ミヒャエル・エンデ著『モモ』感想 これ「大人が読ませたい」児童文学でしょう

今風に言うなら、タイパなる言葉への反論にはなりえるんでしょうが、一方で程度問題な気もします。

時間どろぼうと,ぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子モモのふしぎな物語.人間本来の生き方を忘れてしまっている現代の人々に〈時間〉の真の意味を問う,エンデの名作

言いたいことは分かるけど、やっぱり時間は有限だから「時は金なり」ってのも真理だと思うんですよ。
つまり、タイパよく生きるって発想自体は大切だと思います。一方で、パフォーマンスってやつはすぐには結論付けられないものも多くて、「今のタイパ判断は間違っているかも」という認識は必要だとは思う。本編には関係ない話ですね。

6章 インチキで人をまるめこむ計算

位置: 3,454
時間をケチケチすることで、ほんとうはぜんぜんべつのなにかをケチケチしているということには、だれひとり気がついていないようでした。

児童文学者が好きそうな文章だ。

「ほんとうは」という部分にあたくしは欺瞞を感じますよ。
「いっぽうで」くらいにしておいたほうがいいんじゃないかな。

位置: 3,462
けれど時間とは、生きるということ、そのものなのです。そして人のいのちは心を住みかとしているのです。
人間が時間を 節約 すればするほど、生活はやせほそっていくのです。

前半はその通り。後半は反駁したいね。
じゃあ車乗るなよ、インスタント食品食うなよ、メール使うなよ、になる。

やっぱり、自分のリズム・ペースで時間を使う、というのが何より大事だとは思いますね。

13章 むこうでは一日、ここでは一年

位置: 7,992
おまえがどうしてもと言うのなら、 英雄 を気どったあげく身をほろぼしたって、われわれはかまいはしない。だがな、それほど 恩知らずのやつに、われわれがそのさきも 援助 の手をさしのべるだろうなどと、 期待 してくれてはこまるぞ。どうだね、金もちで 有名 だってことのほうが、ずっといい気分じゃないか?」

承認欲求ってのはどの時代も厄介だね。
ジジにとっちゃ、これに反抗するのは無理だろう。

自分の才能に自信がないと、これを跳ね返すのは難しいでしょうね。それだけ、金持ちで有名ってのは、抗いがたい魅力がある。

位置: 8,568
「ひとりでほうりだされっぱなしの子どもがどんどんふえているのは、こまったことだ。親をせめるわけにはいかん。なにしろ 現代 じゃ、子どもをじゅうぶんに世話してやれるだけの時間が、親にはないんだからな。だが 市 当局 は、そのための 対策 を考えねばならん立場にあるはずだ。」

身につまされる思いであります。

親にだって、色々あるからね。うちの妻もやっぱり承認欲求に取り憑かれて、子どもにYouTubeみせながら自分は好きなことしています。子どもを世話するより、自分の成長が第一なんでしょうね。妻に読ませたいなぁ、本著。

位置: 8,658
そこで 各 地区 ごとに、〈子どもの家〉と 呼ばれる 施設 がたてられました。大きな 建物 で、めんどうを見てくれる人のない子どもはぜんぶ、ここに 収容 されなくてはいけないことになり、親が手のあいたときに家につれてかえります。子どもが道路や 緑地 そのほかで遊ぶことは、 厳禁 になりました。そういうところを見つかったりすると、たちどころにちかくの〈子どもの家〉につれてゆかれてしまいます。そして親は、さだめられた 罰金 を 払わなければなりません。
モモの友だちとても、この新しいきまりからのがれられませんでした。みんなはそれぞれの住む 地区 にしたがって、べつべつに〈子どもの家〉にほうりこまれました。こういうところでなにかじぶんで遊びを 工夫 することなど、もちろんゆるされるはずもありません。遊びをきめるのは 監督 のおとなで、しかもその遊びときたら、なにか役にたつことをおぼえさせるためのものばかりです。

学校教育などの否定ですね。児童文学者がやりそうなことだ。
その学校教育のお陰で文字が読める子どもが多いというのに。

悪いところもありますが、基本的に学校教育は大切。

15章 再会、そしてほんとうの別れ

位置: 9,453
ジジはくらい目つきでフロント・ガラスのむこうを見つめました。
「いまぼくにできるたったひとつのこと それは口をとざすこと、もうなにも物語らないこと、のこりの人生をずっと、それともせめて、ぼくがすっかりわすれられて、また 無名 のまずしい男になりきってしまうまで、だまっていることだろうね。だが、 夢 もなしにびんぼうでいる —–いやだ、モモ、それじゃ 地獄 だよ。だからぼくは、いまのままのほうがまだましなんだ。これだって地獄にはちがいないけど、でもすくなくともいごこちはいい。

ジジの気持ち、ちょっと分かる。欺瞞でも偽りでも、居心地の良さってのは手放せないよね。人間そんなもんだ。そのためなら多少の悪だって目を瞑れる。ジジはいい。落語的。

19章 包囲の中での決意

位置: 10,886
いいか、おまえのしなくてはならない仕事は、もっとずっとむずかしいんだよ! 灰色の男たちが時間のとまったことに気がついたら—– すぐに気がつくだろうよ、 葉巻 の 補給 がとまってしまうからね——そうなったらすぐやつらは 包囲 をといて、 時間 貯蔵 庫 にかけつけるだろう。おまえはそのあとをつけるのだ、モモ。そしてそのかくし場所がわかったら、こんどはやつらがたくわえておいた時間を取りだせないように、じゃまをしなくてはいけない。

この葉巻ってのは何なんだろうね。ファンタジーすぎて想像がつかない。葉巻がないと灰色の男たちは死んでしまう。

本当はここが、この本で一番具体的なところであってほしかった。具体的にどうすれば、時間の支配から逃れられるのか。それが葉巻の補給を止めること?

21章 おわり、そして新しいはじまり

位置: 11,694
カシオペイアもカシオペイアなりに、おおいに 奮戦 しました。むろん足はのろいですが、 追手 がどこにくるかがまえもってわかるので、その場所にさきまわりして道のまんなかにがんばっていれば、 灰色 の男はけつまずいてころび、あとからきたものがさらにそのうえにたおれるというしだいです。こうしてカメはなんども、もうすこしでつかまるところだったモモをすくいました。もちろんカシオペイアじしんも、けっとばされたいきおいで、ふっとんで 壁 にぶつかることもしばしばでした。それにもめげずカシオペイアは、じぶんで 未来 を 予見 しては、そのとおりのことをやりつづけました。

カシオペイア大活躍。
ここはエモいね。あたくしが亀好きというのもありますが、ぐっとくるものがある。


まとめ

有名な本ですが、子どもがこれを読んでありがたく思えるかどうかね。
時間の有限さを痛いほど知っている大人のほうが、よっぽど共感できる気がしますけど。

少なくとも、あたくしはこどものころ読んでもピンと来なかったなぁ。今?今はぐっときてる。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする