酒と教養について『今夜、すべてのバーで』から学ぶ

位置: 2,256
この盃を受けてくれ どうぞなみなみつがしておくれ 花に嵐のたとえもあるぞ さよならだけが人生だ  ってな」 「有名な歌ですね。誰のだったかな」 「誰の歌かは知らん。

唐代の詩人于武陵(うぶりょう)の詩「勧酒」に付した井伏鱒二の訳ですね。妙薬として名高いんだとか。

勧君金屈巵
満酌不須辞
花発多風雨
人生足別離

風流だなー、漢詩とか分かると。漢詩を読みながら酒を飲むっていう教養人ぶりに憧れはある。

位置: 2,440
「うん。若い人は、いろいろ自慢なことがありまっしゃろ。 わが の知っとうこととか、したこととか。たいていは私ら年寄りは知っとることやさかい、それを、知っとるっちゅうたら、またこれはどもならん、ケンノンなこっちゃさかい、黙っとるのがええ。そやけど、知っとることは、えばりたいのが人間の 業 じゃさかいな。そういうときは、おらんようにするのがええんですわ」

位置: 2,456
「言うたからというて、誰の得になるもんやないでしょうが。昔の、もうすんだ話や。そんなこと言うても、シシひいて興奮しとるもんは、爺い余計なこと言いよって、ちゅうて、恨みよるだけや」 「ふうん。でも、えらいですね、そうやって黙れるってのは」 「えらいかどか知らん。なんぼ言いたいか知らんが、そんなものは人に言わんでもええ。石に向かって言うとったらええんや。ほしたら嫌われいですむやろ」

沈黙は金、てね。言わない事ができるのが大人だよね。おしゃべりはいけません。落語家以外、ってね。

位置: 2,714
「それは……」 「アル中ひとつ解明するのに、何でそれだけいろんな学説が出ていて、幼児体験だの学習理論だのパーソナリティだの、どれが正しいかどうして決着がつかないんですか。 天然痘 が消滅したのは、免疫学が客観的な科学で、しかも正しかったからでしょう。証明しようのない心の中のことを、あれこれ言いたい放題に言って、誰も責任を取らないってのは、いったいそんなものを科学だと言えるんですかね」

位置: 2,722
科学は気が長いんだよ。精神病理学もしかりだ。わからないことや誤った学説が多いからってそうクソミソに言われたんじゃ、科学者も医者も立つ瀬がない。ことに精神病理学の医者なんてのは、現場で地を這うようにして、人間相手の研究を続けてるんだからな」

どっからどこまでが科学か、というのを決めるのも他の人に任せちゃう。それでいいのよ。知らんこと、知っていると都合の悪いことは知らぬふりして聞き流す。これよ。

ただ、科学者だって糞味噌に言われたんじゃ立つ瀬がない、というのはその通りでしょうね。

位置: 2,961
子供なんてのは、人生の中で一番つまらないことをさせられてるんだからな。私だって十七までに面白いことなんか何ひとつなかった。面白いのは大人になってからだ。ほんとに怒るのも、ほんとに笑うのも、大人にしかできないことだ。なぜなら、大人にならないと、ものごとは見えないからだ。小学生には、壁の棚の上に何がのっかってるかなんて見えないじゃないか。そうだろ?」
「そうですね」
「一センチのびていくごとにものが見えだして、風景のほんとの意味がわかってくるんだ。そうだろ?」
「そうです」
「なのに、なんで子供のうちに死ななくちゃならんのだ。つまらない勉強ばっかりさせられて、噓っぱちの行儀や礼儀を教えられて。大人にならずに死ぬなんて、つまらんじゃないか。せめて恋人を抱いて、もうこのまま死んでもかまわないっていうような夜があって。天の一番高い所からこの世を見おろすような一夜があって。死ぬならそれからでいいじゃないか。そうだろ。ちがうかい?」

ちがわねぇな。流石らもさん。
子どもが大きくなって色々悩んだら言ってやろ。目標の必要性を認識してからじゃないと努力は虚しい。そういうもんだもんね。

くそくだらねぇ内容の中に、時々珠玉のような言葉が散りばめられてる。そこがらもさんの魅力なのかもしれない。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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