大人って、そういうことだったのか『夜空の呪いに色はない』 1

フレーズに力がある。ただ、物語全般でみたときにそれが上手く生きているか。

郵便配達人・時任は、階段島での生活を気に入っていた。手紙を受け取り、カブに乗って、届ける。七草や堀を応援しつつも、積極的に島の問題には関わらない。だが一方で、彼女は心の奥底に、ある傷を抱えていた……。大地を現実に戻すべく、決意を固める真辺。突き刺さるトクメ先生の言葉。魔女の呪いとは何か。大人になる中で僕らは何を失うのか。心を穿つ青春ミステリ、第5弾。

種々の言葉は結構刺さるんですよね。詩人のようです。
ただ、物語全般でみたときに、それが効果的かと言われると。ちょっと物語が長くなりすぎていませんか。

位置: 712
本当に許せなかったのは、安達が彼を「秋山」と呼んだことだ。
それが彼の本名なのだろうか。階段島を訪れるまで、彼は秋山という名前で生活していたのだろうか。わからないし、どうでもいい。
なんにせよあの瞬間、彼は一〇〇万回生きた猫ではなくなった。

いいねぇ、安達は。どんどん人の化けの皮を剥がす。
そのまま悪でいて欲しいよ。

位置: 902
国民の三大義務は習いましたね?」
頷いて、真辺は答える。
「働くこと、納税すること、子供たちに教育を受けさせること」  その通り、とトクメ先生は言った。
「そのみっつをまとめると、どうなると思いますか?」
「まとめる、ですか?」
「働いて、国家のために税金を納めて、子供たちを正しく教育する。貴女はこれを、ひと言で表せますか?」
しばらく、真辺は沈黙した。
それから言った。
「真面目 に生きる、ということですか?」
トクメ先生は軽く首を傾げる。
「間違っていませんね。でも、あくまで私の考えですが、法で定められた義務というのはつまり、未来に尽くせということなのだと思います。未来を 創る義務を負う覚悟を決めたのが、正しい意味での大人です」

いいねぇ。刺さるよ。大人ってのは未来を創る義務を負う覚悟を決めた人のことをいうんだ。今まで読んだどの定義よりしっくりくる。三大義務は未来への責任を果たすということなんだな。

位置: 916
「わかりません。それ、理屈に飛躍がありませんか?」  言葉通りに真辺を子供扱いする微笑を浮かべて、トクメ先生は答える。 「理屈の話なんかしていませんよ。私がしているのは、大人の意地のことです」

そしてトクメ先生、チャーミングなんだな。「大人の意地のことです」なんてね。

位置: 926
真辺は言った。
「私もそんな風に、義務を背負いたいです。先生と同じ意地を張っていたいです」
「まだ早い。急ぐ必要はありませんよ」
と、トクメ先生は答える。
「朝は夜の向こうにあるものです。正しく大人になるには、ひとつひとつ、誠実に夜を超える必要があります」
「夜?」
「暗く、静かな、貴女だけの時間です。夜がくるたび悩みなさい。夜がくるたび、決断しなさい。振り返って、後悔して、以前決めたことが間違いならそれを認めて。誠実な夜を繰り返すと、いずれ、まともな大人になれます」

トクメ先生……めちゃ格好いい。誠実な夜を繰り返すと、まともな大人になれるんだな。あたくしは誠実な夜を繰り返したろうか。それほど不誠実な夜はなかったように思うけどな。

位置: 1,192
人を記号や象徴に置き換えてはならない。親は親という記号ではなく、ひとりの人間が持つ属性のひとつでしかない。人を人ではないものとして扱ってはならない。誰だって不完全で、その不完全性は許されなければならない。
ニュースについて感想を書いた個人ブログには、「けっきょく虐待なのか、そうではないのかは、子供の側がどう感じているのかでしか線引きできない」とあった。一見、説得されそうになる考え方だ。僕たちの日常では、本人の判断に任せることがフェアな姿勢になる場面が多い。でも別のページにはこうある。「虐待を受けている子が、必ずしも親を嫌っているわけではありません。虐待する親を愛し、親のために 噓 をつくことで発見が遅れる例も多数あります」。幼い子に判断を 委ねるというのは、無責任な態度のようにも思える。

虐待について妙にシリアスになるシーン。
村上春樹とかにもあるけど、ファンタジー要素がつよい作品に急に生々しい話が出てくるとその異様さが引き立ちますね。

しかし、本著は最後、真辺や堀が限りなく記号や象徴になる気がするんだけどね。

位置: 1,246
「情報源がどれだけ非現実的でも、重要なのは大地のことです。大地が現実的な問題を抱えているなら、信じるとか、信じないという話ではないと思います。無視しようのないことですよね?」  そういうことだ。  非現実的な状況の中での、現実的な問題。大地はたしかにこの世界に実在し、苦しんでいる。

と、考えているのはファンタジー小説の主人公。という。メタだなぁ。

位置: 2,383
「取り返しのつかない失敗をするかもしれない。私にはどうしようもないくらい、誰かを傷つけるかもしれない。それでも、できなくても責任を取るんだって言い張って、足を踏み出すのが大人になるってことなんだ」
未来を作る義務を負う、その覚悟を決めるということなんだ。

その覚悟がなくても大人にならざるを得ないときもあります。だいたい、そっちが先です。

位置: 2,889
「実は私、プロポーズされたの」  そのときの彼女の心境を、時任は知っている。夜中にまた魔女の世界に招いて、心の中を覗いたからだ。

このあたりから、人の心の中を除いたりし始めて、どんどん魔法が強くなっていくんですよね。そしてあたくしは置いてけぼりに。

人の心を除きこめるようになったら、もっと大変なこと、たくさん起きると思うんだけどな。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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