Podcast: Play in new window | Download
Subscribe: RSS
というか作者のプロフィールが面白すぎる。
本年度の第19回『このミステリーがすごい! 』大賞受賞作は、金に目がない凄腕女性弁護士が活躍する、遺産相続ミステリー! 「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」という奇妙な遺言状を残して、大手製薬会社の御曹司・森川栄治が亡くなった。学生時代に彼と3か月だけ交際していた弁護士の剣持麗子は、犯人候補に名乗り出た栄治の友人の代理人として、森川家の主催する「犯人選考会」に参加することとなった。数百億円とも言われる財産の分け前を獲得するべく、麗子は自らの依頼人を犯人に仕立て上げようと奔走する。一方、麗子は元カノの一人としても軽井沢の屋敷を譲り受けることになっていた。ところが、避暑地を訪れて手続きを行なったその晩、くだんの遺書が保管されていた金庫が盗まれ、栄治の顧問弁護士であった町弁が何者かによって殺害されてしまう――。
元弁護士で元プロ雀士?もはや生きるネタですね。
そして当然、その作品もめちゃ面白い。
ドラマ化まで意識して書いたんじゃないかなというぐらい、ドラマ向き。
位置: 46
「だから何?」
もう一度、私は信夫を睨み付けた。
「あなたの私への愛情は、世間の平均程度ってこと? そもそも私は、自分が世間の平均どおりの女だと思ったことはないし、平均が四十万円だとしたら、百二十万円の指輪が欲しいの」
映えるセリフ。そりゃ速攻でドラマ化決まるわ。
位置: 324
栄治と付き合いの深い篠田のほうがショックは大きいはずだ。それにもかかわらず、最初に私への気遣いを口にするところに、育ちの良い人に特有の心の美しさを感じて、私は逆に窮屈な気分になった。私はお金が好きだけど、お坊ちゃんと結婚したいとは思わないのは、こういう窮屈な気分が大嫌いだからだろう。
育ちの良さを感じると窮屈に感じる、って結構あるあるらしいね。
あたくしは育ちの良い人みると惹かれるタイプなんで、まぁ価値観でしょうね。
位置: 394
「こんなに恵まれている僕は、どう生きれば良いのだろう。神様は一体、僕に何を期待しているのだ。僕にはこの恵みを、世界に分配する義務がある」
などと言い始め、その足で最寄りのコンビニの募金コーナーに有り金をすべて突っ込んだ。そのせいで帰りの電車賃が払えなくなって、私が千円札を恵んでやったことがある。
大きいことを言うわりに、頭が悪いのだ。
ちょっと左翼バカにしてる感じが良い。
おつむ弱い感じも、かわいい。イケメンに生まれなかったが、あたくしもそのケがあるので、思わず失笑。
位置: 416
「ただね」
篠田が口を開いた。
「僕は殺人罪で逮捕されるのは嫌なんだ。どうだい、警察にバレずに遺産をもらうことはできないかな」
私は一瞬のうちに様々な考えをめぐらせた。
篠田の強かさを感じて、ぐぐっと引き込まれるところ。物語の求心力、強い。
位置: 542
「この前の話、やっぱり、引き受けることにした。ただし、成功報酬は得られた経済的利益の五十パーセント」
口ごもる篠田を無視して続ける。
「完璧な殺害計画をたてよう。あなたを犯人にしてあげる」
ぐっとくる。ここも引き込まれる。
おもしろい。エンタメ作品だな。素晴らしい。
位置: 785
つまり、犯人選考会とは名ばかりの、「新株主選考会」なのだ。
そもそも、この三人は一枚岩ではない。位置: 791
三者が納得できるベストな提案をした者が「犯人」として新株主に選ばれるのだ。
栄治は、あの珍妙な遺言を残すことで、三派閥の対立を前提として、その分裂を防ぎ、妥協点を見つけられる人物に森川製薬の株式を託したかったのではなかろうか。
急に池井戸潤じみてきた。
しかし、ミステリがこんなふうに展開すること、珍しい。トリックだなんだとそっちばかりに目が行く自分としては、新機軸を読まされている気持ち。この作品で一番好きなところですね、ここは。
位置: 1,174
「僕のおすすめは、マルセル・モースの『贈与論』です。あの本に出会って僕の人生が変わったと言いますか、それがきっかけで研究者になったようなものです」
富治は子供のように目を輝かせて、私の顔を見てきた。
この話題を深掘りしてほしいという雰囲気がビシビシと伝わってくる。
男の人ってなんでこう、自分の輝かしい過去のアレコレを切り取って話したがるのだろう。しかも自分からではなく、誰かに話してほしいと乞われたから仕方なくという体をとって。本当に面倒だ。
本当にすみませんとしかいいようがないです。
位置: 1,276
私のような西洋ふうのはっきりとした美人ではなくて、見つけてあげないと埋もれてしまうような、守ってあげないと踏み潰されてしまうような、そんな造作の人である。
思わず笑っちゃう。いいよね、「私のような西洋ふうのはっきりとした美人ではなくて」っての。コメディだ。
位置: 2,090
「栄治さんはマッスルマスターゼットを投与して、その副作用で死んだ。でもそれは、私のせいなの」
ここもシビレた。まさかお金の話が死因にまで及ぶとは。
経済とミステリとの組み合わせ、こんなに美味しいんだという初体験。
位置: 2,356
「いい加減にしろよ。昔から俺の邪魔ばっかりしやがって」
雅俊の言葉に私はびっくりした。そもそも私は雅俊に興味がないし、邪魔をした覚えなどない。
「邪魔ってなんのこと?」私は口を挟んだ。
「俺が大学に入ったらお前はそれよりもいい大学に入るし、俺が官僚になったらお前は弁護士になるし、そうやって俺が何か成し遂げるたびに後ろから追いかけてきて、ぶち壊していくんだ」
雅俊は自分をあわれむようにグッと目をつむった。
その様子を見て、私は腹の底からムカムカしてきた。
人間、自分の影響というのは思わぬところでデカイって話だ。
自分も、もしかしたら他の人に影響を与えているんだろうな。思わぬ形で。
位置: 2,655
自分が本当に欲しいものが何なのか分からないから、いたずらにお金を集めてしまうということは、流石の私も分かっている。ただ自分では、自分に何が必要なのか分からないのだ。
とても惨めな気持ちになった。だが、私は頭のどこかで考えていた。たとえ一生遊んで暮らせるだけのお金があったとしても、私は仕事をしているだろう。自分なりに考えたことを実行に移して上手くいった時は嬉しいし、何もしないのでは人生があまりにつまらない。だから私は働く。そのあたりのどこかに、自分が求めるものがあるような気がしている。しかし、それ以上のことがよく分からない。
あたくしは金があったら仕事しないな。
自分に本当に欲しい物が、今の所わかった気になっているから。
急にこういう可愛い独白が入るの、麗子の魅力ですね。かわいい。十分に。
まとめ
経済とミステリ。あんまり食べたこと無い組み合わせでしたが、大変美味しくいただきました。
最新記事 by 写楽斎ジョニー (全て見る)
- 佐藤光展著『心の病気はどう治す?』感想 門外漢の視野が広がる - 2024年9月4日
- 芦名みのる監督アニメ『スナックバス江』感想 - 2024年8月24日
- 青山光司著『民泊を始めてわずか半年、もうすぐ私は300万円を失います。: 民泊を始める前に、どうしても知ってほしい「転貸型民泊」の現実と注意点』感想 楽天家への警告 - 2024年8月19日