『白昼の死角』の登場人物の胆力

夭折した天才の描写がわりと好み。

位置: 1,408
そこには常人ならばとうてい筆にはできないような、赤裸々な性交の描写があった。性交、 手淫 の回数までが克明に記録されていた。一人の女の肉体を、ほかの女の肉体と比較し、自分のそれに対する反応を、精細に描写していくその文章には科学者のように冷静な客観もなく、文学者のように情熱的な主観もなく、ただ恐ろしい悪魔的な自己陶酔があるだけだった。

位置: 1,418
「週一回は有閑日として、友人と無意味な話をするのもよかろう。だが、少なくとも性欲日としては、週に五日をあてる必要がある……」 「いちばん厄介なことは、彼女が僕に 惚れているらしいことだ。どうして、女というものは、性欲の処理と恋愛の感情を、はっきり分離できないのだろう……」 「私はなんのために生きているのか?  死ぬ必要と死ぬ機会がないからこうして生きているのだ。  いつでも自殺していいし、またいつ死神が訪ねてきても、こころよく死のうと日々新たに思いきめつつ、せめてもの退屈しのぎを見つけて生きているだけだ。それは何かといえば真理の探求である。  真理――それは決して学問の世界だけにあるものではない。女性獲得の方法にも、黄金獲得の方法にも必ずどこかに絶対的な真理はひそんでいるはずだ……」

天才・隅田光一の日記の描写。昔の人は本当に日記をよく残すよね。みんな日課だったんだろうな。今の人もそうなのかしら。あたくしはブログが日記かわり。

今で言うなら恋愛を工学的に考えるってやつかね。どっちにしろ、あたくしにゃ傍から狂気を楽しんでいるくらいがちょうどいい付き合い方ですな。

位置: 1,439
僕はヒットラーという男は大きらいだが、それでも彼が今度の戦争で、最も偉さを発揮したのは、バドリオによって、アルプスの山中のどこかに幽閉されたムッソリーニを飛行機で助け出したことだったと思うな。

なるほど、そんなことがあったのか。ヒットラーの話はそれほど詳しく読んだことがないね。よく考えりゃ。一度読んでみたいものだ。

位置: 1,539
なら、『犯意ナキ行為ハコレヲ罰セズ』という刑法の大原則によって、無罪の判決が下ることは明らかなことだった。  これは隅田光一が、六法全書と判例集を 微 に入り 細 をうがって調べあげた結果、発見した一つの法の盲点だった。

モデルとなった光クラブ事件もそんなんだったんかな。法の盲点を付いたという点では似通っているのか。どちらにしても知らないことが多い。

位置: 1,577
「わたしの気持ち? これを見て」  綾香はさっと浴衣の左の袖を肩口まであげて見せた。そのとたんに七郎も息をのんだ。  いつのまに彫ったかしれないが、その左の二の腕には、「七郎いのち」という青い 刺青 が浮かんでいたのである。

必死なんだろうけどね。ちょっと読んでて笑ってしまいました。入れ墨に意味があると思っている人との価値観の相違は埋まらないような気がする。

位置: 1,704
もちろん、それは道徳的にとがめられるべき行為だったに違いない。だが、七郎はこういうことを考えながら、それほど良心の 呵責 を、感じたわけではなかった。  そういう意味では、彼もたしかに、典型的な戦後派青年の一人だったに違いない。  戦後派――アプレ・ゲールの道徳観の喪失は、多くの人びとの眉をひそめさせたものだが、その遠い原因の一つは彼らの成長した時代の社会環境なり教育方針なりにあったということは、今日ではもう定説となっている。

昭和50年台生まれとしては、あんまり戦前とか戦後とかピンとこねーのよね。新人類ですらないのか。いまでいう「ゆとり」とかと同じ、価値観の相違をひとまとめに世代の違いに預けた言葉なのかな。

位置: 1,741
「まあ、僕がいろいろ法律の問題を調べてみたところでは、このままでいったら、僕たち四人が、詐欺で起訴されることだけは、ぜったいに間違いがなさそうだ。まあ、これからの方針は、この現実を頭にたたきこんで、覚悟をきめることから出発するのだね」
「それで?」
「どうせ、そういう運命になっているものなら、毒をくらわば皿までで、ほんとうに詐欺をするんだよ。しくじったところでもともとだ。うまくいって、ここで百万の金ができたら、両方の罪がいっしょに逃げられる。たしかに一か八かの非常手段だが……」

毒を食らわば皿まで、ね。その胆力。すげぇ。
泥棒の話は多少でも泥棒根性がなけりゃ演れないといいますが、小説家ってのも大変な仕事ね。詐欺師の了見てやつを、持ってるんだろうね。

位置: 2,168
「真珠湾 で成功した戦法はミッドウェイでは失敗したということさ。詐欺で失敗する人間は、一回の成功に 有頂天 になってしまって、おなじ手を二度三度とくり返すからなんだ。

これは今でも同じことがいえるのかもね。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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