『阿Q正伝』にみる、悲しき書生魂 1

受験生の頃読んだから、かれこれ20年くらいになりますか。

久々に読んでみました。
相変わらず魯迅さん面倒くさくて良い。

久しぶりに再会した幼なじみは、かつて僕の英雄だった頃の輝きを失っていた……切なさと次世代への期待に溢れる「故郷」。定職も学もない男が、革命の噂に憧れを抱いた顛末を描く「阿Q正伝」。周りの者がみな僕を食おうとしている! 狂気の所在を追求する「狂人日記」など、文学で革命を起こした中国現代文学の父、魯迅の代表作『吶喊』『朝花夕拾』から16篇を収録。

確か世界史の先生に「すぐ読めるよ」って言われて読んだんだっけな。当時からなんだかぼんやりと面白かった気がします。

あれから20年、改めて読むと、やっぱり面白い。書生気質ですよね。

位置: 798
第一に文章の題名である。孔子 曰く「 名 正しからざれば 則 ち 言 順 わず」と。これはもとより要注意とすべき点である。伝記の題名は数知れず、列伝、自伝、内伝、外伝、別伝、家伝、小伝……、しかも惜しいことにすべて不適切だ。「列伝」とするにも、この一篇が「正史」において有名人たちと並ぶわけではないし、「自伝」とするにも、僕は阿Qではない。「外伝」と言うのなら、「内伝」はどこにある?
仮に「内伝」としようにも、阿Qは神仙でもない。「別伝」とするにも、大総統が国史館に阿Qの「本伝」作成を命じたことなどあろうはずもない──イギリスの正史には「博徒列伝」などないというのに、文豪ディケンズが『博徒別伝』という本を書いたのは、文豪であるから許されるのであり、僕のような者には許されないことだ。その次は「家伝」だが、僕は自分が阿Qと同族か否かを知らず、彼の子孫の依頼を受けたわけでもなく、「小伝」とも思ったが、阿Qにはほかに「大伝」があるわけでもない。要するに、本作は「本伝」となるところだが、自分の文章を考えると、文体が卑しく、「車を引きて豆乳を売る 輩」が話すような言葉で、とても「本伝」は使えず、そこでまともな人とはみなされなかった小説家のいわゆる「閑話休題、 言帰正伝」という決まり文句から、「正伝」の二文字を取り出し、題名とするのだが、昔の人が書いた『書法正伝』の「 正伝」と紛らわしいが、そこまでは面倒見きれない。

ずっと「何いってんだ?」が続きます。
とにかく小物感が伝わっていい。

悲しき書生「にしかなれなかった」魂がここにある気がします。森見登美彦氏あたりにも通じるかな。

位置: 906
阿Qは「昔は金持ち」で、見識豊か、しかも「働き者」なので、本来は人としてほとんど「完璧」なのだが、惜しいことに体質上の問題があった。いちばんの悩みは頭の地肌にあり、いつのころからか 疥癬 あとのハゲが幾つもできていることだった。これは阿Qの身体の一部とはいえ、阿Qの考えによれば、やはり高貴なものとは思えぬようすで、それが証拠に彼は「ハゲ」という言葉とそれに近い発音をすべて忌み嫌ったので、しまいには禁句の範囲を押し広げて、「光る」もダメ、「明るい」もダメ、さらには「灯り」や「ロウソク」までもが禁句となった。ひとたびその禁句を口にする者がいれば、わざとであろうが知らずであろうが、阿Qはすべてのハゲを真っ赤にして怒り出し、相手を見て、口べたなら怒鳴りつけるし、弱そうなら殴りつけるのだが、どういうわけか、いつもたいてい阿Qの方がやられてしまうのだ。

まるで落語の猿後家ですね。
ハゲの人が「俺はハゲてない。髪の毛が薄いだけだ」と言っていましたがそれを思い出しました。幸い、あたくしはまだ毛髪だけはあります。チビだしデブですけどね。リーチかかってる。

位置: 962
だが彼はただちに負けを転じて勝ちとした。彼が右手を振り上げ、力いっぱい自分の顔を二、三発殴ると、カッと熱い痛みが走り、その後には、気持ちも落ち着いてきたのは、殴ったのは自分で、殴られたのはもうひとりの自分のようだが、やがて自分が他人を殴ったかのような気持ちになったからで──まだカッと熱い痛みが残っていたのだが──阿Qは満足し勝利の凱歌とともに横になった。  こうして彼は眠りに入ったのである。

己を殴って勝った気になる。
おめでたいが、それをあざ笑う気にもなれない。人間誰しも、そういうところあるからね。

位置: 990
このヒゲの 王 は、ハゲにしてヒゲがあるので、他人はハゲヒゲの 王 と呼んでいたが、阿Qはハゲという一句を削除しており、それにもかかわらずこの男をひどくバカにしていた。阿Qの考えによれば、ハゲというのは奇とするに足らざるものの、このもじゃもじゃのヒゲだけは、あまりに突飛で、とても見られたものではない、というのだ。

この目くそ鼻くそ感。
しかし阿Qを笑う気にはなれない。共感すら感じる。徹底的に弱いものの側なんですよね、あたくし。視点が。

位置: 1,011
阿Qは彼が逃げ出すだろうと思い、飛びかかって一発お見舞いした。だがその握り拳が相手に届かぬうちに、ヒゲの 王 に取られてしまい、グイッと引っ張られたので、阿Qはヨロヨロと倒れかかり、たちまちヒゲの 王 に弁髪を摑まれ、壁まで引きずられいつものように頭突きをさせられそうになった。 「君子は口を動かすとも手は動かさず!」阿Qは首をねじってこう言った。
ヒゲの 王 は君子にあらざるようすで、聞く耳を持たず、続けざまに五回も阿Qの頭を壁に打ち付け、さらに思い切り阿Qを二メートルも突き飛ばしたのち、満足そうに去っていった。

そして阿Qはとても弱い。
強いものにはへつらい、弱いものには容赦ない。そしてその弱いものにすら負ける。これが彼。そのメンタリティはもう、もう、もう。

続きます。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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