しかし何なんでしょう、この一家。
位置: 2,682
「ぼくは歴史を研究してきた」とピーターはいった。「人間の行動パターンについて、いろいろ学んできた。世界がみずからを再整理する時期というものがあって、そんな時期には、適切なことばが世界を変えることができる。考えてもみろよ、ペリクレスがアテネでなにをしたか、そしてデモステネスが――」
「そうね、彼らは二度もアテネを破滅させてのけたわ」
「ペリクレスはそうだ。しかしデモステネスはフィリポスについては正しかった――」
「あるいは、彼を挑発してしまった――」
「だろ? たいてい歴史家たちは、こうした決定的瞬間がいつなのか、原因と結果について屁理屈をこねる。世界が流動的状態にあるとき、適切な場所における適切な声が世界を動かすことができるんだ。たとえばトマス・ペインとベン・フランクリンがそうだ。ビスマルクもレーニンも」
ヴァレンタインのペンネームがデモステネスになり、ピーターはロックとなるんですが、それにしてもすごい一家だ。パパとママは何をしたらこんな子どもたちが育つのか。
しかしエンダーが兵士として身を立てていくのに対し、ピーターとヴァレンタインは煽動家として名を挙げていく。坂の上の雲みたいだ。
位置: 2,846
ふたりは自分たちのキャラクターのための論戦を作成しはじめた。ヴァレンタインが口火となる説を準備する、そしてピーターが、彼女に答えるための使い捨ての名を考案する。彼の反論は聡明なものとなり、論戦は活発で、気の利いた悪口雑言や、うまい政治的レトリックがふんだんにあるものとなるのだった。ヴァレンタインは自分のフレーズを記憶に残るものにする頭韻の要領をわきまえていた。それからふたりは、両者がじっさいにその時点で論戦をおこなっているかのように、ほどよい時間を隔ててネットワークにアップする。
エンダーパートが、言ってしまえば異世界パート。そしてこっちのピーター・ヴァレンタインパートは現実・成り上がりパートですよ。こっちのほうが面白いな、と思ったりします。絶大なアルファブロガーが育っていくのを見る感じね。
位置: 2,857
「ぼくらは読まれてるんだ」とピーターはいった。「思想が浸透しはじめている」
「ともかくも、フレーズはね」
「それは指標にすぎないよ。見ろよ、ぼくたちは多少は影響力をもちつつある。だれもまだ、ぼくたちを名指しで引用はしないが、ぼくたちの提起する論点を論じ合っている。
しかしなぜピーターは、ヴァレンタインをほぼ正反対の人格の創造主にさせたのだろうか。最後まで読んでもそこは分からんかった。客観的にするためか?なぜピーターがデモステネスじゃ駄目だったのか。わからん。
位置: 3,225
あの人でなしたちは、そのことを知っていたのだ。城の一室にある鏡に映ったピーターのことも彼らは知っている。彼らはなにもかも承知している。そして彼らにとって、ヴァレンタインもまた、エンダーを操るために使う道具のひとつにすぎない。仕掛けるべき、もうひとつの罠にすぎないのだった。
読めば読むほど、エンダーの孤独が映し出される。
可愛そうなエンダー、優秀すぎて孤立させられるんだ。
下巻につづく。
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