堀元見著『教養(インテリ)悪口本』感想 ユーモアが大切ですよね

インテリになりたいわけではないが、ユーモアというのは大抵インテリジェンスを含むからね。

すぐ「海外では~」と言い出す人に使えるインテリ悪口「鹿鳴館精神を身につけてる」、憶えた言葉をすぐ使いたがる人用のインテリ悪口「ボキャブラリーをスタックで管理してるのかよ」・・・・・・等々、知性とユーモアが宿れば悪口は断然面白くなる。イラッときたときやモヤモヤしたときに使って、ディスりたい気持ちを教養に変える!

言い回しを多数持つことって意外と大事だったりする。その一助となれば、、、というような殊勝な心がけではなく、単に悪口って面白いよねってところからのスタート。

しかし、これで笑える人とは仲良くなーって種類の本ですね。

はじめに

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そんな中で、1人の友人がポツリと言った。「 ただし人間関係の摩擦は無視できるものとする、と思ってるのかもな」
その瞬間、空気が一変した。笑い声が響き、 淀んだ暗い会話は、楽しく明るい会話に変わった。「そっかー、 物理の問題を解きすぎたのかもしれないね」などと、ジョークの会話が弾んでいった。

これぞユーモアという素晴らしい一言。

位置: 22
インターネットに氾濫する悪口がつまらないのは、そこに知性もユーモアも宿っていないからだ。「こいつ無能。死ね」というツイートを見て、楽しい気分になる人はいない。

まさにそれで、悪口には他人を幸せにするものもあるってこと。それは多分にユーモアを含んでいるものです。

第1章 職場編

植物だったらゲノム解析されてる

位置: 106
世間では、無能な人に対して「新人が 使えない んだよね~」みたいな表現が 跋扈 しているが、これは下品な印象を受けないだろうか? 「使えない」はあまりにも安直で機知に乏しい表現だし、言ってて楽しくない。
ここはぜひ、無能ゆえに研究が飛躍的に進んだシロイヌナズナに思いを馳せながら、「 植物だったらゲノム解析されてる」とか「 国際研究協力に向いた題材」とかそういう言い回しを使うことにしよう。

笑えるかはともかく、面白い切り口よね。教養なのか?という疑問はあるけど。下品で、人を楽しくしない悪口は下の下であります。

ペリクレス戦略ですね!

位置: 200
この戦争でペリクレスは、「 とにかく守ろう」という方針を打ち出した。「 城壁の中にこもって守っていれば相手は諦めるに違いない」みたいな感じ。 とにかく消極的 な戦略である。
しかし、結果から言えば、この戦略は大失敗だった。
消極的な戦略を取ったせいで、ペリクレス率いるアテナイは散々な目に遭っている。
城壁内では 疫病が 蔓延 して市民が次々に病死する し、 守るための軍隊を維持するのにめちゃくちゃお金がかかる し、 敵は全然諦めずに結局 27 年も戦争が続く し、散々である。しかも ペリクレス本人も疫病で死んだ。踏んだり蹴ったりだ。
歴史学者ドナルド・ケーガンは、この戦略を生んでしまった精神性を「 防御主義への妄信」と呼んでいる。現状に満足しているアテナイ人は 現状を維持することを望み、ハイリスクな戦いを望まなかった。

アレクサンドロスやチンギス・ハーンをみてると、絶対に守りには入らないもんね。攻撃は最大の防御ってのは一理あって、それは守れる状況でこそ使うべき言葉なのかもね。

位置: 217
「いや、例年通りでいいよ。ウチの伝統だから。不況が終われば売上は回復するよ!」
「なるほど~。 ペリクレス戦略ですね!」

使ってみたいけど、使ったときはお別れの時ですな。この手の恭順な感じでいて牙むいてる感じ、好きだな。

アナニアとサッピラかよ

位置: 299
さて、アナニアとサッピラが登場するのは「使徒行伝」第5章1節~ 10 節である。この部分の内容は、ざっくり言うとこんな感じ。
•当時のキリスト教は バチバチの新興宗教 なので、入信する時は 資産を売り払って全部教団に寄付 しなければいけなかった。(どんな宗教も最初はカルト宗教である)

全部、ってすごいよね。どんだけ生きづらい世の中だったんだ。それでも魂の救いを求めざるを得ないなんてね。

論理療法で論駁された方がいい

位置: 343
どうしても僕のイメージだと「論駁」は 古代ギリシア哲学の本でソクラテスが相手をボコボコにするアレ だと思ってしまうのだけれど、論理療法で言う「論駁」はそういうのではない

