古典落語『ろくろ首』文字起こし

次はちょっと夏の怪談ぽい噺を。

「何してんだ、おぉーい。
そこに、ガタガタやってんなぁ。
与太郎だなぁ、おめぇは、えぇえ。こっちへ入れ。
へぇって来たらな、挨拶しろ、挨拶を。
何、ボーっと、突っ立ってんだ。
挨拶しろ、挨拶を。」
「….、ふへぇ?」
「挨拶だよぉ。」
「挨拶、…. さよなら。」
「もう、帰るのか?」
「帰んねぇよ。」
「なんで、さよならでぇ。」
「だって、こないだ、おじさんとこ遊びに来てさぁ、帰る時に、
『おめぇ、挨拶しろよぉ。』
って、言われたから、
『挨拶ってなぁに?』
って、訊いたら、
『挨拶ってのは、さよなら、ってんだ。』
って、言われたから、さよなら、と言ったまでだぃ。」
「あのなぁ、そら、帰る時の挨拶なの、なぁっ。
来た時は、こんにちは、ねぇ、初めて会ったら、初めまして、
暑い時は、お暑うございます、寒い時は、お寒うございます。
それが、挨拶だ。」
「….、どうでもいいや。」
「どうでも、よかぁないよ。」
「じゃあ、……・ちょうどいいから、おぬるぅございます」
「そんな挨拶はないよ。いいからこっちぃ来い、こっちぃ。
何しに来たんだ?」
「ひっひ、… あのねぇ、今日はね、ちょっとねぇ、おじさんにね、相談があって来た。」
「相談? はぁぁ、おめぇに相談なんてこと言われると、なんだか、くすぐってぇなぁ、えぇえ。
なんだ、相談てぇなぁ?」
「…….、あのねぇ、… 兄貴が、…兄貴がねぇ、今年ねぇ、三十三。」
「ほぉぉ、三十三にもなったかなぁ。
あぁ、そうか、そうか。
それが、どぉした?」
「でねぇ、三年前にねぇ、あのぉ、お嫁さん、もらって。」
「おぉ、三年も前になるかねぇそれが、どぉした?」
「うんー、赤ちゃんが産まれたでしょぉ?」
「産まれた、産まれた。
うんうんうん、それが、どうしたぁ?」
「でねぇ、兄貴のかみさんがねぇ、ねぇえ、うん、うん、兄貴のかみさんがねぇ、兄貴のことね、
『あなたやぁー。』
っとかね、
『お前さぁーん。』
とかねっ、
『あなたやぁー。』
っとか、呼ぶのよ。」
「それが、どうしたんだよ。職人のかみさんにしちゃ、しっかりしてるからな、
あなたや、ぐらいのことは言うだろ。
それが、どうしたぁ?」
「で、ね、遊びぃ行くとねぇ、かわいい赤ちゃん、もう、立つんだぜ。
つかまり立ちしてね、おまんま、食ってんだよ、小さい手でおまんまグッチャグチャにして、ふっふふふふふ、かわいいよねぇ。」
「なんなんだ、それが、おいぃ。
それが、どうしたんだ?
かわいいよ、そういうもんは、赤ん坊ってぇなぁ。
それが、どうしたぁ?」
「それが、どうした、それが、どうしたって、言うけどさぁ、…。
あたい、なんかねぇ、家(うち)ぃ帰ったって、おまんま食うんだってね、
お袋と二人っきりなんだよ。
お袋なんか、なんだか分かんねぇけどさぁ、もう、飯(めし)ぃ食うんだって、
入れ歯だか、ホガホガ、ホガホガさしてね、沢庵なんか食ったって、
沢庵、噛んだり、吐(ほ)き出したり、噛んだり、吐き出したり。
ようやく、飲み込んだかなぁっと思ったら、入れ歯、カパっと外して、
それを、お湯に浸(つ)けて、ジャブジャブ、ジャブジャブって洗うんだよ。
洗った後、そのお湯を飲むから、やんなっちゃうんだ。
あの、あの、ポーハーって、洞穴(ほらあな)みたいな口でもって、
あたいのことを、あなたやって、呼ばねぇんだよぉっ。」
「当たり前だよ、馬鹿野郎。倅のこと、あなたや、って呼ぶ、お袋が、どこにいんだよぉ。」
「んんー、あたいもさぁ、…。」
「なんだ?」
「あたいも、.. ねっ、…。」
「うんうん。」
「兄貴に、….. 負けない気になって、ねぇっ、…。」
「なぁんだっ?」
「ふおぉめさんへも、もらひはぁぁぁいって、思ったりなんか、するよぉっ。」
「なんなんだ?
