『きつねのはなし』の方が好きですね。
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僕らは誰も彼女のことを忘れられなかった。
私たち六人は、京都で学生時代を過ごした仲間だった。十年前、鞍馬の火祭りを訪れた私たちの前から、長谷川さんは突然姿を消した。十年ぶりに鞍馬に集まったのは、おそらく皆、もう一度彼女に会いたかったからだ。夜が更けるなか、それぞれが旅先で出会った不思議な体験を語り出す。私たちは全員、岸田道生という画家が描いた「夜行」という絵と出会っていた。
旅の夜の怪談に、青春小説、ファンタジーの要素を織り込んだ最高傑作!
「夜はどこにでも通じているの。世界はつねに夜なのよ」
大好きな森見先生ですが、今回のはどうも。
あたくしはやっぱりご都合主義的な作品が読みたいのかもしれません。
旅館に久しぶりに集まった英会話塾の面々が、それぞれの不思議な、というか怪奇的な体験を話すのですが、これがオチないままに繰り返されます。正直、期待してました。最後にご都合主義的にこれらが回収されるのか、と。
しかし、怪奇は怪奇のままで。特になにもなし。
各自の怪奇体験が本当なのだとしたら、生きて集まれているのが不思議なくらいなんですけどね。娯楽小説として読むとスッキリしないので不完全燃焼かも。
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ソ連の宇宙飛行士ガガーリンの「地球は青かった」という有名な言葉がある。今では宇宙からの映像など珍しくもないから、我々はその「青さ」を知っているつもりでいる。しかし宇宙飛行士の語るところによれば、本当に衝撃を受けるのは背景に広がる宇宙の暗さであるらしい。その闇がどれほど暗いか、どれほど空虚かということは、肉眼で見なければ絶対に分からない。ガガーリンの言葉は、じつは底知れない空虚のことを語っている。その決して写真にあらわせない宇宙の深い闇のことを考えると、怖いような感じもするし、魅入られるような感じもする。 「世界はつねに夜なのよ」と彼女は言った。
このフレーズ、好きですね。みんな好きでしょう。
宇宙の暗さは想像するしかないですが、想像を絶する暗さでしょうね。そこはまさに空虚でしょう。
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もう二度と長谷川さんに会うことはないだろうと思った。しかし私には、十年ぶりに接した彼女の声や仕草をはっきりと思い浮かべることができる。彼女には彼女の歳月があり、私には私の歳月があった。 そして私は、十年ぶりに鞍馬に集まった四人の仲間たちのことを想った。火祭からの帰り道、姿を消したのが彼らではなく私なのだとしたら、彼らは不安な一夜を過ごしただろう。こうして無事でいることを早く知らせなくてはならない。
「行って帰ってくる」話の帰結です。
長谷川さんも岸田氏も充分に魅力的に書かれていました。それは何よりこの物語の原動力。
まとめ
デビッド・リンチ的な突き放した怪奇物語だと思って読めばアリですが、いわゆるご都合主義的な森見先生が好きでそれを求めて読むとモヤッとするかも。「10年目の集大成」というコピーは逆効果だと思います。
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