青くも大器を感じさせる『十三番目の人格 ISOLA』 1

貴志祐介氏の天才ぷりを伺わせます。

恐怖というものについて深く考えている人だな、というのは伝わるはず。
特に『黒い家』にも続く「狂気の人間が肉体的にも超越する」感じは独特の価値観ですよね。
ヨレヨレのおばあちゃんがそんなに強いはずあるか?とかね。

つまりリアルよりリアリティなんですよ、恐怖ってのはね。知った顔して言っちゃうと。

位置: 430
「面白い、それ?」
「ええ。主人公のワタナベ君の性格だけは、ちょっと好きになれないけど……。いま、レイコさんの打ち明け話が終わったところ」
レイコさんは、運命のいたずらから、数度にわたって理不尽な精神的打撃に見舞われ、精神病院で療養することになるキャラクターだった。

ノルウェイの森のくだりね。
ワタナベくん、結構、あたくしは好きなんだけどな。オカダトオルに比べればよっぽど。

位置: 587
これまでに由香里は、エンパシーという能力のために、好むと好まざるとにかかわらず、さまざまな歪んだ精神の持ち主たちの内面をのぞいてきた。
そうした人間に共通していたのは、極端な自己中心性と、他人の苦痛に対する共感能力の低さに起因する冷酷さだった。
だが、彼らにしても、熱い怒りによってつき動かされるという点では、普通の人間と変わりはないのだ。
あの、イソラという人格の中には、巣を破壊されたばかりのスズメバチのような、兇暴な怒りが渦巻いていた。由香里は、その危険な羽音をまざまざと聞くことができた。
にもかかわらず、そこには、まったく人間的な熱い感情が欠如していたのだ。
それは、まるで爬虫類のような冷たい激怒であり、エンパシーを通じて触れただけでも、由香里の心を凍えさせてしまうような感じだった。

このあたりをよむと、イソラは非人間的な感じがします。というか単なるサイコパスのような。しかし、最後まで読むとイソラはなんと人間的な理由で存在しているかがわかる。このへんの辻褄が「青いな」って感じするんですよね。一貫性を求めすぎてはいけないと知ってはいるんですけどね。

位置: 595
由香里が子供のころに読んだ雨月物語の『吉備津の釜』。細部は忘れてしまっていたが、そこに登場する 磯 良 という名の怨霊の悪意のまがまがしさだけは、まだ記憶に残っている。

もちだすのが日本の古典ってあたりもまた、青臭くもセンスあるなって感じしますよね。辞書とかね。良い小道具使うなーって。

位置: 1,063
外は、一定区間ごとに青白く光っている水銀灯以外は真っ暗だった。風に吹き散らされた細かい霧雨が窓ガラスに当たり、小さな水滴となって一面にへばりついている。エンジンの振動にぶるぶると身を震わせている雫が、ときおり耐え切れなくなったように緩慢な動きで流れ落ちて行った。アミダくじのようにギクシャクとした軌跡が、途中で別の雫と合流すると、やにわに大きさと速度とを増して、すとんとまっすぐ落ちた。
当然落ちてしかるべき大きな雫がいつまでも残り、すみっこの安全な場所で安定しているように見えた小さな水滴が、突然理不尽にも直角に曲がってきた流れに巻き込まれて、消え去ってしまうのがおもしろかった。

好きなんですよね、こういう描写。あたくしもよくみてた。
言葉を用いて説明しようとしすぎるくらいが、何だか貴志氏の物語とちょうどマッチしている気がします。

位置: 1,398
ペスを殺すためだけに生まれてきた人格、範子が、初めて外の世界と向き合った瞬間だった。

果たしてそんなにたくさん人格を作る必要があったのか。

位置: 3,088
また、古来から、神と出会ったというような強烈な宗教的感情をかきたてる体験が存在することは知られている。たとえばジャンヌダルクの場合がそうだが、これが、脳の側頭葉にある『シルヴィウス溝』を刺激すれば起きるということも、かなり以前から知られていた。
薬物を用いて、その至高体験を作り出せないかというのが、真部の研究テーマだった。

じゃあそこイジってりゃいいじゃん、ってなるよね。
そういう発想が安易な薬物依存につながるんだろうけど。でも、本当にダメなんかね。そこまで分かってんのに。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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