『それから』感想⑥ 何のための学問か #それから #夏目漱石

漱石も結構、愛に溺れている人を描くんです。
もしかしたらそれが人間のテーマだと思ってらっしゃったんじゃないかしら。
愛と革命のために生きる、とは太宰の弁だったかしら。

位置: 5,801
彼は自分と三千代の運命に対して、 昨日 から一種の責任を帯びねば済まぬ 身 になつたと自覚した。しかも 夫 は 自ら進んで求めた責任に 違いなかつた。従つて、それを自分の 脊 に負ふて、苦しいとは思へなかつた。その 重みに押されるがため、却つて自然と 足 が前に出る様な気がした。彼は 自ら切り開いた此運命の断片を 頭 に 乗せて、 父 と決戦すべき準備を整へた。 父 の 後 には 兄 がゐた、 嫂 がゐた。是等と戦つた 後 には平岡がゐた。是等を切り抜けても大きな社会があつた。個人の自由と情実を毫も斟酌して 呉れない器械の様な社会があつた。代助には此社会が今全然暗黒に見えた。代助は凡てと戦ふ覚悟をした。

腹をくくったニート。全てと戦う覚悟ですよ。
そんなん、ねーな。

位置: 6,040
彼は元来が 何方付かずの男であつた。 誰 の命令も文字通りに拝承した事のない代りには、 誰 の意見にも 露 に抵抗した試がなかつた。解釈のしやうでは、策士の態度とも取れ、優柔の生れ 付 とも思はれる 遣口 であつた。 彼 自身さへ、此二つの非難の 何れを 聞いた時に、 左様 かも知れないと、 腹の中 で 首 を 捩らぬ 訳 には 行かなかつた。然し其原因の大部分は策略でもなく、優柔でもなく、寧ろ 彼 に融通の 利く 両 つの 眼 が 付いてゐて、双方を一時に 見る便宜を有してゐたからであつた。かれは此能力の為に、今日迄一図に 物 に向つて突進する勇気を 挫 かれた。即かず離れず現状に立ち竦んでゐる事が 屢 あつた。此現状維持の外観が、思慮の欠乏から生ずるのでなくて、却つて明白な判断に本いて起ると云ふ事実は、 彼 が犯すべからざる敢為の気象を以て、彼の信ずる所を断行した時に、彼自身にも始めて 解 つたのである。

決めないツケが回ってきたっつーことか。決められないでいると大きな損失を被るという。
沈黙は金だが、言わないのも駄目だという。人生のさじ加減というのはまっこと、難しい。

位置: 6,108
代助は 昨日 の会見を回顧して、凡てが進むべき方向に進んだとしか考へ得なかつた。けれども恐ろしかつた。自己が自己に自然な因果を発展させながら、其因果の 重みを 脊中 に 負 つて、高い絶壁の 端 迄押し出された様な心持であつた。

自己の自然な因果を発展させるというのは同時に、自立するということですからね。風が起こっても立っていないといけない。

位置: 6,596
「矛盾かも知れない。然し 夫 は世間の 掟 と定めてある夫婦関係と、自然の事実として成り 上 がつた夫婦関係とが一致しなかつたと云ふ矛盾なのだから仕方がない。僕は世間の掟として、三千代さんの 夫 たる君に 詫 まる。然し僕の行為其物に対しては矛盾も何も犯してゐない積だ」

誠実というのは難しくて、己の心に誠実であるということがイコール世間のルール通りとはいかないことです。いや、むしろ行かないのが普通か。だから道徳に誠実というのは欲望に不誠実なわけか。むむ。人間というのはどこまでも利己的か。

位置: 6,882
「貴様 は馬鹿だ」と 兄 が大きな声を出した。代助は 俯向いた儘顔 を 上げなかつた。 「愚図だ」と 兄 が又云つた。「 不断 は 人並 以上に 減らず口 を敲く癖に、いざと云ふ場合には、丸で啞の様に 黙 つてゐる。さうして、 陰 で親の名誉に 関 はる様な 悪戯 をしてゐる。 今日 迄何の 為 に教育を受けたのだ」

教育を受けたのは何のためか。大学は出たけれど、ってか。難しいね。
学問のためか。

黄色のハイライト | 位置: 6,897
「門野 さん。僕は 一寸 職業を 探して 来る」と云ふや否や、 鳥打帽を 被 つて、 傘 も 指さずに 日盛りの 表 へ飛び出した。

門野にさん付けをして終わる物語。
最後は怒涛の展開ではあったが、全体をみるとなんてことはない、略奪愛の話です。
しかし、その細部があまりに良く書けているので怖い。

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