『刺青殺人事件』 神津は好かんが作品は凄い

日本三大名探偵の一人、神津恭介の登場作です。しかし、この「三大○○」って誰が決めてるんですかね。

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野村絹枝の背中に蠢(うごめ)く大蛇の刺青。艶美(えんび)な姿に魅了された元軍医・松下研三は、誘われるままに彼女の家に赴き、鍵の閉まった浴室で女の片腕を目にする。それは胴体のない密室殺人だった――。謎が謎を呼ぶ事件を解決するため、怜悧にして華麗なる名探偵・神津恭介(かみづきょうすけ)が立ち上がる! 江戸川乱歩が絶賛したデビュー作であると同時に、神津恭介の初登場作。

どうでもいいけど、明智小五郎・金田一耕助らの不潔で狂人じみたイメージとは反対で、神津恭介はスーパーマンなのが気に入りませんね。
長身の美男子で、6カ国語に長け、学生時代に発表した論文により「神津の前に神津なく、神津の後に神津なし」と評された天才で、おまけにピアノの腕前もプロ級。

正直、そんな人間に出来ないことなんかないだろ、密室殺人も解決できて当然だろ、くらいに思ってしまい、ハラハラドキドキはあまりしません。
感情移入も出来ませんし、なんだったら誰かこいつの鼻を早く明かしてやってくれとすら思います。

作品自体はとてもうまく出来ていて、犯人がすぐに分かることを除けば、傑作です。
坂口安吾は不満だったようですが。

読者諸君、私はいま諸君に対して挑戦する。私はこれまで、捜査当局の知り得た以上の資料を、もらさず諸君の前に提供してきた。その材料はさらにこの数枚の覚え書に要約されている。  あらゆる資料は提供された。諸君に眼光紙背に徹する洞察力がありさえすれば、太陽が地球のまわりを動くのではない、地球が太陽のまわりを運動するのだ――と言いきるだけの勇気があれば、精緻をきわめた犯人の完全犯罪の計画は、たちどころに瓦解するはずなのだ。事件の秘密も、犯人の名も、即時に見やぶれるはずなのだ。

この“読者への挑戦状”ね。いい気風です。
あたくしにゃトリックはさっぱりわからなかったけれども。

もはや、その身を蔽うものは、外国婦人の最新型の海水着をまねて仕立てさせた、切り込みの深いズロースだけだった。  もちろん、背中は自分の眼には見えなかった。ただふっくりと脂ののっているはちきれそうな両方の乳房が、興奮に彩られ、かすかに波打つのを感じて、絹枝は背中の大蛇丸も人々の視線を恥じて頬をそめ、大蛇も蠢動しはじめたことを悟った。  静まり返った会場から、どっと喚声がわき上がった。そのざわめきから、きょうの女王は自分をおいてほかにはないと悟った絹枝は、昂然と眉をあげ、五人の審査員たち、そして参観者たちを見まわした。

女性の裸に大きな大蛇の刺青。
これをエロいと言わずしてなにがエロいか。
谷崎の『刺青』を読んで下半身のエレクトが止まらなかった中学時代を思い出します。

リンク先より引用

日本本国において、「文明人ニ対シテ恥ズカシキ行為」であるとして、法律で厳禁された刺青が、この皇太子を契機として広く欧米先進国の各王室に流行しはじめたことは、皮肉ともなんとも言えぬことである。日本刺青の芸術性を最初に理解したのは、浮世絵などと同じく、当の日本人ではなく、この国を訪れた外国人なのであった。

先日観てきた『春画展』に通ずるものがありますな。
日本人の美徳であり欠点でもある謙虚さは自虐と一体ですから。

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