『黒い家』 こ、こええの……

いや、ほんと、久々に本読みながら怖くて目を伏せました。

若槻慎二は、生命保険会社の京都支社で保険金の支払い査定に忙殺されていた。ある日、顧客の家に呼び出され、期せずして子供の首吊り死体の第一発見者になってしまう。ほどなく死亡保険金が請求されるが、顧客の不審な態度から他殺を確信していた若槻は、独自調査に乗り出す。信じられない悪夢が待ち受けていることも知らずに……。恐怖の連続、桁外れのサスペンス。読者を未だ曾てない戦慄の境地へと導く衝撃のノンストップ長編。第4回日本ホラー小説大賞受賞作。

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貴志祐介先生の『エンタテインメントの作り方』を読んで、面白そうだと思って購入。さすがに「作り方」を指南する本を出すだけの方ですね。めちゃ面白かった。

貴志先生のデビュー作だったかな。
作品の完成度、文の洗練度、そして言いたいことの横行さ(笑)、どれも凄い。横行さについては新人らしいといえばそうか。

早い話が、あちこちで子供を作るだけ作って後は捨ててしまっても、社会がけっこう面倒を見てくれますから、普通に子供を育てるよりも多くの子孫を残すことができるんです。つまり、一生懸命に子育てをするよりも、子供を作って逃げる戦略の方が、有利になってしまったというわけですね」
金石は、薄くなったバーボンを飲んで喉を湿した。
「『善意で踏み固められた道も、地獄へ通じていることがある……』」
何かを思い出しているように、にやにや笑いながら言う。
「私がアメリカに留学していた時に、親しかった……ある友人に教えてもらった諺です。弱者に優しいはずの福祉社会が、皮肉なことに、冷酷なr戦略の遺伝子を急速に増加させることになってしまったんです。それがサイコパスの正体なんですよ」
at location 2601

「……我々の考えるべきことは、彼らの野放図な増殖を看過するかどうかなんです。人間が人間を救うために作ったはずの福祉制度が、皮肉なことに、本来ならば淘汰されるはずのサイコパスの遺伝子を救済してるんですよ」
at location 2732

途中で大変なことに巻き込まれる男の台詞ですが。

なかなか壮大なことを言う。なるほど、これも貴志先生の言いたいことの一つでしょう。
こんな形で言わせる先生の筆の強さに感服です。

起こっていることの規模を大きく拡大させ、恐怖を煽る。
いい手ですね。

 生命保険とは何だろう。席に戻って若槻は自問した。
日本の良好な治安と貯蓄好きで勤勉な国民性にマッチしたことで、世界一の加入率を達成したシステム。平均寿命が延び日本経済が順調に発展することで、生保各社は我が世の春を謳歌していた。だが、それもすでに過ぎ去った夢になりつつある。
日本の社会全体が現在アメリカで進行しているような巨大なモラルの崩壊に直面しているからだ。精神的な価値を軽視し金がすべてという風潮。思考力や想像力の衰退。社会的弱者に対する思いやりの欠如。その前兆は損害保険の分野ではもう始まっていた。損保業界ではすでに請求額の半分は詐欺であるとまで言われている。それが生命保険にも波及するのは時間の問題だろう。
at location 5099

くぅ。かっこいい。
生命保険という切り口を一つとってもここまで話せるんだから、大したもんだ。感服するね、ほんと。

菰田幸子の恐怖

はっきりいって、貞子とかその辺より全然怖いです。
軋轢を死をもって片付けるタイプの人間が最も恐怖かもしれない。そういう意味じゃ、ヤクザより怖い。

読んでいて、目を伏せましたものね。
活字で怖がらせる、というのがどれだけの高等技術か。あたくしにゃ想像もつかぬ。

まとめ

怖いものが読みたきゃこれを読め、ってなもんです。

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