とにかくなんでも出来る宮部みゆきさんがtokyo-fmに出ていたときに推薦していました。
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秘剣、外に語らず──伝授はもちろん、どんな技かも極秘にされる“隠し剣”。その隠し剣が必要になるとき、それは最悪の事態を意味する。剣鬼と化して破牢した夫のために捨て身の行動に出る人妻、これに翻弄される男を描く「隠し剣鬼ノ爪」は、同名の映画の原作となった作品。そのほか「臆病剣松風」「暗殺剣虎ノ眼」「女人剣さざ波」「必死剣鳥刺し」など、爽やかで深い時代小説の魅力が横溢するシリーズ8篇。剣客小説に新境地を拓いた名品集、第1弾!
読んでまずびっくりしたのは短編集ってこと。イチオシの一冊に短編集を推してくる宮部さん。さすが。引き算の魅力を教えてくれてるのかしら。
短い物語の中で紹介される秘剣と、その裏にある人間関係。余計な描写を削ぎ落とした末の、本当に必要なエッセンスのみが綴られていました。これは確かに珠玉。雑味なし。小説に限って言えば雑味が醍醐味という感情もなくはないけど、研ぎ澄まされた文章というのは読んでいて本当に気持ちいい。ここまでの引き算を時代小説というファンタジーでやるんだもん、藤沢周平ファンが多いのも納得です。
位置: 1,033
はてしのない防禦が続くかとみえたとき、二人の撃ち込みをはずした新兵衛の身体が、するりと二人の構えの内側に入った。はじめて新兵衛が短い気合いを発した。斬りさげた二人の刃の下で、新兵衛の身体がひるがえるように動き、刀身が二度きら、きらと光った。そして後も見ずに、新兵衛は柳田に向かっていた。その背後に、二人の刺客が相次いで倒れた。 柳田に、新兵衛は斬りこませた。そして反転して躱しながら、肩先から斬りさげた一刀で、鮮やかに柳田を倒していた。
短い文章の中で、これだけで3人倒したのが分かる。イメージし易いとでもいうのでしょうか。素晴らしい。新兵衛さんの靭やかな身体使いが目に浮かぶようです。
位置: 2,145
芍薬は花期が過ぎ、なでしこはまだ時期でないが、菖蒲は八分どおり花が開き、あじさいは盛りだった。山ゆりも、葉かげにつつましく緑色のつぼみを垂れている。
これだけで5月のいい季節を思い浮かばせます。凄まじい。達人の筆使い。
位置: 2,524
──剣鬼だ。 狭間はおれと立ち合うために牢を破ったのか、と思った。胴ぶるいがこみあげてきたのを腹に力を入れて 圧し殺してから、宗蔵も刀を抜き草地に踏みこんだ。そこは相手を斃さなければ出ることが出来ない死地だった。位置: 2,579
宗蔵は吐き捨てた。こみ上げてきているのは怒りだったが、それは 嫉妬 と見わけがつかなかった。宗蔵は思わず、女の肩を掴んだ。
短い文章だからこそ、その人の人となりがすぐ読み取れる。俯瞰した人間の文句のようで、実に登場人物の心持ちが分かりやすい。
位置: 4,171
日は丘の灌木の茂みの陰にかくれて、尼寺の庭に 薄闇 がただよいはじめていた。背後の雑木林に鳴いていた鶸の声が、いつの間にかやんでいる。位置: 4,541
白刃が夕日を照り返し、一瞬荒れ地に無数の光芒を生んだのを見ながら、十太夫は眼をつむった。
どうやったらこんな文章をかけるのか。最短距離の良さ。
上下巻らしいので、下巻も読みたいです。
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