『コンビニ人間』感想 1 確かに芥川

純文学の新人に与えられる賞が芥川賞だとすると、妥当な気がします。あの『或る小倉日記伝』も芥川賞ですし。

「普通」とは何か?
現代の実存を軽やかに問う第155回芥川賞受賞作

36歳未婚、彼氏なし。コンビニのバイト歴18年目の古倉恵子。
日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、
「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる――。

「いらっしゃいませー!!」
お客様がたてる音に負けじと、今日も声を張り上げる。

ある日、婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて、
そんなコンビニ的生き方は恥ずかしい、と突きつけられるが……。

累計92万部突破&20カ国語に翻訳決定。
世界各国でベストセラーの話題の書。

単なるADHD的日記です。それがとてもリアルで心に来る。
あたくしも、診断こそされていませんが、場面場面ではそういう振る舞いをすることがあって、無自覚なのですが、だからこそよく共感する。

位置: 105
「なんで、恵子にはわからないんだろうね……」
学校に呼び出された母が、帰り道、心細そうに 呟いて、私を抱きしめた。自分はまた何か悪いことをしてしまったらしいが、どうしてなのかは、わからなかった。
父も母も、困惑してはいたものの、私を可愛がってくれた。父と母が悲しんだり、いろんな人に謝ったりしなくてはいけないのは本意ではないので、私は家の外では極力口を利かないことにした。

やさしいなぁ、恵子さん。
わからないけど、わからないなりに、最適解を出そうとする。意外と出来ないもんよ。
そういう状況でも周りを気遣うことが出来るのは、本当に羨ましい。

位置: 302
二人が感情豊かに会話をしているのを聞いてると、少し 焦りが生まれる。私の身体の中に、怒りという感情はほとんどない。人が減って困ったなあと思うだけだ。

どこか他人事。それくらいのスタンスのほうが生きやすいと思うのは他人だからなんだろうけど。普通になりたいんだよね、恵子氏。

位置: 308
同じことで怒ると、店員の皆がうれしそうな顔をすると気が付いたのは、アルバイトを始めてすぐのことだった。店長がムカつくとか、夜勤の誰それがサボってるとか、怒りが持ち上がったときに協調すると、不思議な連帯感が生まれて、皆が私の怒りを喜んでくれる。
泉さんと菅原さんの表情を見て、ああ、私は今、上手に「人間」ができているんだ、と安堵する。この安堵を、コンビニエンスストアという場所で、何度繰り返しただろうか。

あの連帯感に心地よさを覚える気持ちは分からなくはない。しかししがみつく程でもないと思うのはあたくしだけなのかしら。恵子氏とあたくしは同じ年くらい。進むベクトルが逆ですね。あたくしは自分の生きたいようになるべく生きるように心がけてます。
空気読んでも疲れるからね。

位置: 341
「前はもっと、天然っぽい喋り方じゃなかった? 髪形のせいかな、雰囲気違って見える」
「えー、そう? よく会ってるからかな、ぜんぜん変わんない気がするけど」
ミホは首をかしげたが、それはそうだと私は思った。だって、私の摂取する「世界」は入れ替わっているのだから。前に友達と会ったとき身体の中にあった水が、今はもうほとんどなくなっていて、違う水に入れ替わっているように、私を形成するものが変化している。

カメレオンのように擬態して、それをひたすら繰り返す。
その方が辛いけどね。辛さを感じないタイプの人なんだよね、恵子氏。

位置: 388
性経験はないものの、自分のセクシャリティを特に意識したこともない私は、性に 無頓着 なだけで、特に悩んだことはなかったが、皆、私が苦しんでいるということを前提に話をどんどん進めている。たとえ本当にそうだとしても、皆が言うようなわかりやすい形の苦悩とは限らないのに、誰もそこまで考えようとはしない。そのほうが自分たちにとってわかりやすいからそういうことにしたい、と言われている気がした。
子供の頃スコップで男子生徒を殴ったときも、「きっと家に問題があるんだ」と根拠のない憶測で家族を責める大人ばかりだった。私が被虐待児だとしたら理由が理解できて安心するから、そうに違いない、さっさとそれを認めろ、と言わんばかりだった。

人は常に見たいものを見て信じたいものを信じる。カエサルの言葉ですがまさにそう。多かれ少なかれ、見たものを解釈しやすい方に曲げたくなるもんです。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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