次期部長はサファイヤでしょう~『響けユーフォニアム』より

みどりちゃん素晴らしい。

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p273
「みぞれにはアンタがいてよかったと思うけど。そうやないと、もっと早くにあの子 潰れてたよ。たぶん」
優子は一瞬呆気に取られた顔をして、それから急に意地の悪そうな笑みを浮かべた。 吊り上げられた口端から、白い歯がキラリとのぞく。うっすらと紅潮した頬を隠そう ともせず、優子は夏紀の背中を軽く小突いた。
「なんや、アンタ。もしかして慰めてくれてるわけ?」
「はあ? 違いますけど?」
「素直やないなあ。アンタ、いっつも憎まれ口叩いてるけど、うちのこと大好きやね んな」
「うわ、うっざ! なんやコイツ」
「あー、はいはい。照れんでもいいって」
「うっざ!ウザすぎ!」
露骨に嫌そうな顔をする夏紀に対し、優子は愉快そうに笑い声を上げた。

とても可愛い。素晴らしい。出来てるなー。この二人の関係性もみんな大好きでしょう。百合ではないがバディである。おじさん感涙。

p295
観客席の あちこちでいくつもの手が、羽ばたく蝶みたいな動きを繰り返す。皆の視線がこちら に集中するのがわかる。喉の奥がヒリヒリした。ドキドキしている。緊張で、死にそう。そう思った。クラクラになった脳味噌が溶け出しそうな、熱に呑まれて倒れ込ん でしまいそうな、そんな感覚が脊髄をしびれさせる。だけど、久美子はこの感覚が嫌 いではない。本番特有の、ナイフの切っ先みたいな鋭い緊張感。それを押し流してし まうように、久美子は唾を呑み込んだ。
滝の腕が上がる。部員たちは一斉に楽器を構える。その指揮棒の先が、わずかに沈 む。息を吸う音が、ベルを通して大きく反響した。指揮棒が振り下ろされ、それに呼 応するかのようにトランペットのメロディーが静寂を切り裂いた。息のそろった音の 粒が、ベルから一斉に吐き出される。その澄んだ音色は、久美子がいままで聞いたな かでもっとも美しかった。華々しいメロディーに沿うように、木管の音が流入する。 ューバとコントラバスの低音が、地を揺らすような音を出す。あすかの手がぴくりと動いたのを確認し、久美子は倒していた楽器を構えた。マウスピースに唇を当て、 それから第一声を放つ。柔らかなユーフォニアムの裏メロが、音の層へと合流する。
音楽は次第に激しさを増し、そのテンポは加速する。勇ましい金管のメロディーと、 繊細さを残す木管の対旋律。

前回も言いましたが、音楽の描写として最高に尖っていますね。心象風景を描くでもなく、回想シーンに移行するでもなく、ただ事実のみを述べ続ける。その淡々と述べる様が、逆に音楽の激しさとテンポの速さを感じさせる。読者を信頼してこその技ですね。すごい。

p125
同じ曲を吹いても、きっと北 宇治ではここまで人の心を動かせない。同じ楽器を使って同じ曲を吹いても、まった く違うものができあがる。それが音楽のおもしろいところであると久美子は思うし、 それと同時にその事実に少しばかり恐ろしさも感じる。自分と他者の力量の差を直視 するには、ほんの少し勇気が必要なのだ。
「これが全国の金賞レベルやねんな」
麗奈がつぶやく。その少し離れたところから、興奮した様子の緑輝がこちらへと駆 け寄ってきた。強豪校オタクの彼女は先ほどの演奏に大変満足したらしい。その類は 赤く上気しており、猫っ毛の髪も少しばかり乱れていた。
「あー、今日はもうほんまに最高やったね!」
そう言って、緑輝は機嫌よさそうに自身の頬を両手で挟み込んだ。

こっから3巻。

アニメだと天真爛漫で可愛い感じの緑が、小説だと無類の巧さを持つように描かれていて、そこもまた、すこし違いますね。小説のほうが複雑というか強い感じ。
アニメだと見た目の割に大人びている点も書かれていますが、上記のような強さを持つという感じはあまり感じませんでした。奥深いね。川島サファイヤ。

本当に純粋に強いんだろうな。物語の奥行きをもたせる素晴らしい人物。あたくしなら部長はコイツだな。

p184
「あすか先輩が本番で吹くことが、この部にとっていちばんええねんから」
そう、夏紀は言った。その眼差しのまっすぐさに、久美子は思わず目を逸らした。 そうですね。そんなことないです。どちらの台詞も場にそぐわない気がして、久美子 はぎゅっと紙を握る手に力を込めた。
彼女のかさついた手が、久美子の肩へと添えられる。夏紀は、全部わかっている。 それが何を意味しているのか。わかったうえで、自身にとってひどく残酷な台詞を告 げるのだ。
「お願い久美子。あすか先輩を連れ戻して」

この夏紀先輩の強さ。いいよね。ぐっとくる。

p200
「あの白いひまわりは………」 「ああ、イタリアンホワイトですか。アレは妻が好きだった花なんです。恥ずかしい 話ですが、プロポーズのときに私が贈ったんですよ」
 そう語る声音には、過去を懐かしむような響きがあった。きっと彼は、いまだに奥 さんのことが好きなのだ。写真へと落とされたその柔らかな視線から、久美子は静か に目を逸らした。脳裏に麗奈の顔が浮かんでは消えていく。
 イタリアンホワイトの花言葉はね、 緑輝のはしゃぐような声が、久美子の耳元で蘇った。あの日滝が買った花束の、そ の白い花弁を思い出す。可愛らしい、小さな花だった。滝はどんなつもりであの花を 買っていったのだろう。台風のなか、スーツを濡らしながら、それでも彼はあの花を 買いに行ったのだ。受け取る人は、もういないのに。

そしてこの滝である。大好き。ちょうかっこいい。
奥さんを愛している男というのはかくもカッコいいものか。あたくしもこう在りたいもんです。

p218
なんだか見てはいけない ものを見てしまったような気がして、久美子は意味もなく視線をさまよわせた。
「じゃ、黄前さん、勉強頑張って」
そう告げて、香織は久美子の肩を叩いた。すれ違う瞬間、久美子の鼻先を甘い香り がかすめていった。
「あ、ありがとうございました」
「バイバーイ」
生真面目に頭を下げる久美子とは対照的に、あすかはお気楽な口調で手を振ってい た。香織は頭だけをこちらに向け、ひらひらと小さく手を振り返す。その背中が小さ くなったのを見届け、そこでようやくあすかはこちらに向き直った。その口端が、わ ずかに吊り上がっている。
「香織って、可愛いやろ?」
それはいったいどういう意味の台詞なのか。久美子はただ曖昧にうなずいておいた。

そしてこの百合である。やっぱりこの二人の間には何かあるのか?少なくとも香織先輩はあすかに対するなにか特別な感情がありそうだ。プールに二人で来てたし。違うな。やっぱり。

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