『殺戮にいたる病』感想 すぐ2回目を読んだ

まさにミステリのためのミステリ。
いや、なるほど、堪能しました。

永遠の愛をつかみたいと男は願った―。東京の繁華街で次々と猟奇的殺人を重ねるサイコ・キラーが出現した。犯人の名前は、蒲生稔!くり返される凌辱の果ての惨殺。冒頭から身も凍るラストシーンまで恐るべき殺人者の行動と魂の軌跡をたどり、とらえようのない時代の悪夢と闇を鮮烈無比に抉る衝撃のホラー。

母親の勘違いが、最初から最後までずーっとミスリードされる前提で進んでいく話。
いやいや、堪能しました。

まさかそういう真相だったとは。

位置: 51
蒲生雅子が、自分の息子が犯罪者なのではないかと疑い始めたのは、春の声もまだ遠い二月初めのことだった。

ここから始まっている。しかし、味わい深い文頭ですね。

位置: 66
蒲生稔が初めて人を殺したのは、雅子が不審を抱き始める三ヵ月も前、前年の十月だった。

つい解釈する。人間の恐ろしさだね。

位置: 425
すでに爆発寸前だった彼は、奥まで挿入したと思う間もなく射精していた。冷えてゆく死体の中で、数億もの熱い命が 迸る光景は、彼の脳髄を震えさせた。  これこそが本物のセックスだ。彼がこれまで経験してきたものは、この本当のセックスの真似事、〝愛〟の名の 許 に行われる相互マスターベーションにすぎなかった。
今ようやく分かった。 セックスとは、 殺人の寓意にすぎない。犯される性はすなわち殺される性であった。男は愛するがゆえに女の身体を愛撫し、 舐め、嚙み、時には乱暴に痛めつけ、そして内臓深くおのれの槍を突き立てる──。男はすべて、女を殺し、 貪るために生まれてきたのだ。

清々しいまでの尋常ならざる価値観。こういうのがうまくカモフラージュになってるんだろうな。

位置: 663
「稔さん。大学はどうしたの?」彼女は不服そうに言った。
「……ちょっと熱っぽいから。どうせ授業は一つしかなかったし。前期は皆勤した講義だしね、一回くらい休講してもかまわないさ」

休講、という言葉にピンと来るべきでした。
二度目に気づいてニヤリとしたところ。

位置: 1,381
最後に、ベッドの上の死体に目をやった。丸い二つの黄色い傷口をさらして横たわる死体。もはやその死体に、稔は何の魅力も覚えなかった。彼が愛した女とは何の関係もない、ただの醜い肉塊にすぎなかった。
彼女はここにいる。彼は乳房の入ったビニール袋の口をしっかりと握りしめて思った。

あたくしも、だいぶ乳房が好きな方の人間だとは思っていましたが、切り取るということを考えたことはなかった。上には上がいる。上が良いとは思いませんが。

位置: 1,391
ようやく人心地がつくとバスタブから出て、ビニール袋の中のラップを開いて彼女を確認した。切り取る前よりも萎びた感じのする、右とも左とも分からぬ乳首に彼は唇をつけ、舐め回した。肌についた脂肪がねっとりと舌にからみついてくる。運ばれるうち、互いの脂にまみれてしまったようだった。脳髄が痺れるような快感だった。
嚙みつこうとしても歯の間からするりするりと逃げ出して、うまく嚙めない。その苛立ちがさらに興奮を高め、すっかり萎えていた彼のものは再びその首をもたげようとしていた。

変態とかそういうレベルじゃない。しかし、目を背けたくなるような描写が、この話の絶妙なスパイスであり、ミスリードを助長する仕掛けでもあるわけだ。

位置: 1,401
稔は鏡の中の自分に微笑みかけ、互いに貼りついた二つの乳房を引き剝がすと、それを彼自身の裸の胸に押し付けた。結果を予測しての行動ではなかった。
鏡の中に、彼女がいた。愛する彼女が。
豊かな胸を自らの掌で支え、彼に凝然と微笑みかける彼女がいた。
間違ってはいなかった。間違ってはいなかった。彼女はここにいた。俺は彼女を手に入れた! 稔はそう叫びだしたい思いだった。

彼女、というのがミソですよね。倒錯に目がくらんで、自分も倒錯していることに気づかない。うーん、我孫子武丸さん、すごい。

位置: 1,783
たとえ愛する女の身体から出たものとはいえ、糞は糞だ。こんなものをありがたがる変態もいるらしいが、俺は違う──稔は部屋に充満した匂いが薄れるのを待ちながら思った。

変態には変態の倫理がある。

位置: 1,815
性器の回りの皮をめくり、包丁を差し込んで骨と皮を切り離し、もう一度子宮を引っ張るとずるずると外性器は中へ引きずり込まれ、そして膣につながって下腹部の切り口から現れた。外に飛び出た膀胱も当然のことながらつながっており、その膀胱からは細い管が内臓の方へ伸びていてそれ以上引っ張りだすことができない。

ここは流石に想像して気分悪くなりました。いや、エログロ書けるのってひとつの才能ですね。

位置: 3,210
樋口は走り、女が出てきたらしい女性用トイレに飛び込んだ。薄いピンクでまとめられた清潔な洗面所の大きな鏡には、口紅で大きく、『警察に電話してください。連続殺人鬼の名前は、蒲生稔。今から一緒にホテルへ行きます 島木かおる』と書いてあった。

ここは読む手が止まりませんでしたね。はやくはやく!って。

位置: 3,438
「ああ、ああ、何てことなの! あなた! お 義母 さまに何てことを!」

ここ、最初は何が起こっているのか、分からなかった。しかし、よくできています。
完璧な叙述トリック。知ってて騙されました。気持ちよかった。

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