なぁにを恥ずかしがってんだ。
おじさんとお前の仲だよぉ。
はっきり言ったらいいだろ、はっきり言えっ。」
「はっきり言って、いいの?
じゃぁ、言うけど、…….。」
「瞳孔が開いてるよ、おぃ。
大丈夫か、しっかりしろよ、おぃ。
なんなんだ、はっきり言いな。」
「はっきり言うけど、…. おっ、ほっ、へっ、ふぁっ、…
[小さな声で]お嫁さんが欲しい、[少し大きな声で]お嫁さんがもらいたいぃ、
[大きな声で]お嫁さんがもらいたい、お嫁さんがもらいたい、
[さらに大きな声で]お嫁さん、お嫁さん、お嫁さんがもらい…。」
「分かった、分かった、分かった、分かった。
分かったから、静かにしてくれ、頼むから、分かったから。
婆さん、そこで、腹ぁ抱えて笑ってんじゃないよ、お前は。
いやいやいや、よくぞ言ってくれた。お前もな、まんざら二十五でもねぇな。
そういう心持ちになるのはねぇ、おかしかねぇ。
ただなぁ、いいか? お前の兄貴ってぇのは、かみさんと子供、食わしていくだけの手に職ってぇものがあるんだよ。
お前は、どうすんだぁ?えぇ、どうやって、かみさん、食わしていくんだ?」
「そりゃもう、箸と茶碗で」
「そうじゃあねぇ、どうやって女房子を養うんだよ」
「それだったら、よく、考えてあんだよ。お袋を稼がせたり、カミさん売ったり。」
「図々しいこと言うな。『お直し』じゃあねぇんだ」
「あのなぁ、男、一人前じゃなきゃいけないんだ。」
「おまんまは、五人前、食うよ。」
「そんなに食って、どうすんだ。だいたいなぁ、お前は日がな一日、寝てばかりいるってぇじゃあ無いか。まどろむは、愚なり、ってぇだろ。
寝てばかりいると、損するよ。
何っ? ばあさん、… うん、… うん、…。
お屋敷に連れてったら、どうですかぁ?
馬鹿なことを、…。
こぉんなもんが、屋敷に行ってな、役に立つ訳がねぇだろぉ。
うん、そうじゃないぃ?
お嬢様に、お婿さん?
…..、ほぉお、… あっ、そうだなぁ。
こういうのがなぁ、かえって、感じなくていいかもしれねぇなぁ。
与太郎、ちょっと、こっち来い。
いや、実はなぁ、婿、おぉ、どうだ、おめぇ、婿に行く気はねぇか?」
「お婿さん?どこへ?」
「おじさんが、出入りしてる、お屋敷なんだ。
そこに、お嬢様が一人いてな、ご両親てなぁ、とぉの昔に亡くなっちまってんだよ。
うん、そこに、婆やさんと女中さんが二人、よったりで暮らしてる。
お前が行きゃぁ、五人暮らしてことんならぁ。
もう、そこの家(うち)ってぇなぁ、生涯、使ったって、使い尽くせねぇぐらいの財産があってな。
そこの、お嬢様ってのが、まぁ、小町と言われるぐらいの、なかなかの器量良しだ。
えぇ、どうだい?
そこに、婿に行かねぇか?」
「なんで、そういうこと早く言わねぇんだよぉ。
行く、行くよぉ。
行く、行く、行く、行く、行きますよ、えー、行きましょう、行きましょう。」
「行きましょうったってなぁ、そういうところで、おめぇが務まるてなぁ、訳があるんだ。
実はなぁ、このお嬢様ってのは、ちょいとね、悪い、お病があってなぁ、
夜中んなると、…。」
「夜中んなると?
