『白昼の死角』は古臭いかも

頭いい人のお話でしたね。

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その明晰な頭脳に物を言わせ、法の盲点を巧みにつき、ありとあらゆる手口で犯罪を繰り返す“天才詐欺師”鶴岡七郎。警察の追及の手からも最後まで逃げ通した鶴岡の、数々の悪行がこの小説には記されている。多くの名作を生んでいる著者自身が、「発表以来二十年、これ以上の悪党(ピカレスク)小説は書けなかった」とまで言った、高木彬光作品の最高傑作長編推理。

天才的な頭脳を持つ詐欺師が、小説家と出会って自分の今までの軌跡を話す、というメタ構造で始まる長編です。
話は、主人公が学生時代にある天才と出会って詐欺グループを作り、はてには自分も詐欺師となって戦後の混乱期を大股で歩く、というクライム・サスペンスですかね。

この詐欺師の押し引きの旨さ、達引の強さ、加えて冷徹さが妙にリアル。また、戦後の混乱期に法律の合間を縫って詐欺を働く面白さも手に汗握ります。

登場人物も面白い。純粋なようで悪魔的な女と、悪魔的のようで純粋な女が出てくる。また人間の弱さのようなものが、作品の性質上次々と出てくるわけですが、これがまたリアルでいい。

ただ、ちょっと全体的に古ぼけた印象はあります。戦後の混乱期ののし上がりが、今の時代ののし上がり方と比べるとあまりにも汚くて(もちろん詐欺だからってのもある)、あんまり格好良くは思えませんね。IT社長とかYouTuberのほうがカッコいい、といわれたら反論出来ないかも。

この「カッコいい」という感覚が本著にとっては結構大切で、主人公に対して「古い手口でやってんな」と思わせたら魅力が既に半減なんですよね。難しい。

位置: 273
高島嘉右衛門 は銀の密輸か何かで投獄され、獄中で 易経 二巻をやぶれるまで読みつくして翻然と悟りを開いたというね。出獄してから、彼は事業界にのりだし、 横浜 港を近代貿易港として完成させ、いまでも高島町、嘉右衛門町という二つの町に、自分の名前を残している。

このあたりは著者の『「横浜」をつくった男』に詳しいですが。

位置: 394
この一カ月の政治の空白は、そのまま日本の不安をあらわし、この内閣の前途の多難を示すものだった。  配給物資は、いくらかずつふえだしたが、それだけでは生活――いや、生存さえ、むずかしかった。法を尊んで、一粒の闇米も口にいれなかった 山口 判事は、ついに栄養失調に倒れて死んだ。

位置: 399
そういう世相を反映しておこる犯罪も、異常きわまるものだけだった。物価統制令はじめ各種の統制令に違反するいわゆる経済犯罪は、誰も問題にしないくらいだった。
戦争中から戦後にかけて、十人にあまる女性を 強姦 殺人の 犠牲 とし、 淫獣 と呼ばれた 小平 義 雄 は、控訴審でも、ふたたび死刑を言いわたされた。
あずかった 赤子 二百人のうち、百人あまりをわざと死亡させ、配給物資を横領し、闇に流して驚くべき利益をあげていた 新宿 柳 町 の 寿 産院、院長の 石川 夫婦の鬼畜のような殺人罪が、 早稲田 署の手によって天下に暴露されてからまだ間もないうちに、 豊島区 長崎 の 帝国 銀行 椎名 町 支店では、営業時間終了直後の午後三時半に、行員十数名が一度に毒を飲まされ、現金十数万円を強奪されるという怪事件が突発した。

ちょくちょく当時の世相というか社会情勢を挟むのが、話にリアリティをもたせるのに大変に良いです。ミクロな話にマクロを挟むと効果的。

今とはまるで違う、法整備も警察も整っていない時代。あたくしは生き残れたかしら。そういうタフネスというか生存力にまるで疎いのよね。

位置: 648
間 貫 一 とかシャイロックのような冷酷さはぜんぜん表に出してはいけない。

昔、『金色夜叉』を読んだ時、間貫一がそこまで悪い人間に思えなかった記憶があります。シャイロックは『ヴェニスの商人』ですね。悪者の代名詞なんでしょうか。ヴェニスの商人は読んだことないので読んでみるか。

位置: 674
たしかに運命のZ旗は、日本海海戦にも 真珠湾 海戦にもひるがえった。だが、それはミッドウェイの海戦にもレイテ湾の海戦にも、同じようにかかげられたはずなのだ。  自分たちが東郷艦隊として 凱旋 できるか、 栗 田 艦隊として敗走するか、それは誰にも予想のできることではなかった。

例えがおじさんですね。いいでしょう。
Z旗とは、今あんまり聞かないですね。

日本では、旗に付けられた意味に因み(意味は後述)、スポーツ競技の応援や、選挙・受験など、負けられない勝負に挑む時、「勝利」を祈願して用いられる場合もある。

wikipediaより

へー。Z会って有名な学習塾もありましたが、そういう意味なんでしょうか。知らなかったな。下手したらドラゴンボールも?そうなのかしら。

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