『The Indifference Engine』 短編でも十分に堪能できる伊藤計劃節

短編でも彼の凄さが十二分に堪能できる

伊藤計劃氏、ディストピアを描かせたら当代一だったはずなのに。
惜しい人を亡くしました。
彼の、唯一かしら、短篇集です。

「The Indifference Engine」
「Heavenscape」
「フォックスの葬送」
「セカイ、蛮族、ぼく。」
「Automatic Death:episode 0:No Distance, But Interface.」
「From the Nothing with Love」
「解説」
「屍者の帝国」の途中まで

という短編のラインナップ。
中でも、タイトルになっている『The Indifference Engine』と『From the Nothing with Love』は良かったです。

The Indifference Engine

公平化機関、と訳される、敵対する部族の顔を識別できないようにするための技術についての話。殺戮兵器であるべき兵士にとって、顔の識別は不要な能力だよね。という伊藤計劃氏らしいSF設定。
この人はこういう物語の筋書きを作りますね。
突き詰めていくと人間の文明化の最終形態に感情とか要らないよね、理性とか要らないよね。そういう未来って、あり得るよね。

震えるようなディストピア感。

From the Nothing with Love

『007』と『アクロイド殺人事件』のオマージュかしら。
他にもいろいろはいってそうですが、あたくしにはこの2つしかわからんかった。

ジェームス・ボンドの脳みそのコピーをトレースされた国家がらみの殺人兵器が、己の存在について懐疑的になりながらも真相に迫っていきます。

自分自身で在ることが極限に達すれば、最早意識は必要ない

このあたりは『虐殺器官』『ハーモニー』につながる発想ですな。
もしかしたら原点なのかもしれない。ジェームス・ボンドはクラヴィス・シェパードでありミァハであるわけです。

ただ、自分を自分だと感じさせてくれる、自分が自分だと保証してくれる、そんな「人間の意識」だけが死んで、自分のように振舞う要素だけが、言うなれば魂なきコンテンツだけが生き延びてゆく。  これこそまさに、煉獄というやつなのではないか。

設定は『007』、物語は『アクロイド殺し』へのオマージュですかね。
ただ、味付けは相当に伊藤計劃的で、読み応えがあります。
やっぱり、あたくしはこの人のSFが好きですね。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』