あぁ、大丈夫、あたいも、週にいっぺんはやるから。」
「なんだ?」
「寝ションベンだろ?」
「そうじゃあないよ。えー、このお屋敷ってのがなぁ、もう、幾間(いくま)も幾間もある。
お嬢様の、お寝間ってのは、一番、奥まったところにあってな。
なぁ、夜中んなると、静かのを通り越して、寂しいくれぇだ。
ところが、お嬢様の寝間ってのが、未だに、電気を引いていない。
行灯(あんどん)でもって、火を灯(とも)してるんだ。
お嬢様の枕元、六枚折れの屏風が立て回してあって、
その、向こう側に、行灯が置いてあるなぁ。
草木も眠る、丑(うし)三つ時、家(や)の棟(むね)も三寸(さんずん)下がり、
水の流れも止まるという、今の時間でいう、夜中の二時頃だよ。
寝ているお嬢様の首がなぁ、音も無く、スゥーっと伸びて、六枚折れの屏風を、
こぉ、逆さに越したかと思うと、鼻っつぁき(先)で、行灯の障子を
ツゥーっと開けて、中の油を、… ペタペタッ、ペタペタッ、って、
舐(な)めるんだ。」
「…..、個性的。」
「個性的過ぎるよ、それ。
個性的過ぎるよ、そりゃぁ。
この病気があるおかげで、もぉねぇ、婿が居つかねぇんだ。」
「….、ちっと、待ってくれよぉ、それ、おいぃ。
それは、あれでしょう?
あの、世に言う、ろくどっ、ろくどっく、どくどっくどく、…。」
「ろくろ首。」
「そう、ろくろっ首ってなぁ、
あたいは、そういうの、あんまり好かない性質(たち)なんですけども。」
「誰だって、好かないよ。
寝ている、かみさんの首が伸びたらなぁ、どんな気丈な男だってねぇ、目を回すんだ。そんなこんなでこの間、あの家のばあやさんがうちにきて、全て理由を知った上で、それでも婿に来てくれる人を世話してくれ、とこう言ったてぇ話だ」
「そうだよね。そりゃあ、無理だ。いくらあたいでも、その、、夜首が……ってぇ、あれ?首が伸びるのは夜?」
「そうだ、伸びるのは、夜だけだ。昼間はなんともねぇんだよ。」
「えぇっ、夜中しか伸びないの?
あっ、そうなの?
あっ、それだったら、あたい、平気だよ、うん。
だって、一回寝ちまったらね、地震があったって、火事があったって、雷が落っこったって、
起きた試しねぇんだから。夜ならいいや、
♪夜ぉ中ぁのうぅちにぃ、伸ぉびろや、伸ぉびろ。
♪てぇん(天)まぁで、伸ぉびろ。」
「歌ってるね、こいつは、おい。
えぇ、暢気(のんき)な野郎だな。
えぇ、うぅん、感じねぇからいいや、こいつぁなぁ。
じゃ、連れてこうじゃねぇかな。
あっ、そうだな。
そういうことは、ちゃんとしとこう、うん。
いいか、与太郎、いや、実はな、向こうは由緒正しき家柄だ。行くってぇと、お嬢様は、口は利(き)かない。
婆やさんが、代わりに口を利くんだがなぁ。
この婆やさんが、そういうとこで奉公しているためになぁ、
なかなか、こぉ、言葉遣いが丁寧なんだよ、うぅん。
おめぇがなぁ、妙な口ぃ、利くってぇと、あぁ、しくじるといけねぇからな、
ここで、まぁ、挨拶の稽古ぐらいはしといた方がいいかもしれねぇ。
向こうのばあやさんは
『こんちは、結構なお天気様でございます。』
お天気に、様ぁ付けるぐらいの人だからな。
あぁ、いいか、
『こんちは、結構なお天気様でございますねぇ。』
こんなこと、言われたら、あぁ、まっ、
『さよぉ、さよぉ。』
となぁ、あっ、ちょいと、こぉ、反り身んなって、
さよぉ、さよぉと、重ね言葉なんてこと言って、なかなか、鷹揚に聞こえるから。
分かったか?」
「うん。
さよぉ、さよぉ。」
「それでいいや、ねぇ。
それから、まぁ、
『このぉ話がまとまりますれば、お亡くなりになられた、ご両親様も、
さぞかし、お喜びでございましょう。』
こんなことを言ったら、
『あ、ごもっとも次第でございますなぁ。』
こういうことを、意味を含め、
『ごもっとも、ごもっとも。』
と、こう言いなさい。」
「ごもっとも、ごもっとも。」
「あぁ、そうだ。
それから、まぁ、婆やさんも、如才ない人だからな、
『あたくしも、年をとっておりまして、何のお役にも立ちませんがねぇ。』
こんなことを言われたらな、
『なかなか、どう致しまして。』
という心持ちでもって、
『なかなか。』
と、こう言え。」
「なかなかぁ。
それから?」
「それぐれぇで、いいやな。」
「あっ、そう。
じゃ、向こう行って、婆やさんと話ぃして、婆やさんが、なんか、グニャグニャァ言ったら、
『さよぉ、さよぉ、ごもっとも、ごもっとも、なかなか。』
って言えば、向こうで、いいのを選(よ)りどるの?」
「選りどりゃしないよ。
お前が、いいのを選ぶんだよ。
っとに、どうしたらいいかな… うっ、そうだな。
じゃぁ、おじさんが、婆やさんの役だな。
お前、いいか、答えるんだぞ。
んっ、いいか、婆やさんの役。
婆やさんが、
『あたくしも、年をとっておりまして、何のお役にも立ちませんが。』
こう言われたら、お前は、何と言うんだ?」
「….、さよぉ、さよぉ。」
「なんだ、そらぁ。」
「ごもっとも。」
「なお、いけないよ、それじゃ。
しょうがねぇな、ほんっとに、どうしたらいいかねぇ。
何か合図をしなきゃいけねぇ。
袖を引いたら、分かっちまうしな。
….、そうだっ、婆さん、細い糸を持ってきな。
あぁ、それでいいや、あっん。
見ろ、与太。
これね、お前のふんどしに結いておいて、
一つ引いたら、さよぉ、さよぉ。
二つ引いたら、ごもっとも、ごもっとも。
三つ引いたら、なかなか、っての、これ、分かるか?」
「うん、それなら分かる。」
「あっ、そうか。
じゃ、これ、ちょうどいい、紐を結び付けな、うん。
付けたか?
