『スティル・ライフ』 春樹のようで春樹でない

この文体とやれやれ系主人公感、春樹的としか思えませんでした。

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「大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と、きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること、一歩の距離をおいて並び立つ二つの世界の呼応と調和をはかることだ。
たとえば、星を見るとかして。」

ある日、ぼくの前に佐々井が現れてから、ぼくの世界を見る視線が変わって行った——。
科学と文学が溶け合い、人と世界の関係を鮮やかに詩的に描く、永遠の名作。中央公論新人賞、芥川賞受賞作。

最近、村上春樹を読んだからでしょうか。
どう解釈しても春樹的としか思えませんでした。佐々井=鼠みたいな、ね。バーもジェイズ・バーみたいだし。

舞台は湘南ぽいどっか。主人公は若い男。やたらとバーに行ってビール飲んで淡白な生活を送っているあたり、すごく春樹チック。株やって星観てビール飲んで、みたいな生活。すごい無機質。

位置: 121
人間は二種類に分類されるんだ。染めあがりの微妙な違いをおもしろがるのと、腹を立てるのと。ぼくがこれから応用化学を勉強して、染色の専門家になるっていうのはどうだろう」
バーテンがこちらを見て、佐々井のグラスを指さした。ほとんど空になっていた。佐々井は頷いた。何杯目かのバーボンが注がれた。 「本気なのかい?」と彼はぼくの方に向き直って聞いた。 「いや、本気じゃない。ぼくはいつも計画だけなんだ。計画は山ほどある。寿命が千年くらいあったら、はじから実行に移す。千年ない時には、よく考えて選ぶ」

翻訳チックというんでしょうか。ただ主人公の行動がクリソツ。どちらも理解不能というかまるでシンパシー感じないというのも一緒ではあります。

『風の歌を聴け』とか『ピンボール』あたりの感じかな。物語としてはこっちのほうが面白いかも。

位置: 481
今であること、ここであること、ぼくがヒトであり、他のヒトとの連鎖の一点に自分を置いて生きていることなどは意味のない、意識の表面のかすれた模様にすぎなくなり、大事なのはその下のソリッドな部分、個性から物質へと還元された、時を越えて連綿たるゆるぎない存在の部分であるということが、その時、あざやかに見えた。ぼくは数千光年の彼方から、ハトを見ている自分を鳥瞰していた。

このあたりは春樹よりよっぽどロマンチストではありますが。自然科学的な知識がお有りなんでしょうね。何だか無機質なロマンを感じます。新房監督とかで映像化したら面白そう。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』