現代の流行語で言う論破ってやつね。あれではないのか……。

「重さがマイナス」とか言い出しそう

位置: 407
ということで、「マイナスの重さ」というのは、フロギストン説を守りたかった科学者、いわば 自説の非を認めなかった人 の主張である。
したがって、このインテリ悪口は「自分の非を認めない人」に使ってほしい。

これは見苦しいけど、現代でもよくあるやつ。あくまで説は正しいとしたいがために、自らの信用を下げ続ける人ね。

自らの非を認めるってのは、結構難しいからね。。。。

ネルソン提督のようですね

位置: 566
戦の展開もすごい。ネルソン提督が考案した新戦術は「ネルソンタッチ」と呼ばれており、 当時の常識を覆すもの だった。 細長い隊列を組んだ敵艦隊の真ん中に突っ込んでいき、敵を分断する というめちゃくちゃ危なそうな作戦だ。

位置: 577
読者が「 と、尊い~~‼」ってなるヤツ。「山田@ ネルソン提督推し」みたいなTwitterアカウントがいっぱい生まれるヤツだ。アイコンは多分ヘッタクソな手描きのネルソン提督のイラストだと思う。
ちなみに、親友のコリングウッド提督も「 おいおい。お前だけにそんな面白い役回りを任せらんねえな」と同じ役割を引き受けてくれる。「コリングウッド提督推し」も生まれると思う。

みんな大好きなサブキャラのオジサマね。しかし、この辺の言い回し、ウェブライターって感じするよね。軽快で洒脱ながら、ネットあるあるを散文する感じ。

位置: 608
やっと信号が解読された! 内容は「英国は各員がその義務を果たすことを期待する」である。
あなたはこう思うだろう。「 はぁあ?????」と。「 ポエム???   今この大事なタイミングでポエム????   オレ忙しいんだけど???」と。「 今まさにその義務を果たすのをお前が邪魔してるんだけど???」と。
実際、一部の水兵や士官たちから「言われなくてもやってるだろ」「今それ言う必要あった?」などの不満が出たし、多くの水兵はブツブツ文句を言ってたらしい。  ネルソン提督は英雄だが、 開戦直前の忙しい時に余計なこと言って部下の時間をムダにさせちゃったダルい上司 でもある。完璧な英雄など存在しないのかもしれない。

エモい役やりたがる人に対して、ってことね。ま、あるよね。多少陶酔でもしないと、やってられない状況ってのもあるしね。

しかし、こういう「知識がない人にはプラスに受け取られそう」な悪口って本当に教養悪口ぽくて好き。その「教養」も一面的である恐れを多分に含むことに自覚的でありながら使う感じとか、たまらないよね。

第2章 知人・友人編

レディ・マクベス効果でそろそろ手を洗いたくなってる

位置: 764
最初こそ人を暗殺しまくりで大活躍のマクベス夫人だが、だんだん不安で精神がおかしくなり始め、終盤では 毎晩「血が落ちない」と言いながら手を洗い続ける悲しい人 になってしまう。
このマクベス夫人にたとえて、「レディ・マクベス効果」という名前が生まれた。もう一度言うが、 めちゃくちゃオシャレ。学者が発見したものを古典文学になぞらえて命名する上手な修辞法、すごくオシャレでたまらない。

同感。「ウェルテル効果」みたいなものもそうかしらん。

よくあるもんね、「おちねーんだよ、洗っても洗っても」ってやつね。あれ、マクベスから来てたのね。買ったまま積んであるなー、マクベス。

アリストテレスの講義の冒頭みたいだ

位置: 867
ということで、あらゆる学問を基礎づけるばかりか、ものによっては激烈な完成度まで1人で持っていった天才・アリストテレスだが、彼の主著『ニコマコス倫理学』を読むと、気になることがある。
それは、「 こいつめっちゃ予防線張るやん」ということだ。

頭のいい人ほど、先に言っちゃうんだよね。アリストテレス、小物ぷりもあって好感を持てます。

第3章 飲み会編

最終的に石になる感じですね

位置: 1,029
まあでも、これも古代の神話あるあるだ。旧約聖書とか読んでても、「 民が文句言っててうるせえから1万4700人殺した」(「民数記」第 16 章 49 節) みたいな話がわんさか出てくるし、罪と罰のバランスが合わないのはもうそういうものだと諦めよう。

あるなー、神話。だから神話苦手。
そういうものだ、と分かって受け入れるしかないのが、現代OSにドハマってる自分には苦痛。

第4章 娯楽編

プロールの餌

位置: 1,368
西野カナさんの作詞は マーケティングの産物 といった感じで、 めちゃくちゃ大量の書類仕事から生まれる らしい。ターゲットにする年代の女性にアンケートを取り、 どんな言葉に共感するかをリサーチしまくって作っている そうだ。
つまり、彼女は韻文作成器こそ使っていないものの、「 まったく機械的な方法で作られるセンチメンタルな歌」を歌っているのである。これを予見していた著者には舌を巻くばかりである。

