『あやかしがたり』は本当にライト

敬愛するTwitterの方のおすすめだったので試しに読了。
時代小説をライトノベル風の味付けにするとこんな感じ、という典型的なもの。
個人的には「だったら藤沢周平読むわ」以上のものでは無かったんですが、それはあたくしが35だからか。

渡航先生、ラノベ原作のアニメをきっかけに知り、ついでに数本読んだ感じだと「ラノベ界では最も文芸に近いレベルにいらっしゃる方」というのが率直な気持ち。ただ、どうしてもキャラクターがテンプレートになるのよね。

本作もそう。どこまでもキャラクターがテンプレート。独自の苦悩やら成長譚、戦う理由までまるごとテンプレートという印象。ライトノベルってそういうジャンルなのかしら。大喜利?

位置: 1,379
「おっ、おい、ばか、泣いてんじゃねーよ」
新之助はどうしていいかわからずに、ましろの頭を 撫でて、髪をくしゃっとする。それでも、全然泣き 止まないから少しだけ力を込めてぐちゃぐちゃにした。
すると、ぴょこっと三角形のものが二つ出てきた。
「ぷっ、くくっ、っぁあはははっ!」
それをくいっと引っ張って見る。
「いたたた」
「なんだこれ?」
ましろは上目遣いで新之助を見ながらぽそっと 呟く。
「…………耳」
「ぐっ、なはははぁっ! すげーな、おいっ! 本物かよっ!」
新之助はその柔らかい物体をくいくい引っ張ったり、指で 弾いたりして 弄んでいる。 「むぅ、なんなのよぉ!」
ましろは 頬を膨らまして、胸をぽかぽか 叩いて抗議するが、新之助は笑ってまるで取り合わない。それからしみじみと言う。
「お前、ほんとに化け猫なんだなぁ」

「ぷっ、くくっ」というセリフで笑いを表すの、どうにも馴染めないんですよね。

位置:2,253
新之助は神や仏を信じない。幼い 頃、あれほど祈っても願っても救いなど与えられなかった。だから、神仏の与える運命なんて、信じるに値しない陳腐なものだ。
新之助にとって運命とは、人生の過去も未来も見通し、その一連の流れの中に身をおく決断をすること。
それが「運命」。
結果論でしか物を語らない連中が自己正当化のために持ち出す「運命」とは違う。
彼らの言う「運命」は、それがあれば 諦めることが出来る、自分が逃げたことを悟られない、そのための装置でしかない。

書かれている内容は相変わらずエモくて流石。
あたくしが中高生のころ読んだら感情をわしづかみにされてるんだろうなーと思います。

位置: 3,690
何故、何故、新之助がこんな目にあわなければならないのか。
普通の暮らしをさせてやりたかった。平凡でも退屈でもいい。ただ安全で健康に生きて欲しかった。子の 為 を思えばこそ、家名を保つことに心血を注いできたのだ。 「親父。今のうちに 俺 を勘当しとけ。 連坐に問われちまう」
なのに、新之助は笑って父の手をぽんと 叩く。
それで、元之丞の手は 解けてしまった。何を言っても、きっとこの 息子 は止められないと悟ってしまったのだろう。だが、言っておかねばならない。
「馬鹿者……。お前は言うことをきかぬのに、何故儂がお前の言うとおりにせねばならんのだ……この、馬鹿息子めが」
元之丞は顔を見せまいと後ろを向いた。 「貴恵 には 風呂 と飯の支度をさせておく」
それ以上は何も言わなかった。

親子の絆のシーン。
逆にここはポップでよろしい。変に重々しくなるよりもこのほうが馴染む。

位置: 3,855
少女は苦しげな表情を浮かべてから、がくっと伏せて動きを止めた。
ゆらっと、音も気配も立てずに黒い少女は立ち上がる。その姿を幽鬼と評するには邪悪すぎ、鬼神と評するには 禍々しすぎた。

幽鬼は邪悪で、鬼神は禍々しいものなのか。
言葉遊びのような気もするけど、リズミカルなので気持ちいい。

位置: 4,017
雲のない空、 冴え冴えと光を放つ月は二つの影を浮かび上がらせる。
白い髪は月光に煌めき、 金紗のように目映い。
黒い髪は月光に 濡れて、黒曜のごとく美しい。

位置: 4,437
刀の嘶きは声に非ざる声となり、新之助の耳朶を打つ

これがデビュー作?ってんだからすごい。どこでこんな言葉覚えたのかしら。
才能だなー。

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