『雪の鉄樹』 ちょっと露悪的過ぎやしません?

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暗く重く、ただひたすら真っすぐな話。

祖父と父が日々女を連れ込む、通称・たらしの家で育った庭師の雅雪は、20歳の頃から13年間、両親のいない少年・遼平の面倒を見続けている。遼平の祖母から屈辱的な扱いを受けつつも、その傍に居るのは、ある事件の贖罪のためだった。雅雪の隠してきた過去に気づいた遼平は、雅雪を怨むようになるが……。愛と憎しみの連鎖の果てに、人間の再生を描く衝撃作。本の雑誌『おすすめ文庫王国2017』第1位!

マツオさんのオススメ。
とにかく恵まれない立場の主人公が奮闘する話なんだろ、とたかをくくっておりました。実際そうなのですが、なかなかどうして、侮れない。

どうしてこんなに大変な家庭環境を設定する必要があるのか、作者の良識を疑いたくなるようなひどい状況。そこで、ただひたすらに一本気な主人公が出てきます。
『ひまわりっ』の健一を彷彿とさせる、朴訥・一本義な男。

こいつがすべての悲しみを一人で背負い込んで喜んでもがくような、ラノベ主人公気質なのです。キリストか、お前は。読んでいてイライラするくらいの背負いっぷり。
論理と実践は違うだろう、と叱りたくなります。

血縁者、恋人はもちろん、優しくしてくれた人、恋人の関係者、その他もろもろのすべての負の感情のサンドバッグになることで、すべてを上手く回そうと立ち回っているようにしかみえません。これが良識のある人間のやることでしょうか。

位置: 1,071
「曽我さん」酒井がすこし疲れた声で説明した。
「病室で島本さんの話を伺いました。はっきり言って、あなたの気持ちが届く可能性は低い。この先、たとえ十年、二十年、死ぬまで続けても同じことでしょう。犯罪被害者側は、あなたの想像以上に苛烈な感情を持ち続けるものです。時間など関係ない」
「でも、俺は償いをしなくてはならない。一生かかってもです。たとえわかってもらえなくてもいい。死ぬまでだって続けます」
「曽我さん、ですが、そういった考えは余計に被害者側に負担を……」

筆者もそれを分かっていて、ただ報われない半永久的な贖罪を主人公に続けさせる。もう止めさせてやれよ、雅雪のHPはゼロよ!と言いたくもなります。

位置: 1,642
「あんたの罪滅ぼしは間違ってる」黙ったままの雅雪にしびれをきらした原田が苛立たしげに声を荒らげた。

だからこそ、原田という良識人を登場させて気持ちを代弁させる。それでもそれを一向に受けようとしない雅雪。頑固、ひたすら頑固。しかも間違ったやり方に頑固。手に負えん。

位置: 2,672
慈愛と母性に満ちあふれた、と形容してもすこしも大げさではない。それほど女は美しかった。俺は完璧な乳房を想像した。この女は全身が乳房だ。なめらかで、まろやかな乳房そのものだ。きっと中には甘い乳が満ちている。どこまでも豊かで、どこまでも美しい。

一方で、全身が乳房、というような妖艶な表現も出てきて、これがまた本筋とのコントラストで気持ち悪いんだなぁ。良く出来てる。人を気持ち悪がらせるのがお上手。

位置: 4,514
「俺はゴードンが好きだった。急行だし、かっこいい」
「三十過ぎのオッサンの台詞とは思われへん」
「自分でもそう思う。だから、おまえには感謝してる。俺は自分が子供時代に経験できなかったことを、おまえの世話をすることで経験できた。おまえのおかげで、俺は子供時代をやり直すことができた」

そして再生の物語。
ふかーくふかく、読者を落としておいてすくい上げるわけで、そりゃ、震える気持ちにもなります。しかし、いささか露悪的に過ぎやしませんか。

位置: 4,901
命名の意味に気付かずに生きる、理解する必要がないというのは、自分の存在に疑問を持たないということだ。つまり、曽我造園で雅雪が祖父に関心を持ってもらえ、母に捨てられずに幸せに育つ、ということだ。  ばかばかしいことだ。だが、それほど父は寂しかった。生まれてくる息子に自分のような思いはさせたくない。ただ、それだけを望んだ。

そして父親は実はいいやつだった説。
ちょっと重箱の隅をつつくような話かもしれないけど、雅雪は予防接種をまるで受けていなかったという記述があるのですが、あれはおかしい。大体の予防接種は3,4歳までに受けちゃうので、雅雪が後継者指名される前、つまり父親の愛情が深かったはずの頃なんですね。それで予防接種を省かれたんだとしたら父親の愛情も随分と勝手だったって話になっちゃう。
どうでもいい指摘。

『リゼロ』のバルス君とか、そばにいる人間の不幸をほっとけずにガンガン首突っ込んじゃうじゃないですか。あれに近い感覚を覚えました。もうちょっと人間としてさ、距離の置き方ってあるじゃん、なんてね。
それがわからない、納得できないから大変なのか。うーん、難しい。

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都内在住のおじさん。 2児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』
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