『夜は短し歩けよ乙女』 何度目だろうか、読むの①

既に相当な回数読んでいますが、何回読んでも発見があって面白い。

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「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めた。けれど先輩の想いに気づかない彼女は、頻発する“偶然の出逢い”にも「奇遇ですねえ!」と言うばかり。そんな2人を待ち受けるのは、個性溢れる曲者たちと珍事件の数々だった。山本周五郎賞を受賞し、本屋大賞2位にも選ばれた、キュートでポップな恋愛ファンタジーの傑作!

最も好きな作家・森見登美彦さんの代表作。
個人的にも『太陽の塔』や『有頂天家族』に並ぶ好きな作品です。

「それにナオコさんと今さら顔を合わせて何を言うっていうんだ。あんな、惚れた男と結婚するような理屈の通らない女に、何を言ったって無駄でわないかそうでわないか」  掴みかかってくるその人を樋口さんがぽうんと突き飛ばすと、彼は座敷の隅へころころと転がっていき、「ふぎう」と呻いたきり動きませんでした。まるでトドが不貞寝しているようなその背中は哀れです。愛の告白に詭弁は通用しなかったものと思われます。
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擬音を使うのは作家として邪道、といったのは北方謙三氏だったかしら。
しかし、擬音を使うのも味だな、と思わせてくれるのが森見さん。

いいですね、「ふぎう」、ぽうん、いいじゃないですか。
何事もそう四角四面に考えると、ね。

料亭から先斗町へ出た我々は、北へ向かって石畳を歩きました。  見上げると左右に迫った軒に切り取られた夜空は狭く、そこへ電線がたくさん走っていました。料亭の二階には簾が下げられて、その隙間から酒席の明かりが洩れています。
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その料亭の三階の欄干へ足をかけて、東堂さんがまるで歌舞伎役者のように街路へ身を乗り出していました。彼は大見得を切る石川五右衛門のごとく深夜の先斗町を睥睨し、憤怒の形相で秘蔵の春画を破いては、腕をあらんかぎり宙へ伸ばし、鬼やらいのように紙片をまきます。
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我々を誘うように、竹林の中に提灯がぶら下がっていました。その奥に煉瓦造りの煤けた煙突が一本立っていて、そのわきに下へ降りる螺旋階段がありました。  そこを降りると、狭い三和土に出ました。  曇り硝子の嵌った引き戸を開けると、むわっと湯気が漂います。引き戸の向こうには櫓のような番台があり、真鍮の鍵がついた木製のロッカーが壁をふさぎ、簀の子を敷いた床には脱衣籠が並んでいます。
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改めて読むと、風景描写も見事です。

独特の世界観を維持しつつ、読者にそれを嫌味じゃなく伝えられる。筆の力ってんでしょうかね。漢字が多くても読みづらさを感じさせない(おい)のもチカラでしょう。いつまでも読んでいたい、と思わせてくれます。

感想が書き足りないので次回。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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