『ハガキ職人タカギ!』感想② ちょうどいい味付け #ハガキ職人

ちょうどいいんですよ、物語として。

ハガキ職人をやってた(というかハガキ職人を名乗ったのは最近で、昔は仲間だけでこっそりやってたし職人の自負などサラサラなかった)青春を送った人間なら誰しも分かるんじゃないですかね。いや、誰しもは嘘だな。

同じラジオが好きでも、全然話の合わない人とか沢山いるし。

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「二位だって。ほら」  驚いて、渡された用紙を見る。確かに一位と僅差の二位で自分に票が入っている。集計表の下に重ねられた投票用紙の備考欄には、丁寧な評価が書かれていた。 『十代なのに引き出しが多い。回答率は少ないが冷静に笑いをとりに来る』 『ラジオでの長文のクセがあるみたいなので、短文でバシッと決められるようになったら大喜利向きに化けそう。今後の期待も込めて一票』 『ウェルカムフルーツでやられた』  結果が二位だったことよりも、そのひとつひとつの言葉が嬉しかった。今までやってきたことを肯定されたような 清しさで胸が満ちる。

眼の前で、自分のネタでウェーブが起こる快感というのは、他じゃ味わえないんですよ。落語もそう。そういう意味じゃ、あたくしは落語に救われたな。落語がなかったらまだハガキ職人を続けて沼に嵌っていたかも。

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「彼、アニラジでしょ」  引っかかる言葉だった。明らかに小馬鹿にした物言いだ。  アニメラジオのハガキ職人は職人じゃないとでも言いたいのだろうか。俺はその考えには賛同できない。  職人は番組で優劣が決まるわけではない。最終的にそいつがどれだけ面白いか。それだけだろう。確かにグルッペさんは二問目で苦戦していたが、職人にも得手不得手なジャンルというものはある。

あたくしもラジオが好きになったのは『佐竹・林原の無法塾』からで、全然西友とか格闘技とか好きじゃなかったのに聞いて、それからどんどんアニメに嵌っていった的なところがあるので、この下りは聞いていて痛い。TBSやオールナイトだけがラジオじゃなくて、ちゃんと文化放送もあるんです。文化放送は落語も凄いし。

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「ざっくり言うと、オフの人間関係が原因てとこかのう。ボルマークさんは、こがなことが煩わしくて表に出てこんのかもな」 「そうなん」 「ラジオを純粋に楽しむって点で、その姿勢が正しいかもなあ。あ、でも、他の曜日には投稿続けるけぇ」 「高木君は──ガルウィングさんは、自分のネタで誰も傷つけとらん思う?」 「……え」  俺は、榊さんの言葉の意味が分からなかった。  榊さんはかき氷を飲み干すと、ベンチから立ち上がった。そろそろ休憩時間が終わるようだ。

もしあたくしが共学に行っていたら、こんな会話をクラスメートの女子としていただろうか。バラ色だな。そして榊さん、ブスかも知れないけど、可愛い。

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つまり、榊さんは「自分の悩みを吹っ飛ばすくらい笑えれば良し」と言っているのだ。それがたとえ、自分をネタにしたコーナーであろうと。  だが、それが笑えなかった時は。  すうっと背筋が寒くなるのを感じた。榊さんは笑っている。 「綱渡りじゃね。毒 吐けばええと軽く見とる人は綱から落ちる」 「シャッチョさんは」  榊さんは笑っている。

「イジり」と「イジメ」は紙一重ってね。人を蹴落とした笑いというのは質が悪いです。肝に銘じなくては。

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「高木君は高木君の好きなようにすればええか。人それぞれじゃもんねえ」  微苦笑する榊さんを見て、俺はなぜ彼女が美少女ではないのかと失礼なことを考えていた。これで榊さんが美少女だったら、間違いなく恋に落ちているのに。女子の家に来ているという点は、俺にとっては奇跡なのだが。

愛した人がブスだった、という論理が成り立たないのが童貞で中学生ですよね。分かります。ブスだと愛せないわけですよ。

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「ハガキ職人てなんなんじゃろね」 「え」 「給料が出るわけやないし、自分で職人言うんも何か違う気がするし、作ったネタが後世まで語り継がれるわけでもないし、パーソナリティに町ですれ違うても挨拶もされんよ、きっと。まず顔が分からんじゃろし」 「うん」 「けど」  僅かに 灯されていた照明がふっと落ち、緞帳がサーチライトに照らされた。皆がのろのろと体育座りをする。話の続きを促せるわけもなく、俺達もそれに倣った。

ほんに、なんじゃろか。
あたくしは、一体、なんであんな不毛なこと、金を払ってしていたのだろうか。謎である。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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