うん、じゃあいこう
『本日は結構なお天気さまでございます』
まずは、一つだ」
「一つは……左様左様。」
「お、上手いな。じゃあ
『あたくしも、年をとっておりまして、なぁんのお役にも立ちませんが。』
こら、三つだ。」
「….なかぁなか。」
「そうそうそう。
『この話が、まとまりますれば、ご両親様も、さぞかし、お喜びのことでございましょう。』
これは、二つだ。」
「…..、んふっ、ぐふふっ….、さよぉ、さよぉ。」
「そうそうそうそうそう。まぁ、いいや、なんとかいくだろう、これで。
これで、うまくいきゃぁな、人間の廃物利用だ。」
廃物利用、ひどいやつがあったもんで、…。
おじさんに連れられまして、そのお屋敷へやってまいります。
「本日は、ようこそ、おいでくださいまして。
こんちは、また、結構なお天気様でございますねぇぇ。」
「…..、さよぉ、さよぉ。」
「この話が、まとまりますれば、お亡くなりになられました、ご両親様も、さぞかし、
草葉の陰で、お喜びのことでございましょうなぁ。」
「…..、ごもっとも、ごもっとも。
後は、なかなか。」
「……はい?」
「あっ、どうも、あいすいませんでございます、へぇへぇ。
えぇ、えぇ、はい、はいっ、さいでございますか。
どぉも、恐れ入りまして、へぇっ、失礼を。
….、馬鹿野郎。
なぁんだ、後は、なかなかってぇ。」
「どうせ、言うと思ったからね。
手回しよく…。」
「手回しなんかしなくていいんだよ、えぇえ。
聞いてたか?
婆やさんが、言ってたぞぉ。
今からそれとなく、お嬢さんが庭をツゥーっと通るから、見てくれろと、こう言ってたからな。
あぁ、庭を、スゥーっと見てるんだぜ。
庭を見ろ、庭を。」
「庭?
庭、どこに、あんの?」
「庭は、表にあろんだよ。」
「庭は、表ですか?
それで、昔から、鬼は(お庭)、外?」
「くだらねぇこと、言って…。
庭を見ろ、庭を。」
「庭ねぇ。
広ぉい庭だぁ。
山があって、お池があって、松の木が生えてる。
あたい、鬼ごっこするには、最適だと思う。」
「お前、いくつになって、鬼ごっこの心配してんだよ、お前は、えぇえ。
ちゃんと、庭を、じぃーっと見てろ。」
「庭をねぇ、うぅん。
わぁっ、障子が開いた。」
「あれ、女中さんが開けたんだ。」
「女中が開けたの?」
「女中って言うやつがあるか。
ちゃぁんと、ああいう大事な人には、頭、下げとくんだ。
今度、来る時は、よろしくお願いします。
あぁいう女中さんみたいに、ただ、大事な人なんだ。
大事な人には、頭、下げとくんだぞ。
馬鹿だなんか、言われるからな。」
「あっ、そぉ。
大事な人には、頭、下げんの?
