウンド、施設――すべてが不十分! それでも東大合格者数1位の超進学校は、7年前に東東京大会ベスト16、今年もベスト32に勝ち進んだ。守備より打撃、サインプレーなし、送りバントもしない。どさくさで大量点を取って打ち勝つべし!――秀才たちが辿りついた結論は、高校野球の常識を覆す大胆なセオリーだった。

とにかく面白い。
開成だから特別、という先入観をまったく無視しても、いや、無視することが出来る上に、その面白さが際立っています。

とにかく文章が平易でユーモラス。
高橋秀実さんは本当に筆がたちます。清水義範さんを読んでいるようだ。

――開成は普通ではないんですね。
私が同意すると彼は否定した。
「いや、むしろ開成が普通なんです」
――普通なんですか?
「高校野球というと、甲子園常連校の野球を想像すると思うんですが、彼らは小学生の頃からシニアチームで活躍していた子供たちを集めて、専用グラウンドなどがととのった環境で毎日練習している。ある意味、異常な世界なんです。都内の大抵の高校はウチと同じ。ウチのほうが普通といえるんです。常連校レベルのチーム同士が対戦するのであれば、『チーム一丸となる』『一生懸命やる』『気合いを入れる』などという精神面での指導も有効かもしれませんが、これぐらい力の差があると、精神面などではとてもカバーできません」  よどみなく答える青木監督。普通の高校が異常な世界で勝つには、普通のセオリーではダメだということなのだ。
at location 113

一言でいうとこんな本。
数年前にドラマ化しましたが、あれはイマイチでした。
『あまちゃん』に出てた俳優+嵐・二宮を揃えただけの、同窓会的ドラマ。プロデューサーの神経を疑いましたな。

 「打撃で大切なのは球に合わせないことです」  青木監督はきっぱりと言い切った。
――合わせちゃいけないんですか?
「球に合わせようとするとスイングが弱く小さくなってしまうんです。タイミングが合うかもしれないし、合わないかもしれない。でも合うということを前提に思い切り振る。空振りになってもいいから思い切り振るんです」
あの強烈なスイングにも「きっと合う」という前提が隠されていたのだ。
――それで当たるものなのでしょうか?
「ピッチャーが球を持っているうちに振ると早すぎる。キャッチャーに球が届くと遅すぎる。その間のどこかのタイミングで絶対合う。合うタイミングは絶対あるんです」
青木監督はにっこりと微笑んだ。
at location 268

読んでいながら抱腹絶倒。リズムが良い。
昔の上原浩治のピッチングのようだ。

ふと青木監督が常日頃放っている罵声を思い出した。彼の罵声も正確で論理が詰まっている。例えば、開成高校のグラウンドで試合が行なわれた際に外野に赤いコーンを置きっ放しにしているのを見ると、「それをどかせ!」と言うのではなく、「そこにコーンを置いたヤツはコーンを置くことの主旨を理解してない!」と叫ぶ。出塁してぼんやりしている選手には「ウチの野球には安心できる場面などない!」。守備で球を手にしてあたふたしたりすると、「人間としての基本的な動き方ができていない!」「そんなことは起こりえない!」。客観的に正確に怒鳴る。怒鳴ってはいるが命じているわけではなく、察するに生徒たちの自主性を損なわずに、客観性で追い詰めるのだ。
at location 1149

すごいよね、読み返してて、腹筋が痛い。

 「グラウンドでやるのは『練習』ではない」
監督は意味不明なことを言った。
――練習じゃない?
「『練習』という言葉は、同じことを繰り返して体得する、という意味です。しかしウチの場合は十分に繰り返す時間もないし、体得も待っていられません。それにそれぞれが繰り返すべき何かをつかんでいないわけですから、『練習』じゃダメなんです」
――それで何を?
私がたずねると監督は明快に答えた。
「『実験と研究』です」
――実験と研究?
「グラウンドを練習ではなく、『実験の場』として考えるんです。あらかじめ各自が仮説を立てて、それぞれが検証する。結果が出たらそれをまたフィードバックして次の仮説を立てることに利用する。このサイクルを繰り返していくうちに、それぞれがコツをつかみ、1回コツが見つかれば、今度はそれを繰り返して体得する。そこで初めて『練習』と呼ぶにふさわしいことができるんです」
1球ごとに実験する。やること自体は同じだが、取り組む考え方を変えるのである。
at location 1202

これ、本当に行ってたとしたら通り越してますよね。限度を。
すごいこと言ってる。普通の会話に『実験と研究』なんて出てこない。コーチもコーチだ。

 「開成には開成野球部独自のプライドを持つ必要がある。プライドといったって人を蔑むとかそういう低レベルのものじゃない。俺たちはどういう野球をするのか。どういうスタイルでやるのかという考え方に対する自信。それがプライドだ」
彼らには自信がない。自分たちの野球への確信が欠けているのだ。
「強豪校はしっかりした練習量をこなしているから負けない、という自信が持てる。しかし俺たちは練習量が圧倒的に少ないからそんなことは言えない。頭を使って野球しているとも言えるかもしれないが、そんなチームは他にもいくらでもある。じゃあどこで俺たちは俺たち自身のプライドを持てるのか」
どこで? と私は思い、部員たちとともに監督の言葉を待った。
「俺たちは必要十分な練習を徹底的に追求する。これが俺たちのプライドだ」
at location 1603

突き詰まっている。ほんと、行き止まりまで行っちゃってるよ。
すごいよ。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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