これ知って西野カナさんが好きになった。マーケティングの産物なのね。
全然歌を知らないのは、しっかりマーケティングの外に置かれたからか。確かに音楽にお金を落とさないもんな、自分。

しかし、この著者=ジョージ・オーウェルはホントすごいよね。

先決問題要求の虚偽

位置: 1,469
「先決問題要求の虚偽」は、論理学における 詭弁 の一種。
証明されてない勝手な前提をおいて進められる論証 のことである。

これ、強い言葉で言われると気付かないうちにスルーしちゃってて怖いやつだ。それにしても、「先決問題要求の虚偽」って言葉、スラスラ言いたい。

第5章 恋愛編

弥子瑕に対する霊公じゃないんだから

位置: 1,666
中国の古典というと、 なんとなく説教臭いイメージがある と思うが、それは孔子の『論語』など、儒家思想のイメージである。たしかに儒家思想は説教臭い。大体の問題を〝徳〟とか〝愛〟とかで解決しようとする が、正直言って「 しゃらくせえキレイゴトだな」という感じがする。来世はもう少し素直な人間に生まれたい。

あるあるwしかし、良いことも言っていると、あたくしは素直に思えるときもあるんですよね。身も蓋もないことも言う。

ちなみに弥子瑕(びしか)と読むそうな。

ナポレオンっぽいね~

位置: 1,806
一方ジョゼフィーヌは、「あの根暗旦那は相変わらず私に夢中でウケるなぁ」と思いつつ、 フランスで浮気をするのに夢中 だった。こじらせ童貞の思いはなかなか伝わらないものである。世の中は難しい。

つらたん。可哀想に、ナポレオン。戦争だけ強かったのね。
気弱な文学青年あるあるすぎて辛い。

第6章 ネット編

ヘロストラトスの名声じゃん

位置: 1,877
迷惑系YouTuberの登場は、決して最近の話ではないのだ。  ではいつだろうか?  50 年前? 100年前? いや、 2400年前 だ。本項で扱うのは、 紀元前356年 の事件である。

人間は進歩してないっていう一つの証左でもあります。

位置: 1,887
捕まったヘロストラトスは、堂々と「最も美しい神殿を燃やしたら歴史に名を残せると思いました!」と言い放ったそうだ。時代とは無関係に、目立ちたがり屋は存在するのである。

アルテミス神殿への放火を試みたときの話。考え方が完全に迷惑系YouTuberのそれ。

位置: 1,899
ヘロストラトスの名前は後世に残ったし、何なら「ヘロストラトスの名声(Herostratic fame)」という英語の慣用句にもなった。「犯罪行為で有名になろうとする」みたいな意味だ。

で、実際に残っちゃう、という。これ、良くないよね。
結果、目的は達成されちゃっているという。

位置: 1,906
あと、昨今はYouTubeの規約がかなり厳しくなり、「無茶やってるヤツはすぐアカウント停止して、動画を消すぞ」的な方針で運用されているが、アレはまさに記録抹殺刑(ダムナティオ・メモリアエ) である。
迷惑系YouTuberのチャンネルが消えていることに気づいたら、「 おっ、ダムナティオ・メモリアエだね」と言ってみるとインテリっぽくてすごく良い。合わせて憶えておきたいフレーズだ。

かっこいいよなぁ、ギリシャ語。ダムナティオ・メモリアエだって。

オイフォーリオンが飛んだ!

位置: 2,080
『ファウスト』のあらすじを超いい加減に説明すると、 人生を学問にのみ捧げたのに結局何も分からなくて絶望した老学者ファウストが「もっと遊んでおけばよかった~~‼」ってなり、悪魔と契約して若返ってから美少女とセックスして 孕ませた挙げ句逃げるなどのやりたい放題をやる、みたいな話だ。

身も蓋もねぇ。。。

位置: 2,110
そうだ。大学をやめちゃった人を見た時、我々がするべきことは「バカだなぁ」とあざ笑うことではない。
何百年も人類の心を揺さぶり続けてきた悲劇の構造に思いを馳せながら、「 オイフォーリオンが飛んだ!」と叫びながら、ゲーテの生み出した荘厳なシーンを味わい尽くすべきなのだ。

完全に茶化してるよね。悪口本だから仕方ないけどね。

あとがき

位置: 2,186
忌野清志郎の本に出てくる一節を、最近よく思い出す。

ユーモアが大切なんだ。ユーモアのわからない人間が戦争を始めるんだ

本書に掲載されているものすべてがユーモラスかと言われるとうーんって感じですが、ユーモアは本当に大切。それを聞いて許容する心も含めてね。

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