わっ、猫だ。
かわいい。
チョチョチョチョチョチョチョッ。
おいで、おいでぇ。
猫ぉ。
チョチョチョチョ、チョッ。
わぁー、かわいい。
柔らかくて、丸くて、旨そうな猫。」
「馬鹿なこと言うな。
お嬢様の、お手飼いの猫だから、大事にしろよ。」
「大事ぃ?
猫、大事ぃ?
猫や、今度、来る時は、よろしく。」
「猫に挨拶して、どうするんだ。
馬っ鹿だねぇ。
おいおいおい、ほら、お嬢さん、来てる。
お嬢さんが、通ってるぞ、庭を。
見ろ、見ろ、ちゃんと。
庭を見ろっ。」
「んんー、猫、かわいい。」
「猫なんか、どうでもいいから、庭を..。」
「猫、見てたら、別に、お嬢さんなんか、どうでもよくなっちゃった。
猫、かわいいニャン、猫、ニャンニャン、ちょっと、どこ行くの?
猫ちゃん、猫….。」
「あぁーー、いぃーーい女ぁ。」
「あぁ、いい女だろう。」
「兄貴のかみさんとは、えらい違いだよぉ。」
「あったりめぇだ、こしらえからして、違わぁなぁ。」
「ぁああ、あんな女に、…
『あなたやぁ。』
なんて言われたら、あたい、.. とろけちゃう。
… くっく、おっおっ、…。
さよぉ、さよぉっ。」
「なんだ? さよぉ、さよぉって。」
「さよぉ、さよぉ、ごもっとも、ごもっとも、なかなか、なかなか、
ごもっとも、さよぉ、さよぉ、ごもっとも、なかなかぁ、あぁぁーー。
四つは、なぁに?」
「何だ、四つは?
猫が、毬にじゃれてるじゃねぇかよぉ。」
馬鹿馬鹿しい話があったもんで、…。

さぁっ、それでも、なんとか縁があったとみえまして、吉日(きちにち)を選んで
婚礼ということになる、んですかねっ。
その日は、やっこさん、おいしぃーいご馳走、たらふく食いこみまして、
夜中んなりまして、床に着くんですが、こんな馬鹿でも、枕が変わるってぇと、
なかなか、寝付かれないものとみえまして、夜中んなって、目が覚める。
「ふわぁぁ、.. ほわぁ、はぁんー、うやぁん。
おっかさぁーん。
水、くれぇー。
おっかさぁん、水ぅ。
水ぅ、んー、…..。
あぁ、… そうだ、あたい、この家(うち)、お婿さんに来たんだ。
ふぅーっ、んー、…. 昼間は、いろんなもん食べたなぁ。
初めて食べるもん、ばっかりだよ。
おいしかったなぁ。
鯛の目玉が、一番、旨かった。
うん、どっかで、時計が鳴ってる。
チンチーン。
二ぁつだ。
二ぁつだから、ごもっとも、ごもっともだな。
へへっ、…..。
どうでもいいけど、このお嫁さん、可愛いけど、寝相が悪くていけない。
あんな、枕、外しちゃって。
ねぇ、たっ…、ま…. あ゛あぁ、出たぁぁっ。
トントントン、おじさぁん。
トントントントン、伸びたぁっ。
トントン、伸びたぁっ。
トントントン、伸びたぁっ。」
「はいはいはい、ドンドン、叩(たた)くんじゃないよ、こんな夜中に。
いやいや、与太郎だろう。
あたしが、出るよ、ふっ。
どうしたっ?」
「おじさぁーん。
伸びたぁ、伸びたぁ、伸びたぁ、の、の、伸びたぁっ。」
「のびたのびたって、普通は「どらえもーん」って言って入ってくるのがのび太じゃねぇか」
「そうじゃなくって、首が、首が伸びた」
「首が伸びたって、伸びるの承知で行ったんじゃねぇのか。」
「承知だからって、初日から。」
「初日も千秋楽もないんだよ、そういうものに。
なぁにをやって…。」
「何をやってって、あんな、あんなの、やだ。
あんなもん、やだっ。」
「何っ、あんなもん、やだだ。
早く、戻んな。」
「戻んない、戻んない。
あたい、もう、お袋んとこ帰る。」
「馬鹿なこと、言うなよ。
お袋んとこ、帰るぅ?
今度、お袋のとこは、もう、大喜びだ、えぇえ。
早く、孫の顔が見たい、孫の顔が見たい、ってんで、何時いい便りが届くもんか、お前のお袋はなぁ、家で首を長ぁくして待ってるぞ。」
「あぁーあ、家にも帰れない。」

与太郎噺は罪がなくっていいね。

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